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ある精死病復帰者の記憶 その10 ~1936年

 皇紀二五九六年(西暦一九三六年) 2月26日

 大和国 高天星たかあまのほし 華表原かひょうはら神宝海かんだからかい


 テラフォーミングにより高天星もとい火星には地球同様の重力や自然が存在していた。華表原とはそういう地名である。

 この日、大和国はこの華表原にある基地と隣接する海にて、ティエルクマスカでも重要なイベントを開いていた。


 「隊長。やっぱこれ護衛機なしは無理ゲーなのでは」

 銃座に付いている搭乗員の一人がそう愚痴のような会話を始める。

 「それをハッキリさせる為にコレをやっているんだ。つべこべ言うな」

 隊長と呼ばれる操縦員が厳しく当たるが、いまいち様にならない。


 彼らは第二次世界大戦頃のパイロットスーツに身を包んでいる。

 そう、彼らは第二次世界大戦近辺の大型爆撃機……見た目がK-7というソ連が1930年代に試作していた大型爆撃機兼旅客機をさらに大きくしたという、なんとも名状しがたい超大型爆撃機に搭乗していた。

 大砲は流石についてはいないが、それでも常軌を逸したその巨大な爆撃機は何十機も群れをなしており、ちょっと柏木さんのテンションがやばかった。


 「12ミリ機関銃であらゆる航空機に対して致命傷を与えられ、集団での密集体系で防御力は格段に向上しているんだ。しかも9000mもの高高度からの爆撃だ。大丈夫、きっと上手くいく」

 隊長はそう言うも、内心、上手くいくか情けなく失敗するかの二択であると思っていた。


 事の発端は高野五十六の友人の松永寿雄と嶋田シゲミの些細な言い争いから始まった。

 議題は瑞穂星の航空機ないし爆撃機の方向性について語っていたのであるが

 松永寿雄率いる『大遠距離、大攻撃力、大速力を持つ大型機により、小型の戦闘機では随伴および接敵できず、また搭載されている機関銃により簡単に撃破される(のでそういう方向性になる)』という派閥と、嶋田率いる『その技術でもって作られた戦闘機ないし迎撃機は十分に接敵・随伴できうる性能を持っているので単身での出撃は無謀(なのでそういう方向性になる』という派閥に別れてしまった。


 と言えばかなり深刻性が高いが、某菓子タケノコやキノコの里か山か。某竜的物語どらごんなんとかの5作品目の金髪の幼馴染か青髪のお嬢様かの嫁論争のようなものであった……つまりとても深刻な話であった。


 既に山本や嶋田は軍において相応の地位におり、部下もいる。話がどんどん大きくなりお互い引っ込みがつかなくなり、ついに高野の「そんなに言うなら実際にやってみるしかない」という提案により、VMC技術を使った『演習』が行われる事となった。


 「上方銃座、敵機いないか?」

 「こちら中央上座。異常ありません」

 「右方上座、異常なし」

 「左方上座、問題ありません」

 機長が確認をする。

 元がK-7をモデルにしている為、銃座は上だけでも3つある。羽根の部分の下方部に2つ。足の出入り口部分にも左右1ずつ付いているという空飛ぶ機銃座である。


 「んにしてもこの機体、確かあちらの国でも製作中止になったんじゃ」

 「おう、中止も中止。試作機飛ばして死人が出て設計者だかが投獄されたぞ」

 「マジですか……なんでそんなもんを上は飛ばそうと思ったんですか」

 「こうやって飛んでるからだよ、そんな事より敵機警戒しろ」

 「うへぇ……ん?」

 銃座の担当員がそう辟易していたが、ふと自分の手袋に先ほどまでなかった『シミのようなもの』ができている事に気が付く。

 否、それはシミではない、影である。


 そう思い、反射的に上を見上げるも――――。



    *    *


 「なんちゅうモロイ船じゃあ」

 火だるまになる和製K-7を鏡越しに見ながら、戦闘機のパイロットである坂井三郎がそう口走った。

 他の爆撃機も火の手があがり、次々と撃墜されていく。


 「んにしても瑞穂星の技術でできる範囲とはいえ……!」

 坂井三郎はそう言って弾幕を回避しながら再び上昇する。


 彼が操る戦闘機は、米軍が大戦末期に注文をするもエンジンやプロペラの問題に悩まされ、1947年にやっと満足のいくプロペラが完成するも、時代はジェット機に変わろうとする転換期で会った為、飛行試験すら許されずに廃棄された色物戦闘機、XF5U『フライングパンケーキ』……に似た戦闘機であった。


 「この機体はちょいとズルなんじゃねぇかな? っと!」

 三郎はそのような独り言をいいつつも射撃に適した位置から爆撃機を撃墜していく。


 そう、この機体はそもそも航空機の発達に伴い、ティエルクマスカの機体を瑞穂星の技術で再現できるか。という計画があり、その中の一環で作られた機体であった。

 瑞穂星の航空力学の視線からティエルクマスカ中の機動兵器を分析した結果、サマルカの機動兵器の形状が理にかなっているとの事で再現してみたという事である。


 結果、空飛ぶパンケーキが火星の空を飛ぶ有様となったのだ。


 「はい二機め!!」

 三郎が操る機体は、あたかも天空を舞う木の葉の如く爆撃機から放たれる弾幕を軽々と避けて見せ、そしてこちらの30ミリの対爆撃機用機関銃を叩き込む。

 こちらでは30ミリでも銃扱いであると些細な所に驚く柏木さんであった。

 

