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ある精死病復帰者の記憶 その1 西暦1005年~1060年

ふと思い立ったので書かせていただきました。

柗本保羽様の方にも送らせてもらい、好評と許可の方をいただいたので公表いたします。

 『アァ、エルダラカシワギ。ソレト精死病患者ノ記録デナ。オモシロイ記録ガアッタゾ』


 日本が銀河連合に加盟したあの時から云年後のある日、ティエルクマスカ議員になった柏木の元にダストール人の知り合いからそんな事を言われて渡されたある精死病患者のもう一つの記憶。

 本来なら政治家たる柏木にとっては畑違いも甚だしいモノだが、それでも日本人…もといヤルマルティア人に是非見て欲しいと言われ、押し付けられてしまった……最もPVMCGを見るだけでいいので迷惑でもなかった。


 そんな訳で柏木はそのデータを見たが、云分後、「え?」となり「これ、精死病患者さんの記録……なんですよネ?」と尋ねるまでとなった。


『ソウダ。中々オモシロイダロウ?』


 にこやかに言うダストールの知り合いさん。


「え、えぇ……それは、そうなんですけど……」


 やや狼狽した様子の柏木。


『日本デハ、ソウイウアリ得タカモシ知レナイ歴史ヲ、仮想戦記ト呼ブノダロウ?』

「ええ……確かにそういうジャンルは有ります。ありますけど。これは…」


 柏木は言いたかった。


「これ火葬戦記の方だ!?」と…。


 そんな訳で、とあるダストール人の見たもう一つの、あり得たかもしれない世界の話が始まる……。


『チナミニ、ソノ患者ハ今、日本ノあにめくりえいたあヲ習ッテ、ソレヲあにめ化シタゾ。今ティエルクマスカ中デ大人気ダゾ』

「アニメ化したんですか!?これ!?」


 そんな訳で一部アニメ映像と柏木サンのツッコミを含んでの、あり得たかもしれない歴史が始まるのである。


    *    *


 皇紀1665年・寛弘2年(西暦1005年)

 その日、大和の国は国が滅びかねない程の衝撃が走った。

 無理もない。一〇〇〇年後の今ですら衝撃的なのだから、当時はまさに天が攻めてきたとでもいうべき程の衝撃だろう。

 京の空を覆うはヤルバーン……に似た都市型調査艦。そりゃ驚きもする。

 当時の京の人間がさらに驚いたのは、その艦から降り立った不可思議な空飛ぶ塊が携えていたのは、見事な箱に漢字でしたためられた親書であった。

 当時は遣唐使が廃止され、とっくに宋の時代となっていたが、貴族達は漢字を使っていた。

 もっとも貴族の女性はひらがなを使用して恋文を送っていたようだが……


 その手紙は日本語を含んだ漢字で書かれていた。つまり、当時の貴族の知識を学んだ人物がいると、大和の朝廷は悟った。

 その書いた御仁を見て「嗚呼、あの時の御仁か」と老体のとある貴族が言ったのであった。



 それより二〇年前の皇紀一六四五年、山城の何処かの山において天より石が降ってきた。

 否。石ではなく船である。それを偶然、竹取の翁が発見し、中よりそれはそれは美しい女性がおり、翁はそれを保護した。

 その美しき女性は不思議な事に何か書く物を所望し、先立つものとして不思議な器より金を出した。これには翁は驚くも、市へ急ぎ紙と墨と筆を購入し、その美しき女性に与えた。

 女性は必死にその紙に何かを書き出す中、都より役人が何事かと尋ねてきた。無理もない、いきなり翁が金を携えて紙と墨筆を求めたのだから怪しまれもする。

その役人もその美しき女性に驚き、なんとも無謀な事にいきなり求婚を迫るという暴挙に出た。

 女性は書き物の途中であり、邪魔されて腹を立てて「そんなに連れて行きたければ高硬度鉱石ダイヤモンドの手錠でももってこい!」と言ったとかいわなかったとか……


 そんな事もあり、その女性はすっかり都で噂となり、翁もまた女性から泊めさせて

貰ってる礼として金銀を貰い都で交換している訳なのでこれもまた噂に拍車をかける一因となった。


 噂を聞きつけて貴族達が翁の家を尋ね、珍しい品を土産にすると女性はとても喜んだが、しかし求婚については消極的で拒否をしていた。その為に噂が噂を呼び、貴族達でかの女性の話を知らぬ者はいないとなるまでになった。

