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ある精死病復帰者の記憶 その9 1900年~1920年

 皇紀二五七八年(西暦一九一八年)一二月

 大和国 人工亜惑星・大和星間武士軍総本部<綿津見ワタツミ

 

 そこは遠い昔はるか銀河の彼方でおなじみの死の星めいた人工亜惑星の内部、史実の伊達政宗公の兜をモチーフにした黒づくめの二児の父やら真っ白な兵隊さんがいる訳ではないが、それでも亜惑星自体が軍事基地なので軍人や士官があちこちにいる。無論、その家族やらも住んではいる。

 そんな亜惑星の、とある会議室にて士官達が集まりなにやら瑞穂星に関する会議をしている。


 『まさか二五七四年に起きた東ヨーロッパでの暗殺がここまで大規模な紛争になるとはナァ……』

 誰かが言った。

 何人かがうんうんと頷く。

 事の発端は皇紀二五七四年(西暦一九一四年)6月。オーストリアの皇太子が征服下のボスニアへの視察中にセルビア人に暗殺される事件が起こり、オーストリアはイギリスの独立保証下にあるセルビアへ宣戦布告を行う。

 7月に入る頃には両陣営の国々はお互いに宣戦布告やら参戦を表明し、大規模な紛争が起こった。

 これはいわゆる第一次世界大戦なのだが、この世界の大和・ティエルクマスカにおいてはいささか呼び名が異なる。というか欧州紛争やら瑞穂星西北地域紛争やらそんな所である。

 この紛争はつい一か月前に集結したばかりで、士官達の分析が盛んにおこなわれていた。


 「まぁでも。この程度の規模で済んでよかったですね」

 『ソうだな……戦争という規模にならなかったのは良かっタ』

 「この紛争による科学技術は大分向上して戦闘技術も大幅な上昇となりましたが、人口の劇的な低下や環境変化は認められていませんので、この程度でよかったと言える」


 確かに瑞穂星内の国家からすれば世界大戦と言える規模である。しかしそれは参戦国家が地球の裏側に植民地や領土を有しているだけだったり、主にイギリスの属国やらが参戦しているから世界規模に見えるだけであり、ティエルクマスカ的には全く大した事はない。むしろティエルクマスカ的にはフランスの王族を処刑台に立たせた事の方が大事おおごとであるともいえる。


 ティエルクマスカとしては、星間戦争以外、つまり一つの惑星での戦争といえる規模となるとそりゃもうすごい事になる。

 数十億いた人口が数万・数千に激減したり、大陸に幾多のクレーターと汚染が広がり、惑星規模で食糧生産や生活が困難になる程の環境変化が起こったりする戦争やら、瑞穂星で言えばインドやら中国・ロシア・南北アフリカ・南北アメリカ等の文字通り惑星全土至る所でで人口がガクッと減る程の軍の衝突が始まる。と言った事が起こらねば戦争にはならないのだ。スケールが違いすぎる。


 大和やティエ連は昔から瑞穂星での人口を計ってきたが、皇紀一九三三年(西暦一二七三年)あたりで約三億五千万人。現代の皇紀二五七八年(西暦一九一八年)で約一六億五千万人と言った処である。今回の紛争の両陣営の死者・行方不明者の合計は雑な計算になるが約一六〇〇万人なのでいかに『小規模』だったかが伺える。

 

 「だがこれで瑞穂星の技術が相当進んだな」

 『コウクウキなるフィブニー効果で飛行する乗り物を軍事転用したかと思えばすぐに様々な用途の機体を生み出すのは驚愕的でアッタ』

 別の士官たちが話す。


 いわゆる第一次世界大戦は、こちらの世界でも技術の進化が目覚ましい時代であった。その中でも航空機は戦車よりも格段に速い実用性の発見がなされた兵器であった。

 戦前より航空機は砲撃観測や偵察に有効として各国が一定数の航空機を保有していたのが大きかった、それこそライト兄弟は「この開発は戦争をなくす」と発言し、軍へと売り込んでいった。

 

 なに馬鹿な事言ってんだよ。と言いたくなるが、当時はミサイルも核兵器もなく、効果的な砲撃、効果的な敵軍察知、そして迅速な報告による作戦遂行が成し遂げられれば勝利できると思われていたからである。


 そして開戦からすぐに両陣営は航空機の力を思い知る事となる。

 トルコにおいてはロシア軍の偵察機がトルコ軍を察知して効率的な攻撃を与えたし、フランス戦線ではフランス軍がドイツ軍を察知して同じく効率的な攻撃が行えたし、と言った感じである。

