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せっかくの肉が!

「魔王様!」

「何だ、騒々しい」


 生みの親である魔王のいつもと違う威圧的な気配に、報告に来た魔物はびくっと震えた。


「し、周辺の魔の森のヌシ達が、凄まじい勢いで殺されています!」

「ふん、その事か」


 魔王は玉座で頬杖をついて足を組んだ。


「捨て置け」

「は?」


 魔獣の気配が凄まじい勢いで減っていっているのは、魔王も感じていた。

 が、魔王は全く動じなかった。


「幾ら雑魚を潰されたところで、我にとっては既に無意味。我は邪神の力を得たのだからな」


 くくく、と低く笑う魔王に。

 報告に来た魔物は違和感を覚えていたが、頭を下げて引き下がった。


※※※


「ハッハァー!」


 右手の筒上の武装から光の砲弾を放ち、逆の手でこれまた光で出来た輪を投げ打ち。

 魔の森のヌシを殺しまくるオメガに、崖の上からその光景を見ているエルフ軍一同は、もう驚きもしなかった。


 ちなみに魔王の居城があるこの地のヌシは、例外なくバハムートやベヒーモス級である。

 

「……異空の勇者、奴は一体何者ですか?」


 どこか遠い目で問い掛けるカルミナに、アーレンハイトは小首を傾げる。


「私にも分かりません。ですが、あの強さなら……」

「ええ。勇者様をも遥かに超えるあの力であれば、魔王など一蹴出来るかも、知れませんね」


 歯切れの悪いカルミナが何を考えているのか、アーレンハイトには分からなかった。

 