 そしてついに時の帝たる花山天皇にその名を知られるようになった。

その頃には書き物もすっかり終わり、連日くる貴族達と話をする日々に追われており、皇帝の要望を突っぱねる訳にはいかないとしてついに帝のいる都へと赴いた……

 と、ここまで読めばこれが竹取物語もといかぐや姫もとい、その美しき女性がナヨクァラグヤ・ヘイル・サーミッサであると分かるだろう。

 そんな訳で、史実通りにナヨクァラグヤはイザイラへと帰還するが、その際に書き留めていた紙一式を持ち帰る事に成功し、見事精死病に対する対策・処置を確立する事に成功する。つまり書き留めたものはここでも精死病についてだったのだ。


 また、その絶大な名声をもとに、いつ何度期文明の危機に遭遇しても大丈夫なように自由な発想ができる民主制へ移行し、返し刀で精死病打破のキッカケと手厚い保護をしてくれた大和の国をティエルクマスカ連合に入れよう!運動を開始し、見事その運動が実り、20年後の皇紀1665年に調査艦がたどり着いたのであった。

無論その20年は民主制移行の為のゴタゴタありーの、精死病打破ありーのな年数であり、地球及び大和へ行くのはそう時間は掛からなかった。


 それからはもう、混乱を孕みながらトントン拍子に事が進んだ。


 まず、花山天皇もとい花山院とナヨクァラグヤが再会し、なんとそのまま結婚という流れとなってしまった。

 好きでもない男に、求婚薬など授ける訳がなかろう?と乙女顏で子孫に語ったとか語ってないとかいうナヨクァラグヤさんの生き写しさんがいうように、当時二人は『そういう仲』であり、最初こそ「なぜあの薬を飲まなかったヴォケ」と涙ながらにビンタする騒動までになったが、「お前が居ない時間を過ごしても意味ないだろ!」とゲロ甘な台詞を吐いて、20年間の空白を埋めるかのように天が割れるほど泣いたそうな。

 その後はやはり20年間の空白を埋めるかのような「アツイ夜」を過ごしたとか過ごさなかったとか……多分絶対過ごした……


 しかしながら、此方では昔も今も皇族が他国の王家の人間を入れてないように彼方でも問題はあったようだが。というか花山院さん仏門入ってるし。

 しかし恋は盲目というかなんというか、そこをなんとかしてしまったのだ。

 それこそ最早某ポリネシアでハワイアンな諸島との王室結婚とかではなく、高天原から来た天女との結婚レベルの大騒動であるからして、むしろイゼイラだったから出来たと言ってよかった。

 体裁上は「神様と結婚するから仏門でもOK」という超法的な処置を行ったそうな。


 そんな訳で大和とイゼイラに太いパイプ…というよりもはや結婚腕輪をはめた如くであった。

 国体的にももはやイザイラ=大和連合共和国というレベルな訳で、ハイクァーンでの食料・物資の永続的な配給とイゼイラ基準のインフラ整備や生活水準の整備が進められる事となった……


    *    *


 さて、ここまでなんとか気合入れて読み進めていた柏木だが、彼の脳裏は以下の事で占められていた。


「これ小説家になろうで見た……」と。


 しかも何かといわれているチート国家モノであると。


 だが興味深い物がある。精死病が解決し、その解決の糸口になった日本…もとい大和の国が発達過程文明ではなく、トーラル文明となるのは興味深いのである。


「しかし、これ、大分詳しく歴史が書かれてあるけど、この患者さんは向こうで何をしていたんだろうか」

『アア、ナンデモ歴史好キノあにめいたーデ、コウイッタあにめヲ作ッテイタソウダ』

「あっちでもアニメーターでこっちでもアニメーターをやってるんですか…」

『此方ノ方ガトテモ面白イト言ッテイタゾ』


 その言葉に、あぁそうもなるか。と思った。なにせこちらの世界は伝説の大和国……もといヤルマルティアが発見され、イゼイラとの関係も蜜月の関係ともなれば狂乱するしかないだろう。事実伝説の大和国でアニメーターとして働いていたのだから。


