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俺サマ達は、仲間だからな!


 ゼロ・イクスの宣言と同時に。

 アーレンハイトは、我慢出来ずにテラスへと駆け出した。


 その雄々しい背中に、崇高な魂に、アーレンハイトは今まで気付かなかった己の想いに気付く。


 アーレンハイトは、オメガにどうしようもなく惹かれていた。

 絶望の最中に現れ、破天荒でどこまでも明るい彼に救われた時から。

 

 無邪気に喜ぶ彼の姿が好きだった。

 時折見せる冷たい表情に不安になった。

 彼が戦いに赴く時に感じるとてつもない安心感は、彼がその強大な力を、心の底から全てを救う為に振るうからだった。


「オメガ様! 私も……私も共に連れて行って下さい!」


 アーレンハイトは、まるでバタフラムを崇める時のように膝をつき、彼に祈りを捧げる。


「私は、貴方の力になれます! 全てを失ってなお、絶望よりも希望を望むその魂に、私の、全てを捧げます……!」


 アーレンハイトの横で、カルミナが自身の剣を抜き、忠誠の誓いである体の前に剣を立てた姿勢を取る。


「私も、アーレンハイト様と同じ想いだ、オメガ。既に、この身に課した使命は貴様のお陰で果たされた。ドラグォラ様が私を闇の巫女としてお選びになったのは、今、この時の為であろう」


 ゼロ・イクスと化したオメガが、その鋼鉄の仮面の下で笑った気配がした。


「お前らがそう言うなら、俺サマに拒む権利はねーよ。俺サマたちは、仲間だからな!」


 仲間。

 それはオメガが、アーレンハイト達を守るべき対象ではなく共に立つ同志として認める言葉だった。


 アーレンハイトは、それを誇らしく思いながら立ち上がり、呪言を紡ぐ。


「我が心は女神と共に。我が魂は人々と共に。我が肉体は勇者と共に―――クムイ・オン・バタフラム!」


 同じように、カルミナも呪言を紡いでいた。


「我が心は魔神と共に。我が魂は世界と共に。我が肉体は戦士と共にーーークムイ・オン・ドラグォラ!」


 双剣を下ろして待つゼロ・イクスを、黒と白、二色の光となったアーレンハイトとカルミナが包み込む。


 ゼロ・イクスの赤い体を、ドラグォラに似た漆黒の外装がさらに鎧い、左腕を特に厚く締め上げた。

 胸元から背中と右腕へかけては白地に青の差し色を入れた装甲が形成され、背部に向かった光は長く伸びて、一対の翼と化す。

 そしてゼロ・イクスの両手の剣が、白き神々しい神剣と、黒き禍々しい魔刀に変わった。


「スピリッツ・コネクト! ーーーゼロ・イクス・真装形態(フルクロス)!」


 バタフラムとドラグォラ、二柱の根源たる精霊の力を、アヒムとオメガ、二つの魂を介して纏ったゼロ・イクスは、王都の外に目を向けた。


「行くぞ、アーレンハイト、カルミナ!」

『はい!』

『ああ』


 そしてゼロ・イクスはわだかまる暗雲を目指して、翼を広げて空を駆ける。

 暗雲が、向かってくる敵の気配を察したのかその姿を変えた。


 変異したシャルダークをより禍々しくしたような姿の、上半身だけの邪神だ。


「おおおおお!」


 鬨の声を上げながらその顔へ向けてゼロ・イクスが双刃を振るうが、剣閃は邪神の顔をすり抜けてしまい、体ごと実態のない邪神の中へと取り込まれてしまう。


「なんだぁ?」


 肩透かしを受けたゼロ・イクスが邪神を形成する暗雲の中で留まると、不意に視界が開けて広々とした空間が彼の前に形成された。

 黒曜石のような足場に、先を見通せない闇が頭上と地平線へと延々と広がる空間。


「くはは、掛かったな」


 声と共に空間の中央にシャルダークが姿を見せた。

 その横には、彼の操り人形と化したアヒムの屍が従っている。


 余裕に満ちた笑みを浮かべ、漆黒のマントをはためかせて着地したシャルダークに対し、同じように着地して剣を構えたゼロ・イクスは言った。


「やっぱりお前、シャルダークじゃねぇな。何者だ?」


 ゼロ・イクスの問いかけに、アーレンハイトも彼の中でうなずいた。

 精霊の目に映るのは、以前見たダークエルフの魂が虚無に侵食された姿ではなく、虚無そのものが人の形を成したような深淵だ。


「我に名はない……が、あえて呼ぶなら邪神、あるいはファーザーとでも呼んでもらおうか、装殻者……いや、理から脱した貴様は既にそうではないな。異空の勇者。〝大いなる世界意思(デウス・エクス・マキナ)〟の使徒たる次元の守護者よ……我は放浪者。根源力によって形成された、悪意と怨念の化身である」


 シャルダークは……ファーザーを名乗る邪神は、掌をゼロ・ イクスへと向けた。


「さぁ、貴様の心も虚無によって食い尽くしてやろう! ーーー擬態(イミテイト)!」


 ファーザーが謎の呪言を口にすると共に、どろりと溶け崩れて虚無を宿したアヒムの肉体を覆う。

 

 両手に双剣、二本の角を持つ鉄仮面。

 黒地に赤の差し色をした全身鎧に、紫紺に白い差し色をした爬虫類のような翼。


 鎧われたアヒムの、その姿は。


『あ、ああ……』

『馬鹿な……ゼロ・イクスだと……!?』


 心を圧する程の虚無の塊は、ゼロ・イクスと色以外は全くの相似だった。


「アビスズ・コネクト……くはは、ゼロ・イクスよ。断絶を超え、力を得たとはいえ、貴様は未だ、守護者の雛……長き放浪の内に、力を蓄えた我に勝てるかな……!?」


 歪んだアヒムの声で言ったイクス・アビスは、言葉と同時に、ゼロ・イクスへと襲い掛かった。

 

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