※※※


「さてさて、これで飯と住める森を確保した訳だが」

「はい」


 魔の森は、ヌシの駆逐によってただの森に戻り。

 アーレンハイトたちの目の前には、オメガの謎の力によって保存食と化したヌシらの肉がうず高く積まれていた。


「魔王を倒す前にご馳走にありつこう!」


 そして二日続けて旨い肉を食し、少量ながら酒まで振る舞われたエルフ軍の面々は、オメガの存在もあって先日とは士気の高さが雲泥の差になっていた。


※※※


 そして魔王城。

 一人鼻歌を唄いながら歩いているのは、イクス・ブレイドの姿になったオメガ。


 当然の如く侵入者を知った凶悪な魔物、オークロードやハイデビルが襲い来るのを。

 まるで稽古用の丸太のように撫で切り、飛んで来る魔法をも剣閃による風圧で搔き消しながら、歩調を変えずに迷いなく進み。


 そして一際大きな扉の前で、立ち止まった。


「ここか」


 扉も切り捨てて中に入ると、玉座に腰かけた大きなヤギのツノを持つ男が、ニヤニヤと笑いながらイクス・ブレイドを見ていた。


「ようこそ、我が城へ」

「お前が魔王か?」

「いかにも、ようこそ異空の勇者とやら。名前を聞こうか」

「ふふん、俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス! 人を救う使命を持つ者だ!」


 相変わらず意味が分からないが完璧なポーズと共にそう言うイクス・ブレイドに。


「人を救う、か。それがどう、我を倒す事に繋がるのだ?」

「何だと?」


 決めポーズを解いたイクス・ブレイドに向かって。

 魔王は立ち上がり、両手を広げた。


「言っておくが。我は人に手を出した事はない。ただ自分の眷属を生み、森を住みやすいように変えただけだ。それが悪だと言うのかね?」

「そのために、人が生きる糧が失われているらしいからな。それは、俺サマにとっての悪だ!」


 オメガはブレない。

 嘆かわしいと言わんばかりに、魔王シャルダークは首を横に振る。


「素晴らしく自己中心的な考え方だ。その為には、幾ら他者を害しても構わない、と?」


 そのシャルダークの言葉に、不意にオメガは表情を消した。

 まるで機械のような冷徹な表情と声音で、彼は告げる。


「ヒューマニクスにとって、人間の救済は全てに優先する。例外はない」

「ひゅーまにくす……それは貴様が人ではない、という事か?」

「そう、俺サマは人によって生み出された機甲知性(ヒューマニクス)。故に、人に間接的であろうと害を為すお前は、万死に値する」

「よかろう、ならば殺してみせよ! たかがホムンクルス如きに、我が殺せるというのならばな!」


 魔王は、指先から火球を放った。

 魔物の魔法と同じように、イクス・ブレイドはそれを両断する。


「なるほど、ならばこれはどうだ!?」


 次は吹雪の魔法だった。

 パキパキと足元から凍りついていくオメガだが。


「ふん!」


 気合いを込めただけで表層を覆う氷が砕け散り、イクス・ブレイドには傷一つない。


「では、次だ」


 今度は黒い雷が無数にイクス・ブレイドを打った。

 だが。


「全て無駄だ。エネルギーの中身は謎だが、所詮物理現象を引き起こすだけの技術だろう? 霊子的単一化を施された肉体を持つ俺サマには幾らやってもダメージはない」


 ゆっくりと歩を進めるイクス・ブレイドに対し、シャルダークは剣を引き抜いた。


「魔力による攻撃は効かないという事かな? では、直接攻撃ではどうだ?」


 シャルダークの姿が搔き消え、次の瞬間にはイクス・ブレイドの目の前。

 彼はシャルダークの振るう剣を無造作に光の刃で斬り払うと、シャルダークの剣はあっさりと中程から刀身を断たれた。


「おら!」


 シャルダークの無防備になった腹に、イクス・ブレイドは剣を握ったままの拳を叩き込む。


「ぐぼぉ!」


 吹き飛ぶシャルダークを追撃し、イクス・ブレイドは一刀の下にその首を刎ねた。

 静寂が訪れるが、イクス・ブレイドは両脇に剣を垂らしたまま告げる。


「生きてるだろ? エネルギー反応がちっとも衰えてないからな」

「クク……勇者パーティーよりは賢いようだな。我の演技に騙され、パーティーを全滅させてやった時の勇者の顔は見ものだったぞ」


 首が喋り、体がむくりと起き上がる。

 自分の頭を掴んで肩の上に乗せると、傷口が瞬く間に消え去った。


「貴様に対しては、この姿では失礼なようだ。見せてやろう。邪神の力を得た我の真の力をな!」


 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りのような音と共に大気が震え、シャルダークの姿が変わる。

 おぞましい緑の体表に、滴る紫の粘液を帯びた化け物。


 元の退廃的でありながら美麗な容姿は既に面影もなく、唯一肥大したヤギのツノだけが、その化け物が元はシャルダークであったことを示していた。


「グブブブ……お待たせした」

「ふーん。さっきよりはエネルギーが数倍に跳ね上がってマシになったな。じゃ、俺サマも見せてやろう!」


 イクス・ブレイドは、両手の剣を大きく左右に広げて、宣言した。


完全機甲化(フル・アジャスト)!」


 イクス・ブレイドは光に包まれ、最初にアーレンハイトに赤いオーガと呼ばれた、巨大な全身鎧を纏う偉丈夫の姿……ゼロ・イクスへと変貌する。


「遊びは終わりで良いな? 死ね!」

「こっちのセリフだ、異空の勇者よ!」


 二人は、お互いに距離を詰めて交錯し、すれ違う。

 両剣を縦横に薙いだ姿勢で立つゼロ・イクスと、爪を降り下ろした姿勢で止まったシャルダーク。


 ぼとり、と音を立てて地に落ちたのは、シャルダークの両腕だった。


「ば、馬鹿な……邪神の力を得たこの、我が……!!」

「トドメだ! 必殺!」


 身を翻しざま、宙を舞ったゼロ・イクスが雷を纏った双剣を構え。


「雷・鳴・牙!」


 彼の刺突が、狙い違わずシャルダークの心臓と頭部を刺し貫いた。


「ぐぎゃああアアアアーーーッ!!」


 全身に雷撃を流し込まれたシャルダークは、黒焦げになって絶命する。


「任務完了!」


 引き抜いた刃を払い、ゼロ・イクスは誰も見ていないのに意味不明だが美しいポーズを決めてから。


「って、焦がしちまったら喰えねーじゃん!」


 愕然と、その場に崩れ落ちた。


「なんてこった……絶対旨いのに、俺サマとした事が……!」


 黒こげになった魔王をしばらく恨めしそうに眺めてから。


「しゃーねぇ……諦めるか」


 がっくりと肩を落としてオメガの姿に戻ると、彼はその場を後にした。


 魔王の間の隅で死体人形にされていた勇者パーティーを、謎空間にきっちり収納してから。


※※※


 オメガを待つアーレンハイトは、魔王城の方角から感じる禍々しい気配が消えるのと同時に、暗雲が晴れるのを目撃した。


「おぉ……」

「光が……!」


 エルフ軍は歓喜に包まれるが、アーレンハイトの表情は晴れないまま、魔王城の方角を見つめている。

 そこに、オメガが現れた。


「オメガ様!」


 まるで無傷に見えるが暗い顔のオメガに、アーレンハイトは問いかける。


「どうなされたのです? どこかお怪我でも……?」

「いや……すまねぇ、アーレンハイト。魔王を黒こげにしちまって……せっかくの肉が……」


 魔王を倒してもまるで変わらない、とんちんかんな謝罪をするオメガに、アーレンハイトは吹き出した。


「なんだよ、なんで笑ってんだよ?」


 下唇を突きだすオメガをますますおかしく思いながら、アーレンハイトは目尻の涙を拭った。


 安堵と、喜びと。

 そして彼を召喚した勇者を悼む気持ちが、ないまぜになった涙。


 それらを全て押し隠して、アーレンハイトはオメガに頭を下げた。


「貴方に、最大の感謝を。この世界を救って下さり、ありがとうございました」

「ん? そんなの当たり前じゃねーか!」


 オメガは笑みを浮かべて、意味不明なカッコいいポーズをキメる。


「なんせ俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス! 人を救う使命を持つヒューマニクスだからな!」


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