「ですが、日本…いや、ヤルマルティアがトーラル文明化すると、発達過程文明ではなくなるので色々とまずくなるのでは?」

『ウム、ダガ特ニ表立ッテ(文明崩壊レベルの事件で)騒ガレテイル事件ハナカッタソウダ』


 その言葉にふむふむと再び資料に目を通す。


    *    *


 その後は、まさに内政チートここに極まり。と言った感じである。

 ハイクァーンでの食料や物資の生産、イゼイラ水準の教育やインフラ整備の普及……

 大和国はイゼイラを伊瀬威羅と表記し、『伊瀬いぜ国』や『威羅いら国』等と呼んでいた為、イゼイラへの留学や使者を『遣伊使』と呼び、自国の発展に尽くしたとある。

 琵琶湖には調査母艦と接続艦の合体した姿の軌道エレベーターが天高くそびえ、周辺の街や村は否応なく発展をしていった。


 また国体や国防も大編制し、イゼイラの体制を参考にするも民主制政治を理解できずに半ば立憲君主のような形となり、当面は天皇は君臨すれど統治せずとなり主権は大関白が執り行い、議会ならぬ議院が実際の内政を行うという仕組みである。

 ゆくゆくはイゼイラのように皇家とそれに近い家の人間は終生議員となる予定である。


 軍制も見直され、貴族の私兵集団として年々勢力を拡大してきた武士に白羽の矢が立ち、武士の棟梁および大和軍を統括する者として征夷大将軍が常備され、議院の中で将軍を決めるという事となった。

 既に貴族の中央での勢力争いにより、地方との分離と武士の台頭が表面化してきた時代でもあったが、ここにきて貴族側に軍配があがる形となり、貴族が武士の手綱を握る形となっていた。


 政治的な混乱をイゼイラの助けもあり、どうにか乗り切る目処が立ったが、皇紀一六七九年(一〇一九年)対外的な事件が起こった。

 対馬に突如として刀伊と呼ばれる海賊が攻めてきたのであった。

 しかしながら対馬には最も海外に近い島という事もあり、完全武装した軍勢が常駐しており、初動こそ遅れたものの、一二隻を沈め、一〇〇人以上の捕虜を取る事に成功していた。

 なにせこの時代、木船なのでイザイラの簡単な武装でも超兵器というチートぶりなので、むしろ全滅できなかったのがおかしかったりもするが、一二隻沈めた処で撤収し始めたので追い打ちをやめただけであった。

 だがその後、海賊は懲りずに壱岐へ襲撃する。

 しかしながら神の如くの攻撃に一二隻も沈められたのに懲りたのか、一〇隻程度の船団で上陸部隊も三〇〇人程度であったが、完全武装で要塞化を進めていた対馬に対して、壱岐は一四七人の兵士しかおらず、武装も鎮圧レベルの武装にとどまっており、数的には劣勢ではあった。


 しかしまぁ、やはりなんというか。勝負にはならなかった。


 数時間も掛からずに対馬から大気圏内用小型巡視船…見た目は空飛ぶ帆のない灰色の遣唐使船…がすっ飛んできて、全船を沈めて多くの捕虜を獲得するのであった。

 捕虜は粗方の尋問を行った後、今でいうウラジオストクあたりからやってきた海賊という事が判明し、送り届けたそうである。


 かくして事件は被害と言えば対馬の沿岸の村が襲われた程度で死者も日本側は一桁で済んだ形で幕を下ろすが国防や地球での外交に大きな波紋を呼ぶものであった。

 今の今まで日本は大陸の中華の侵略に怯えることはあってもすべて杞憂に終わり、200年ほど前に大規模な海賊の襲来があったのを期に、対外的には穏やかで内乱の鎮圧や宮廷での権力争いに暮れていたが、ここへきて大きな決断を下さねばならなかった。

