式
「葬式、やるぞ」
入試終わりの、夜のことだった。
雪のない底冷えの中、ヤツは公園のベンチでライターを弄んでいた。モールス信号のようにカチカチと、オイルの無駄を繰り返す。
俺に気付いたヤツは白い息を漏らす。
「香典は?」
「ん」
肉まんが入ったレジ袋を投げつけた。
「冷めてんじゃねーか」
香典返しに受け取った小さめの半分は、確かにヌルいという段階を過ぎている。
俺はライターを指差した。
「焼けばいんじゃね」
「アホじゃねーの」
深夜の公園に呼び出す悪友ほどじゃない。
目の前にあるのは、地面に積み上げられた教科書の山。数学数学数学数学。通知表に咲くアスタリスク、赤点を相棒に歩んだ日々の軌跡である。
「お前、お経読めるのか?」
「倫理選択を舐めんなよ。知らん」
「くっそ。三平方に祟られちまえ」
お経が何かはよくわからないが、ありがたいお言葉なのだろう。数学にとってのありがたいお言葉は、公式に他ならない。
「お前天才だわ」
ヤツはかったるそうに笑って、教科書の山にライターを投げ込んだ。
降り始めた粉雪は、頬の上で溶けていく。