表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人嫌いな魔導講師の黙示録  作者: 皇千紗
人嫌い非常勤講師
9/51

008



「うわー、見ろよ、エリク、あの講師を……」



「……あぁ」



「あんなに生き生きしていない人を見るの初めてだ」



教室のあちこちから、ひそひそと響く囁き声。




「で、ここは多分、こうなるので……大体はこうなりますね」



生徒達の蔑みきった視線の先では、顔面に盛大な青紫色のアザが色濃く浮かぶ男……サーファが緩慢な動作で教鞭を執っていた。





サーファが行う授業は内容が理解できない。そもそも説明になっていない。最低最悪の授業からでも、何かを得るべきものを得ようとする真面目で健気な生徒もいた。




「あの……先生、質問が……あるんですけど」



とある小柄な女子生徒がおずおずと手を上げる。

名前はレン。少し気弱そうな、小動物的な雰囲気を持つ少女だ。




「なんだ? 言ってみな」


「ええと……先ほど先生が紹介した五十六ページ三行目に載っているルーン語の呪文の一例なんですが……これの共通語訳がわからないんですけど」



「ざ、残念だけど俺もわからない」



「えっ?」



「悪い。自分で調べてくれ」



悪びれなくそんな風に返され、質問したレンは呆然としていた。

こんなサーファの対応に、元々腹を立てていたが、ますます腹を立てたリュゼが席を立ち、猛然と抗議した。



「待って下さい、先生。生徒の質問に対してその対応、講師としていかがなものかと」




刺々しいリュゼの糾弾に、サーファは苦笑を浮かべため息をついた。




「俺もわからないんだ。だってこれは……」



「言い訳は結構です! 後日調べて次回の授業で改めて答えてあげるのが講師として――」




サーファの言い分を遮ったリュゼは怒りのままに言葉を並べていく。



その時、ポツリと聞こえた声にリュゼが振り返る。



「母なる大地ですね」



「えっ?」



「共通語訳ですわ。そのページに書かれた共通語訳は色々あって正しいものが不確かだから、先生はあえて私たち『生徒』に託したんでしょうね」




後列に座っていたおとなしげな女子生徒。決して発言しなそうな生徒が発言したのだ。




サーファという男が決してそんな魂胆なわけがない。

すっかり静まってしまったクラス。

どこまでもやる気の欠けらを見せないサーファ。

肩を怒らせて、荒々しく着席するリュゼ。

それをはらはらした様子で見守るレイナ。



教室内の雰囲気は最悪。クラス中で募る苛立ち。無駄に流れる時間。

こうしてサーファの記念すべき最初の授業は、何も得る物のない不毛な時間の浪費に終わったのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