 「さぁお次は……ん? 通信が……」

 三郎が標的の爆発を確認すると再び狩りに戻ろうとするが、通信チャンネルに反応がある事に気づく。

 通信も瑞穂星の技術らしく無線である。ティエルクマスカ基準では偉く感度が悪い通信だが、本家基準では偉く感度が良いと評判の無線である。


 「は? 演習中止?」

 その報は両軍に伝わり、即時に戦闘行動は中止された。


 引き分けのように思われるが、既に爆撃側は既に半数以上を撃破されており、対して迎撃側の損害は十機以下という有様なので勝者は明らかであった。

 なお、XF5U似の機体は別に装甲が破壊困難な程硬い訳ではない事を告げておく。


    *    *

 大和国 高天星 華表原基地 とある大会議室


 「演習を中止する程の事態とは一体なんなのか。と聞いて来てみたら……なるほど、これは確かにゆゆしき事態であるな……」

 東郷元帥がそう眉間にシワをよせて告げる。

 「コレは……瑞穂星の上空を撮った映像で間違いないのカ?」

 嶋田シゲミがそう深刻そうに尋ねる。

 嶋田だけではない。高天星に来ていた各方面軍の司令官や主な士官が一室に集結、一堂に会している。

 文字通りに一堂に会している。年末の祝賀会に匹敵するメンツである。


 それらが皆眉間にシワを寄せている。


 「はい、間違いありません。これは我が国の監視衛星が捉えた映像です」

 進行係がそう言う。額には汗がにじんでいる。


 そこには、たったさっきまで迎撃側が使用していた航空機、XF5U『フライングパンケーキ』……に似た戦闘機がアメリカの内陸の砂漠を飛行している映像であった。


 「調査機の飛行計画や識別信号ともに一致しません。つまりこれは完全に瑞穂星の……いえ、地球のアメリカ国の航空機です……!!」

 進行係はそう宣言した。


 「何故、サマルカの調査機に似ているのだ」

 ある将校が口を開く。

 「詳しい詳細はあるか? あれは軍用機なのか?」

 「どうしてああもサマルカの調査機に似ているのだ!まさか情報が流出しているのか!?」

 「調査員は何をしていたのダ!?なぜ今までわからなかったのダ!」

 それを期に将校や士官が矢継ぎ早に質問をする。

 もはや同時に発言する星間武士士官達と言って良かった。


 《静粛に》

 脳内に響く声。そして鎮まる会場。

 《私は瑞穂星総括担当大臣 ツジ・政信でございます、以後お見知りおきを》

 比較的静かになった会場に響く自己紹介。

 《今回の件について、至急関白府から派遣されました。僭越ながら今回の件についてご説明の方をさせていただきます》

 このような事態となっても冷静を保ちつつ解説するツジサンもとい辻政信。

 何気に眼鏡をしている。まさしく辻である。と柏木サンは妙な所に目がいく。


 《この機体を説明する前に、信ぴょう性の低い話から始めさせて頂きます。

 これまでの東瑞穂大大陸アメリカたいりく北部地域きたアメリカでの調査の結果、他愛もない噂話が存在します。

 いわく『アメリカ合衆国は宇宙人を捕獲した』という噂話です》

 当然、瑞穂星への入星制限は徹底しており、調査員を含めて行方不明となった者は一人としておりません。と続けられる。

 《その噂話を調査した所、アラスカと呼ばれる東瑞穂大大陸アメリカたいりくの北西部の飛び地に宇宙人の基地がある。という旨の話であり、当然調査員は現地に赴いて簡易的な調査を行い、その情報を元に

審議を行った結果、噂は噂でしかないという結論に至りました。これは皇紀二五九〇年、西暦にして1930年の話です》

 「……その簡易的な調査で異常はなかったのか」

 一人の将校が手をあげて許されたので疑問を提議する。

 《はい。鉱物調査の際に数値的には基準値を上回り、地球外の鉱物も発見されましたが、アラスカ州は元々地下資源に恵まれた手付かずの地である以上、過去の隕石や小惑星の落下によるものであると結論付けられました》

 「数値の異常に疑問に思わなかったのかね?」

 《僭越ながら申し上げますに、調査は現地の影響を考えて簡易調査のみでしたが、地球外の鉱物を含む基準値を上回る数値異常のケースはこれまでに数万以上に登ります。主に海底や南極・北極などを中心にですが……。私は調査員と結論付けた調査団に落ち度はないものと感じます》

 その言葉に発言者はうぐぐと沈黙する。


 《この件と今回の件をすり合わせた結果、年数は不明ですがアラスカの地にサマルカ人あるいはそれに準ずる星系人の調査機が不時着し、瑞穂人によりそれを発見、移送され隠蔽され……瑞穂星の技術で解読されて航空機の形となった。と推測されます》

 ツジの言葉に、会議室は静まり返る。


 「失礼します!会議中の中、緊急の報が……!」

 その沈黙を破ったのは外部であった。

 「どうしたというのかね」

 東郷元帥が落ち着きを保ちながら訪ねる。

 しかし飛び込んできた急報はその冷静さをぶち壊すのに十分であった。


 「西瑞穂大大陸ユーラシアたいりく北西部地域ヨーロッパにおいて救難信号を確認しました……!! 船舶名簿に確認をした所、ディスカール星系のものと判別、行方不明年代は……約2000年前と断定……!」


 その言葉により、再び会議室は紛糾する事となる。


 今日この日をもって、瑞穂星と大和国、そしてティエルクマスカは大きな大きな転換の時を迎える事となる……。


 〜 つづく 〜

風雲急を告げてるので今月中にまたupしたいです

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[良い点] 何周もするほど二次創作として素晴らしい小説だと思います [一言] 更新、楽しみにしてます
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