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食おうぜ!

 魔の森にある、エルフ軍野営地。

 沈んだ雰囲気で皆が夕食を取る中で、アーレンハイトはオメガに現在の状況を説明していた。


「ふーん、魔王ねぇ。それは人間じゃねーの?」

「はい。魔王シャルダークは、闇より生まれる存在、魔族を率いる者です」


 干し肉を噛み千切りながら言うオメガに、アーレンハイトは同じものを食みながら答えた。

 保存性だけを考えた肉は塩辛く、おいしくはない。


 勇者も殺され食は進まないが、食べなければ倒れてしまう。

 オメガは残った肉を口に放り込んで立ち上がった。


「ごちそーさん。なら、行ってくるわ」

「は?」

「そのシャルダークとかいうの、さっき見えた城にいるんだろ? 異常にデカい妙なエネルギー反応があったからな。」

「お、お待ち下さい!」


 そこら辺に散歩に、とでも言いたげな調子で行こうとするオメガを、アーレンハイトは慌てて止めた。


「無茶です!」

「心配すんなって」


 そこまで黙って聞いていたカルミナが、不意に立ち上がって怒鳴った。


「貴様、さっきから聞いていればどれだけ不遜な行動をすれば気がすむ! そもそもアーレンハイト様に向かってその口の利き方は何だ!」

「カルミナ!」

「異空の勇者か何か知らないが、女神の加護を受けた勇者様ですら破れた魔王だぞ! 貴様のような奴に倒せる訳が……!」


 と、そこまでカルミナが言ったところで悲鳴が上がった。


「て、敵襲!」

「ほ、北東からベヒーモスが!」


 ベヒーモス。

 聞こえたその名前に、アーレンハイトが息を呑む。


 魔族の中でも最上位の魔物であり、勇者パーティーですら下手をすればやられる相手だ。

 それが、敗走して軍の士気の下がっている今。


「ベヒーモスってのは何だ?」


 カルミナに怒鳴られた事をまるで気にした様子もなく、オメガが訊くと。


「話している暇はない! 総員避難しろ! アーレンハイト様、失礼致します!」

「あ……」


 抵抗する間もなく、アーレンハイトはカルミナに肩を抱かれて彼女の愛馬に乗せられた。

 その様子を黙って眺めていたオメガが、カルミナが騎馬に頭を向けさせた方角にひょい、と跳んで立ち塞がる。


「何のつもりだ!?」


 馬の動きを阻害されたカルミナが噛みつくと、オメガは自分の背後に指を向けた。


「ベヒーモスってのがこの割かしデカいエネルギー反応の事なら……こっちにも、同じようなのがもう一体居るぜ?」

「な、なんだと!?」


 驚いたカルミナが疑いを差し挟む間もなく、空から巨大な風切り音が響き渡り。

 逃げ惑っていたエルフたちが、空を見上げる。


 舞い降りたのは、強固な鱗に鎧われた巨躯を持つ黒龍だった。

 呼吸の度に炎が散り、二本の角に紫電を走らせている、その龍は。


「バ、バハムート……だと……!?」


 ベヒーモスとバハムート、伝説級(レジェンドクラス)の力を持つ魔獣二体の挟み撃ち。


「シャルダーク……アーレンハイト様をも殺すつもりか……!?」


 カルミナが、絶望に染まった声を出しながら歯軋りした時。




 周囲に、ぐぅ~、と間抜けな音が響き渡った。




 それはまるで、腹の虫が鳴くような。


「おっと……やっぱ俺サマの腹には、飯、あれだけじゃ全然足んねーよなぁ……」


 腹を擦るオメガを、アーレンハイトは不審に思う。


「あの……オメガ様?」 

「ん?」

「何故そのように、平然となさっておられるのですか?」

「何でって……逆に何で?」


 アーレンハイトは、焦る周囲や、冷や汗を垂らしてバハムートから目をそらす事も出来ないカルミナを手で示した。


 オメガは律儀にアーレンハイトが示すを見て。