 航空機は偵察機としての効果が絶大であると世に知らしめることとなったが、その分敵に使われると非常に厄介な存在であるという事であった。

 かくして偵察機を倒すための航空機……つまり戦闘機の開発がなされる事となった。


 「イギリス国の航空機開発には目を見張るものがあったな」

 とある士官が言う。

 当初の軍の航空機は、ライト兄弟が制作したものと似たような形の複葉機であった。

 しかし偵察機を撃ち落とすために開発が進められていくと、次第に洗練されていくようになる。特にイギリスはその最先端を行く国であった。

 それというのも、先の麻薬紛争の敗戦の教訓(?)から電子工学や航空機の開発に熱心だった事から年を明ける毎にその研究の成果が表れる事となった。

 単に大和との研究貿易による資金チートでしかなかったが、通信技術や計算技術のアドバンテージは凄まじく、終戦時には既に第二次世界大戦頃の単葉機が姿を現していた。


 『確かに、あの一連の発明は瑞穂星の戦略を一変させるものですネ』

 「既に各国の科学者間では宇宙空間への到達を目指す研究が行われています」

 「そう、ついに瑞穂星が織田信長氏の予言に追いついた。という事だ」

 その言葉にその場の士官達は少なからずざわつく。


 「我々の対瑞穂星への対応もいよいよ決める時が来そうですな」

 だがその言葉に、士官達の中のある一派が口を開く。

 「それはどうだろうか? 総力戦による他地域の協力による関係見直しはなされてきているが、西北地域の影響力は未だに健在で、差別意識は計り知れない程強い」

 「東瑞穂大大陸のアメリカ合衆国の西北地域以外の民族への差別意識は特に酷いものです」


 彼らはアメリカを調査をしていた一派であった。

 軍のみならず八島列島の学術機関らは少なからず瑞穂星の文明を調べるためにスパイめいた行為を行っていた。軍ともなるとやはり広域で質の高い情報が得られるのであった。


 「我々と同じ民主主義制度であり、移民を受け入れ自国民にする気質を持っているにも関わらず、か」

 とあるの将官がそう言う。

 「しかしながらアメリカは古代からの歴史はなく、異民族はある程度文明化した国からの食い詰め者しか知りません。異文化の扱いに未だ慣れていないとも言えます」

 先ほどから発言している士官が続けた。


 「だが、今回の紛争によりそれに何かしらの変化が生まれる筈です」

 話の流れを変えるべく、別の一派が話を切り替える。

 <左様。総力戦になった事により労働力の確保のために女性や瑞穂星西北地域以外の人種の雇用により、社会進出を訴える運動が既に起こっている>

 「特に富に関する再分配および反資本主義運動は国家を形成するレベルに達している」

 「ソヴィエト連邦か……」


 そう、今回の紛争で様々な情勢が変わったが、特に変わってるのがロシアである。

 ロシアはドイツ・オーストリアと組んで独墺露三国同盟で英仏土三国通商に挑んだが、イギリスの資金チートによる技術チートの前に敗れてしまった訳だが、その際に革命により滅びかけた。

 そもそもロシアは清等の中国方面への出兵を繰り返し、満州や天津、朝鮮をその領土にしていたが、度重なる戦争にその国力を疲弊していった。

 そして今回の戦争によりついに市民の怒りが爆発し、ロシア王家のロマノフ家はあわや処刑台に消えたと思われていたが、第四皇女だけは赤軍たちの手から逃れ、王家支持派の軍へ保護される事となった。

 王家支持派、つまり白軍は転戦を繰り返し、満州へと逃れて、ついに第四皇女を海を隔てた隣国アメリカへ逃がす事に成功し、残された白軍は赤軍と戦うも拠り所としていたモンゴルや満州や朝鮮が赤軍側に寝返り、ついに白軍は赤軍に屈してしまった。

 白軍を葬った赤軍、もといソヴィエト社会主義共和国連邦はモンゴル・満州・朝鮮にある程度の自治を与えて属国化し、国家として発展をしていくこととなった。

 

