贖罪大儀 解説・あとがき
「贖罪大儀」はもとより、朝霞がボストンの街を走ったところで終わる短編として、私が書き下ろしたものでした。それも公開していたのは、遠藤と中村、そして著者である私だけであり、特にどこへ掲載するという予定もない作品として、私の小説フォルダの底の底に埋もれているはずでした。
新宿祭で、冊子「稿葉」の製作と販売をすることが決定したとき、私は予定プロットとして四つの作品を用意しました。いずれもSF、ファンタジーなどを取り入れたフィクション性の強いもので、贖罪大儀のように現代社会を舞台とした作品ではなく、それらに則した世界観や人物を用意する、いうなればいつもの私どおりの作品を執筆する予定でした。
結果からいってしまえば、その後に短編として執筆した贖罪大儀を書き足し、大幅な改稿を加えた上で掲載する運びとなったわけですが、これは遠藤と中村が、「この作品の続きが読みたい」と強く希望したことと、率直に言えば、私自身が今回の「稿葉」に対して、それほど高いモチベーションを持っていたわけではなかったのです。適当に一万文字程度の短編を執筆して終わらせる、そんな心積もりで書いておりました。
冊子を購入し、本編と中村の「種も仕掛けもある魔法」、遠藤の「ミッドナイト・ドリーマー」をお読みいただいた方にはお分かりかと思いますが、ひときわ殺伐とした世界で、主人公であるアルバート・ダウンセリングが、ひょんなことから仲間となったほんの数名で世界秩序に喧嘩を売る、そういった内容になっております。完成度としては、中編として先述した二作品、ほか短編と比して特筆するもののない質でお届けした次第ですが、今回の「稿葉」を手に取り、
「ああ、もう少ししっかり書いておけばよかったかな」
と、胸の内で独り言ちることとなったわけです。
私の作品として、おそらく皆さんが目にしたことがあるものはこの小説化になろう様にて連載している「~idea~」でしょう。この作品は魔術師の集団に家族を殺された主人公が復讐のために、今世紀最後の魔女と呼ばれる女性とともに戦っていく、今で言うライトノベル風味の強い――自分にとってはとても珍しいことに――バトルものになっております。これに関しては一定量の情熱を傾けているわけですが、贖罪大儀と似通った雰囲気を持っていることは、両作品をお読みいただいた皆様にはお気づきのことだろうと思います。
私が描きたいのは、世の不条理や大人の事情、方や世界の意思といった「常識に真っ向から立ち向かっていく個人」と、彼らを中心として展開されていく物語を動かす人間の情愛、そしてリアリティです。
特に実在の軍組織を多く登場させました。英国特殊空挺部隊、独軍の特殊戦団、米特殊作戦コマンド傘下の各部隊、そしてわが日本国の特殊作戦群。実在の組織を用いることはリアリティを色付けする最も基本的な手法といえるでしょうが、自分としてはそれらを用いた物語る意の展開にも一定以上の重きを置いて執筆していたつもりです。各登場人物の来歴や所在地、そのほか諸々の部分にまで細かい描写を付け足したい気持ちはありましたが、ただの薀蓄になることが用意に想像され、また、誰の得になるのかと考えたとき、自然と筆は止まっていました。得にジェームズ・クライムズについては、その後の展開や朝霞との関係性、ワンマンアーミーをそろえたトライ・フォースでなぜガウンセリングと親交を持っていたのか、実はそのあたりまでプロットは考えているのですが、そのあたりは皆さんのご想像にお任せしたいと思います。小説はページの上ではなく、皆さんの頭の中で物語を展開するものだと思っております故。
それらを、贖罪大儀、はたまた~idea~でわずかでも感じ取り、共感してくださるのならば、これ以上に嬉しいことはございません。
と、結んでいきたいところですが、私の執筆生活は基本的に自分が書いていて楽しいことを至上としているので、「お目汚しにならなければいいな」程度の心積もりであります。
今回の「贖罪大儀」、「稿葉」をお買い上げいただいた皆様、本当にありがとうございました。来年はもう少し「まし」な作品を、VOL.2に投稿する所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、また来年にお会いしましょう。