 さらに、ずん、と腹に響く足音を立ててついに姿を現したベヒーモスに目を向けると。


「なるほど。つまりこのデカいトカゲと牛は、お前らじゃなんとか出来ねーような連中って事か?」

「トカゲと牛……?」 

「まぁ丁度良いや。……殺して食おうぜ!」

「え? ……えぇ!?」


 魔獣を相手に、まるで今日の夜食に鳥をシメる程度の語り口調。

 鼻唄でも歌いそうな様子で口元を拭ったオメガ ……よだれでも垂れそうになったのだろうか……は、ぐ、と頭上に右手を掲げた。


制限機甲化(ハーフ・アジャスト)! ブレイド・コネクト!」


 オメガの全身が、赤いオーガからオメガに変わった時のような光に包まれ、その体躯が膨れ上がる。

 少年のようだった姿から、手足と体が引き締まった青年へと。


 さらに髪が金色に染まって伸び、天に掲げた掌の上に光の刃を持つ剣が現れる。

 それをオメガが握り締めると、その手から全身へ向けて、彼の体が赤い鎧に覆われていく。


 最後に赤い兜が、彼の髪を纏め上げてその頭部に収まると。

 先程の赤いオーガの姿とは違う、より人族の軽装兵に近い姿になったオメガが肩に大剣を担いで高らかに謳った。


「イクス・ブレイド、推・参!」


 相変わらず、どのような意味があるのか、美しく華麗な姿勢を取り。


「トォッ!」


 掛け声と共に、オメガ……イクス・ブレイドの姿が掻き消えた。

 凄まじい風圧が巻き起こり、イクス・ブレイドの蹴った地面が轟音と共に陥没する。


「まずはトカゲからだぁあああッ!」


 頭上から聞こえた声に、アーレンハイトが顔を上げると。

 そこには、バハムートの遥か頭上で、背面宙返りから大剣を構えるイクス・ブレイドの姿が。


「あの一瞬で……!?」

「精霊力も魔力も感じない……まさか、ただの跳躍だというのか、あれが!?」

「だぁらっっしゃぁああああッ!」


 アーレンハイトとカルミナが声を上げる間に、イクス・ブレイドは自分を見上げたバハムートの鼻先に大剣を振り下ろし。




 そのまま、尾まで一刀両断して、着地した。




「馬鹿な……一撃だと……!?」

「ブンモォオオオオオオ!!」


 呆然とするカルミナと、仲間が倒されて怒ったのか、それまでの鈍重さとは見違えるような速度でイクス・ブレイドに突進するベヒーモス。

 直線上に運悪く居たエルフ達が吹き飛ばされていく。


「オメガ様!」


 何故か微動だにしないイクス・ブレイドにアーレンハイトが焦ったような声を上げるが、彼は軽く腕を上げると、真っ向から自分に突撃してくる巨大な敵の額に、掌を押し付けた。


 そして大気すら鳴動するような、凄まじい衝突音。

 思わず目を閉じたアーレンハイトが、静寂に恐る恐る目を開けると。


 そこに、全く変わらない様子のイクス・ブレイドの姿が。


「べ、ベヒーモスは……!?」


 つぶやくアーレンハイトの視界が、ふと暗くなる。

 まさか、と思いながら先ほどと同じように空を見ると。


 信じられない事に、ベヒーモスの巨軀が、遥か頭上で舞っていた。


「あのデカさじゃ丸焼きは無理だな。焼肉フルコースにするか!」


 のんびりとしたつぶやきと共に、剣先を地面に付けた姿勢でイクス・ブレイドが構え。


「行くぞ、必殺! 炎・裂・刃!!」


 光の刃が、凄まじい熱を放つ炎の刃へと変化し。

 イクス・ブレイドの跳躍と共に、無数の光の筋が宙を走った。


 キキキキキキィン! と、あまりの早さに一繋ぎに聞こえる音と共に。

 ベヒーモスが一瞬炎に包まれた後に、無数の小さな肉片と化して地面に降り注ぐ。


「さ、怪我人の手当てして、食おうぜ!」


 シュタッと着地したイクス・ブレイドがにこやかに告げるのに。

 アーレンハイト達は、返す言葉すら失っていた。




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