 「ふむ……。しかし今の所現状維持が妥当。という所であろうな」

 今まで喋ってなかった。一番年季の入った将官が口を開く。

 その言葉にその場の全員が驚き、頷く。


 「いや、議論を断ち切るようで済まない。だが間もなく昼食になる。そして本日は【金曜日】である。……議論は午後から再開しようと思うが、よろしいかね?」

 年配の将官がそう言うと、何人かがハッとしたように何かに気づく。

 「……以上を持って本議会は昼食休憩とする。再開は午後2時からとする。休憩開始」

 進行係がそういい、その場の士官将官達は秩序ある退室を行うのであった。


    *    *


 綿津見ワタツミ内の食堂エリア

 死の星めいた要塞であるからして、当然食堂エリアは数多く存在する訳だが、ここは先ほどの会議室の最寄りであり、先ほどの士官将官達で賑わいを見せていた。いや、最早一種の熱気と言ってよかった。


 『席、空いてルカ?』 

 そう言って一人のダストール系の女性士官が一人の男性士官に声を掛ける。

 「嶋田か。おう。てか座る気満々だろうが」

 そう言って心良く快諾する…というより、腐れ縁的な何かを感じる言い方で快諾した。


 『イヤー。やっぱ金曜のカレーの日は込ムワー』

 「そうさなー。やっぱカレーの日やばいよなー」

 嶋田という女性士官がどかっと席に座る。テーブルには対面する男性士官とほぼ同量のカレーが盛られている。


 そう、カレーなのである。

 ティエルクマスカ中を夢中そうぜんにさせ、こちら側のネット社会の一部界隈では「お前らカレー食いに来ただけかよ!」と親しみを込めた罵声を浴びせられるも『我々はティエルクマスカ。お前達のカレーは食べ尽くす。抵抗は無意味だ』という親しみを込めた恐喝で返したとか返さなかったとかいう、あのカレーである。

 こちら側では大英麻薬紛争終結後、数多なデータと金塊を交換する条約により、得た料理であった。


 そもそもカレーはインド料理なのだが、我々が非常に親しみのあるカレーはイギリスから伝わったものであるが、元々カレーはイギリスの船員が船上でシチューを食べたかったが、牛乳が持たないので香辛料を入れて食べるというシチューの代用品として食されていた。

 そして時は流れてイギリス中流階級の家庭では日曜日にでかいローストビーフを焼いて1週間かけて食す習慣ができ、その食し方の一つとしてカレーが食される事となった経緯がある。


 しかしながら見た目が<明らかにヤバイ見た目>をしていたため、食のデータの<肥やし>になるかと思われていたが、さる人物が「ビーフシチューだと思えばイケるのでは」と言い出し、実践してみた所、口からビームを出す勢いで大絶賛した歴史がある……と『大和星間武士軍内』では言い伝えられている。

 いや、既に少なからず学術的調査という名のスパイでイギリスの民間風土は調べられているのだから、そっち経由でカレーは食べ物。という話が正史なのだが、大和星間武士軍内では前者の大それた伝説が正史となってしまったのだ。


 実は当初カレーはルーがなくてスパイス粉の段階から作っていたが「調合するのメンドクサイからもう醤油でいいや」とか言い出して肉じゃがができてしまう逸話等話は尽きず、プロジェクトαが再びできるレベルなので割愛させていただく。


 『イヤー。東郷元帥も好きだヨネー。考案者なだけはあるヨネー』

 そう言って嶋田さんパクパク。

 どうやら東郷元帥がカレーの大ファンで、かの『ビーフシチューと思えば見た目は気にならない』と発言して実践してみせた御仁であり、大和星間武士軍内のカレー普及の第一人者であった。