 つまり、イゼイラ・ティエルクマスカの圧倒的な技術力により強化された軍事力で、大和に災いをもたらすであろう勢力を根絶やしにするか、あるいは国を閉ざしあらゆる国と官民ともに関わりを持たずにいるか、果てはその逆か。をである。


 結論を言えば、大和は鎖国を選んだ。

 もはや大陸の宋すら霞む程の天人ともいえる存在、イゼイラ・ティエルクマスカの国々と国交を結んでいるのだから外交や貿易を行う意味すらなかった。

 それにティエルクマスカにおいても発達過程文明の発展ぶりを見たいという要望もあり、その対価として非常に魅力的な案を出されたからである。


 ティエルマスカの鎖国の要望の対価。

 それは火星をテラフォーミングし、人間が住める状態にするという話であった。

 当然のように11世紀の人間にそんな話を理解させるのも一苦労であったが一旦理解してしまえば話は早かった。

 最初は小規模な移民で様子を見ていたが、改良された稲や作物の採れ具合が非常に良く、次々に移民希望者が殺到したのであった。

 ちなみに、大和は地球を『瑞穂乃星みずほのほし』と呼び『高天乃星たかあまのほし』と呼称していた。


 その後、植民に成功した大和は思い切った判断を下した。なんと首都機能を火星へ移し、地球の本土を武士達の大地として管理する事としたのであった。

 無論、問題はあったが、結果的にそうなってしまった。

 一時は別にそんな事しなくても…という風潮が席巻したが、瑞穂乃星の大和本土は災害も多く、イゼイラの惑星調査によると数百年後、瑞穂乃星(地球)は小規模な氷河期に入り、食糧生産が難しくなる等の材料をもとに反対派を丸め込んで遷都を決行したのであった。

 最も遷都を決行したのは11世紀も半世紀以上も経過していた。

 政治機構、経済基盤の大半を高天乃星へ移した為、瑞穂乃星の大和は半ばイゼイラの地上のような閑散とした人間社会と自然豊かな緑なす列島となった。(しかし柏木サンの目にはその『閑散とした人間社会』が建築技術の違いもあるものの、イゼイラのそれというよりは地方の県庁所在地並みには発展したものに見えた。琵琶湖周辺なんてまんま未来都市みたいだし、京都なんてなんか空中都市化してるし…)


 なお北海道もとい蝦夷地は、イザイラよりもたらされた正確な地図により地理的に近い事と、歴史的な関係もあるという事で、大和とイゼイラの共同で文明化させて自治州化させた。

 その一方で琉球は経済的な関わりはされていたが、大和は蝦夷とは違う独自の文明圏として判断され、外国扱いされた。


 ちなみに鎖国と言っても貿易事態は大和国の完全な管理下の元、以前のやり方のまま継続していた。ただし貿易港は制限され、博多・佐世保・坊津に限定され、大陸側にも通達し、ほかの港や島へ入港しようものなら巡視船がすっ飛んできて警告を促し、漂流者や航行間違いならばそれ相応の施しを行い返したが、攻撃を行う船は容赦なく沈めたという。

 なんでも記録では大陸人・琉球人は比較的警告に従ってくれたが朝鮮人は中々従わなかったとされている。


    *    *


 と、まぁそこまで読んでいた柏木サンであるが、そろそろ宿舎に帰る時間だったりして一旦中止してダストール人の友人サンに別れの挨拶とお礼を言う。

 

「いやぁ中々興味深い内容ですね。宿舎でも見ようと思います。もう遅いので、今日の処はこの辺で帰らせていただきます。本当にありがとうございました」

『イヤイヤ、気ニ入ッテ貰エテ何ヨリダ』


 というやり取りを行い、柏木サンは帰って行った。


『実ハソレ。私ノ記憶デモアルンダヨナァ』


 柏木サンが帰ったの確認すると、かの友人サンはそんな事を言ったとか言わなかったとか。


 〜 つづく 〜


精死病患者は5億人程いるので三桁人程こういう世界を体験した人がいても問題ないと思いました。

つまり、こういう話やる人が後3桁ぐらい増えても全然大丈夫という事デスネ!

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