11話 救出作戦(2) 侵入
久しぶりに本編投稿です。ビーマイト側の銃の呼び方が独特ですが、気にしないでください。
衛星電話の画面に文字が表示される。日本政府からだ。
『明日早朝救出作戦を行う。救出部隊の指示に従い。救出時は広場を離れるな。その場の全員にこの情報を流すよう。』
橋田はこの情報を受け取ると大きく一回深呼吸した。ようやく解放される。彼の頭はそれでいっぱいだった。
情報はゆっくりとだが完全に伝わっていく。
衛星電話に情報が届いてから2時間ほど後、橋田はあの兵士を見つけた。
「そういえば名前聞いてないな。」
一瞬よぎった、彼に情報を教えるという考えを頭から捨てる。まだ信用していない。明日の早朝どうなるか・・・。
夜になった。皆緊張している。食事の配給を受け取ると黙々と食べる。ちらりと周りの兵士達を見る。いつも通りだ、周りで談笑している。やっとこの生活から解放されるのか。橋田の頭はそれでいっぱいだった。
夜は長い。今日は寝ててもいい物なのか薄眼を開けてぼんやりと考えている。家族のこと、この島のこと、仲が良かった明るいサーミト人労働者のこと、そしてあの兵士のこと。
空には星が輝いていたたが、月は出ていなかった。今日は新月。ついに明日救出作戦が始まる。
その頃 黒油島から約15kmの洋上ではアメリカ海軍の揚陸艦ボノム・リシャールが停泊していた。あたりは漆黒の闇、護衛艦もいるがここからは見えない。
今は午後11時、3時間後リーコン隊員と水陸機動団がここから発進する。そして約2時間後黒油島に上陸する。
このように早朝に攻撃を行うことを払暁攻撃という。暗視装置の発達により前世界で使われなくなってきただがこの世界では、暗視装置の発達している日本側は夜、圧倒的に有利になる。
午前2時
揚陸艦からリーコン隊員と水陸機動団の面々が出撃する。一個小隊合計30名と小規模な部隊だが、彼らの成果がこの作戦の結果を決める。さらにはこの戦争の命運を握ると言ってもいいかもしれない。
DPDに捕まり、呼吸器を付けた隊員達は星明かりだけの海を進んでいく。
午前4時
黒油島の砂浜に黒い影が出現する。その影は次々と増えていき30もの影になった。影の正体は救出部隊の30名。上陸部隊は人質がいる広場へ走って行った。
「ファアアア、眠いい。ったくついてねーな。人質の番、それも夜なんて。」
木箱に腰掛けたビーマイトの兵士が愚痴をこぼしながら、大きなあくびをする。
パスッ
気の抜けたような音が広場に響く。
その瞬間 先ほどあくびをしていた兵士の頭から鮮血が吹き出て前のめりに倒れる。広場の周りでは同じような光景が繰り広げられていた。わずかな抵抗も許さない圧倒的な銃の力。あっという間に広場は制圧された。
「はやく、こっちに寄って。」
自衛隊員が叫ぶ。技術者達は広場の端に寄って伏せている。宿舎からは異常事態を察したビーマイトの兵士達が駆け出してくる。
すでに抜刀している兵士達が建物の陰から出た瞬間次々と撃ち抜かれる。あたりに飛び散る鮮血と肉片、次々と崩れ落ちるビーマイトの兵士達。そこに生きている者はいなかった。
「なんだ。どうしたっ。」
奇妙な音で目を覚ました眠そうなオラーノ提督が怒鳴る。
「はい、どうもニホンの救出部隊が来たようです。人数は30名ほど、少ないですね。」
秘書が隣に立って教える。彼もまた眠そうだ。
「どこからやってきたんだ・・・。まあいいが。」
「提督、ここは火銃部隊をニホン軍に当てるべきです。ニホンは銃を使っているようですし。他の部隊は敵の増援を防ぐために海岸線の防衛にあたらせるべきかと。」
「よし火銃部隊、出撃だ。クソ、ニホンどこから銃を手に入れやがった。」
しばらくすると宿舎から銃を持った兵士たちが出てくる。そして建物の陰から出た瞬間持っている銃が火を噴いた。
パァンパンパン
乾いた音が辺りに響く。鉛の弾丸がビーマイトの兵士から上陸部隊に向けて放たれる。その弾丸は大きく軌道を変えつつ飛んでいく。ライフリングが無いためブレが大きいが、上陸部隊のうち数名に当たる。
「おい、大丈夫か?」
小隊長が突然倒れた部下に声をかける。
「俺はアーマーが守ってくれましたが、神永が・・・。」
一向に起き上がらない神永と呼ばれた隊員の腕の袖とグローブの隙間からは辺りから血が滲みでていた。
「後方に下げろ、メディックのところまでだっ」
その声で近くにいた隊員が倒れた隊員を引きずって後退する。
「後退を援護しろ。射撃開始っ」
もちろん上陸部隊も黙っていない。圧倒的な射撃レートを持つ現代の小銃に火縄銃が勝てるわけがない。
パパパパパパッ
連続的な発砲音が響き薬莢が散乱する。銃弾は金属製の鎧を貫き呻き声をあげながらビーマイトの兵士たちは倒れていった。
そのすぐ後、空中から腹に響くような音が聞こえてくる。オスプレイが広場に降り立ち中から自衛隊員や米海兵隊らが降りてくる。それと入れ替わる形で人質だった技術者たちが自衛隊員の誘導のもと乗り込んでいく。それが何度も繰り返されている間、宿舎ではビーマイト軍の指揮官らが集まっていた。