 「お前も大概だろうに」

 男性士官もモグモグ。

 『高野も結構好きデショ?』

 「ティエルクマスカ中で嫌いな奴はおらんよ」

 『ハハ、それは言えてるワネ』

 高野の答えに嶋田はそう笑って見せた。


 『デ、高野。貴方来年から瑞穂星のアメリカに行くって話ダケド』

 嶋田サンはカレーを半分食べた所でそう山本に尋ねる。

 「ああ、35歳にもなって大学生だ」

 『デモ貴方達大和人なら、瑞穂人には若く見えるらしいし、大丈夫デショ?』

 「そいつはちょっと違うな。若く思うのは瑞穂西北地域人にしヨーロッパとアメリカであって瑞穂人全体ではないんだ」

 『瑞穂西北地域人……言イニクイナ』

 「わかる」

 等と、和気藹々とした会話をするも、次第にシリアスな話となっていく。


 『ソレデ、アメリカはジンシュ差別?が酷いと聞いたか本当ナノカ?』

 「ああ、かなり酷い」

 『同ジ瑞穂星人なのにカ……』

 「肌の色はもちろんだが、アジア人の労働者というだけで人間扱いしない場所は多い」

 『オ前は大丈夫ナノカ?』

 「イギリス領のシンガポールの中国系の医者の息子、三男坊という設定の身分だ。名前は 疎録そろく

 PVMCGを立ち上げてその名前を嶋田に見せる。

 『読みがそのままの名前じゃない!捻リがナイ。というかそれどっちかというと朝鮮系の名前ジャン!』

 「うっさい。連中は漢字は皆同じに見えるし、区別は着かんさ」

 『フム……。ところでお前はアメリカ調査に充てられてるが、正直アメリカはどう思ウ?』

 「行く前に聞くかそれ……まぁいい。今の所は人口・国土・国力共に世界トップになれる力がある。正直あの大戦、ありゃうちの金塊のてこ入れがなければイギリスは疲弊して実質アメリカがトップになっていた奴だ」

 『フム、それは確かネ』

 「五〇年もしないうちにイギリスはインドを独立せねばなるまい。大戦中はそう言って徴兵をしていたのだからな。そうなればアメリカが名実と共に瑞穂星のトップ国になる筈だろう。……ドイツ・ソ連の勃興がこのままなければの話だが」

 『ドイツに関しては、戦後処理次第では再び戦争が起こる可能性が出されているワネ……』

 「しかしだ……たとえソ連だろうがドイツだろうが、イギリス・フランス・アメリカがトップになろうと……ティエルクマスカ的にはいささかやりにくい事になるだろうな」

 『ヤハリ人種差別問題?』

 「ああ。このままでは、いやもう既に瑞穂星西北人至上主義というものができている。こいつがかなり厄介で、合同参謀部も頭を抱えているそうだ」

 『合同参謀部ガ?』

 「ああ、俺達大和国は、アジア人に区分されるだろう?そうでなくともイゼイラは鳥、ダストールは大トカゲ、カイラス人は猫科……等、いささか現瑞穂星には刺激が強すぎるという事でな……様々な現象が起こるだろうというのが合同参謀部の見立てだ」

 『創造主・信長もそう言っていたワネ』

 「ああ、とりあえず明日にでも瑞穂星の一国と外交しなくてはいけない事態になっても大体絞り込んではいるんだがな。まだ確定の段階じゃないんだとよ」

 山本はそう言って残っていた福神漬けをポリポリと食べる。

 『フム……もはや我が大和国はもはや瑞穂星国家とは言えないカラナ……。新たに国を見つけて外交を開くしかナイカ』

 同じく嶋田もポリポリと福神漬けを食べる。



 少し離れた席。

 その二人の姿を気付かれないように離れた席でこそこそと話し合う数人の士官の姿があった。どうやら二人と同期の士官らしかった。

 「あの二人……また同じ席で飯食ってるな」

 「もう結婚しろよって話だよなぁ」

 「いや、確か五十六って結婚してたよな……同郷の子だっけか」

 「大学行ってた頃、夏休みの時に幼馴染に告られたって言ってたぜ」

 「はぁぁ?んだよソレ。氏ねよ」

 「それで嶋田、かなり荒れてたぜ……『大学卒業までに奴が結婚しなかったらナロウと思ってたのにー』と……」

 「おおう、まじかよ……五十六も罪な奴だなー……」

 などと彼らはそのような会話をしつつカレーをつつくのであった。


    *    *


 カシワギサンは困惑を通り越して後悔していた。

 今の今まで実はカシワギサンはこのデータを読むのを中断していた。

 それというのも、姫ちゃんがお気に入りのアニメ……不思議な力により動物が女の子になった感じのアニメ……が送られてきて、それを全巻見ていたら遅くなってしまったのだ。

 フェルサンの熱烈なオススメもあって見ざるを得なかったが、大変面白いアニメであった。一見すると子供向けアニメなのだが、どうも遥か未来で、人類が姿を消して食糧生産のハイクァーンと整備ロボットが生きている設定だったり、しかもその深そうなテーマがメインではないという全く新しいアニメであった。


 そして今思い出して読み返してみたが、なんとあの山本五十六が高野姓だったり、嶋田繁太郎がダストール系で『シゲミ・ランラ・嶋田』だったり……大変な事になっていたのであった。

 それと同時に、<ここから先は仮想戦記色が強くなります>という注釈が入っており、それに拍車をかけていた。

 ともかく、再び読み始めた柏木であった……。

相当間が開いてしまいましたが、これは柏木さんが某動物的友人なアニメをフェルサンと姫ちゃんからボックスで送られてしまい、閲覧せざるを得なくなり、しかもハマってしまったからデス

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