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ドールマンサー伊織  作者: 直井 倖之進
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後章 『死の淵に立つ少女の名は、沙耶』④

 病院を出てから二時間後の午後八時。伊織は、とある繁華街にきていた。

 建物の壁に取りつけられた住所札を手がかりに、目的の場所を探し歩く。

 程なく、彼は、メモ紙と同じ住所を見つけた。

 そこは、七階建てのオフィスビルだった。

「こちらで間違いなさそうですね」

 伊織が、腕に抱く朱音に話しかける。彼は気にしていないようだが、その様は、通りすがりの者から見れば、完全なる不審者だ。

「はい。そのようですが、一応、あれで確認してみてください」

 周囲に気を配りつつ小声で答えると、朱音は、各階の入居テナントが記されている壁板を指さした。

「へぇ、こんな物があるのですか。便利ですね」

 伊織が、そちらへと歩み寄る。彼は、メモ紙に書いてあった四階を確認した。

 そこには、薄く汚れた字で、“真島心霊・交霊研究所”と記されていた。

「五年前の住所とのことでしたが、家移りなさっていないようでよかったですね」

「まったくです」

 そう朱音に同意すると、伊織は、ついでに上下のテナントにも目をやった。五階はサラリーローン会社、三階は海外専門の格安航空券取り扱いの代理店である。

「おやおや、これは随分と怪しげな……」

 小さくくすりと笑うと、伊織は、躊躇うことなくビルの中へと入って行った。


 四階でエレベーターを降りる。正面にドアがあった。一般のアパートの玄関で目にするようなごく普通のドアだ。目線の高さ辺りには、“真島心霊・交霊研究所”と書かれた看板が、申し訳程度に取りつけられている。しかしながら、これがかかっていなければ、ここに霊術師がいることなど、誰一人として気づかないだろう。

「では、入りますよ」

 朱音にひと言そう告げると、伊織はドアを開いた。


 もう夜だというのに、室内に明かりは点いていなかった。非常に薄暗いのだが、それでも辛うじて周囲の様子が分かるのは、床のあちこちに無造作に置かれたキャンドルのお陰である。

 キャンドルは全てグラスに入れられ、ゆらゆらと幻想的な光を放っていた。

 それらを踏まぬように気をつけながら、伊織は、ゆっくりと奥へと進んで行った。

 玄間のドアから入ってすぐの部屋。今いるここは、受付兼待合室になっていた。

 テーブルとそれを挟むように然程大きくはないソファーが二脚置いてあり、テーブルの上にも、床と同じキャンドルグラスが二つ乗っている。

 この部屋に誰もいないことを確認した伊織は、さらに奥に続くドアへと向かうことにした。

 

 部屋の先にあるドアの前に立つ伊織。彼は、ノックをしようと軽く手を振り上げた。

 すると、その時、奥から若い女性の声が聞こえてきた。

「え? では、私は、どうすればいいんですか?」

 そこに、続けて男性の返答が聞こえてくる。

「ご安心ください。こちらのリングを使えば、彼を引きとめるなど造作もないことです」

「リング?」

「そうです。“運命の赤い糸”という言葉は、ご存知ですよね。このリング、男性用と女性用の二種類があるのですが、互いが互いを引き寄せ合うようにできているのです。つまり、見えない赤い糸で繋がっているというわけです。従って、女性用を貴女が身につけ、男性用を彼がつければ……」

「私と彼は、永遠に結ばれたまま」

「そのとおりです。(れい)(げん)あらたかな代物で、本来ならば、セットで三十万円もするのですが、彼を想う貴女の情に胸打たれましたので、ここは十万円で……」

 会話の途中で、伊織はドアから数歩下がった。朱音が、何かを話したそうにしているのに気づいたからだ。

「どうしました?」

 小声でそう尋ねる伊織に、朱音は言った。

「男性のほうが、沙耶ちゃんのお父さんみたいですね。接客中のようですけど、待ちますか?」

「いいえ。こちらは沙耶さんの命が懸かっていますし、待っているわけにはいきません。踏み込みましょう」

「はい」

 朱音の返事に頷いて見せると、伊織は、奥へと続くドアを開けた。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、3月29日(水)を予定しています。次回が、本年度最後の投稿になります。

 それでは、よい休日をおすごしください。

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