柊生として最後の一戦
「……事情は分かったよ。あとは任せなさい」
「すみません。校長」
夏郷が礼を言って、その場を後にした。
「さてと。君はわざわざネットカフェにて虚偽の書き込みをしたあと、その足で再び高校に戻ってきた。そうだね?」
「そうです」
男子生徒は項垂れている。
「君がしたことは許されるべき事ではない。しかし、君の手に付いた土は、君を充分に反省させた証である。君は夏郷君の怒りを受けたのなら、必ずや立ち直ると信じ、無罪放免としよう」
「許してくれる!?」
「ただ約束してほしい。世の中には、いくら反省しても償いようのない罪を犯してしまう人も居る。決して、そのような罪を犯さないと……約束してほしい!」
男子生徒の手を校長の手が包む。
「約束……します……!」
男子生徒の頬を涙が伝った。
※ ※ ※
「くっそうおお」
緋は悔しそうに叫ぶ。
「僕にも気持ちは解る。明日、送り出す卒業生の中に彼が居ると思うと、やるせないさ」
「このなんとも言えない気持ちをどうすりゃあ!?」
「そういうときは、全部吐き出すのが良いんじゃないか?」
夏郷が緋に提案する。
「そうですよね! じゃっ、一戦交えてくるか!」
「僕も行く。久し振りに緋とやりたい」
足早になる緋を七菜が追い掛ける。
「破耶は行かないのか?」
「わたしに話が有るのではなかったのか?」
「その事なら気にするな。明日でも間に合うから」
「そうなのか。ならば、二人と共に行くのだ」
破耶が緋と七菜を追い掛けた。
「本当によかったの? 大事な話だったんじゃない?」
怜衣が訊く。
「大事な話だから大事にしたいんだ」
「そっか」
怜衣が宇留田を無理矢理引っ張っていった。
※ ※ ※
「ひっさしぶりー!」
レッドが駆け回る。
「少しは落ち着いたらどうだ」
クレナイが言う。
「ついつい」
レッドは照れる。
「まあ、ムリもないがな。……それで、これが今回の依頼なのだ」
「何々……東地帯にて大暴れしているヴァロンを十体討伐せよ、か」
「ヴァロン相手なら三人でも大丈夫ですね!」
「おう! 七菜が凄く頼もしいのだ」
「破耶先輩がアテにしてくれてるのなら、僕も頑張りがいがあります!」
「よしっ。早速行こうぜ」
三人は、ヴァロンの所に移動した。
※ ※ ※
「ギャアアアア!」
「キタキタ、ヴァロンの雄叫び!」
「気を抜くでないのだ。数ではこちらが不利なのだからな」
クレナイが構える。
「はい」
クールが返事をした。
「ギャアアアア!」
「掛かるのだ」
クレナイがヴァロンの真下に滑り込む。
「ふん!」
クレナイがヴァロンを蹴りあげると、クレナイも空高く飛び上がる。
【アタック】
「仮面タックル」
「ギャアアアア!」
クレナイがヴァロンに体当たりをして、少し離れた場所に居たヴァロンを巻き込んだ。
「これで二体、片付いたのだ」
「流石です、破耶先輩」
クールがハイタッチする。
「破耶さん、いつの間に90にまでレベルが上がってる」
レッドはクレナイのステータスを見ている。
「次は僕が!」
クールがヴァロンに向かって走り出す。
「ギャアアアア!」
ヴァロンの尻尾がクールを襲う。
「甘い!」
クールは尻尾を飛んで避ける。
「はああ!」
「ギャアアアア!」
勢いよく落下したクールの拳が炸裂した。
「まだまだ」
クールは尻尾を掴むと、別のヴァロンへ投げ飛ばす。
「ギャアアアア!」
【ファイナル】
「エンド・ナックル!」
クールの拳がトドメをさした。
「僕も二体倒しました」
「うむ。よくやったのだ」
「お手柄だぜ。しかし驚いた~、レベル30で攻撃力が500だなんて」
「パラメーターを攻撃重視に振り分けたんだ。おかげで防御を殺しているが、与える一撃は大きい」
「成る程~、パラメーターの振り分けか。漢はレベル20で、攻撃力200のままだ」
「ギャアアアア!」
「叫ばなくても相手になってやるよ」
レッドは背中から刀を抜く。
【アタック】
「紅蓮斬・零」
レッドが刀を振ると、衝撃波が発生し、ヴァロンの身体を切り裂く。
「ギャアアアア!」
ヴァロンは地団駄を踏む。
「くっ!?」
レッドは体勢を崩す。
「ギャアアアア!」
ヴァロンが四体同時に飛び掛かる。
【ファイナル】
「紅蓮斬・乱舞」
「ギャアアアア!」
レッドの斬撃が、四体のヴァロンを撃破した。
「な……」
クールは言葉を失う。
「緋よ。今、何をしたのだ!?」
「あー、別に大したことはしてないです。ただ単に二刀流で斬っただけです」
「緋、君はいつから二刀流になっていたのさ!?」
「ん? いつからって……最初からだぜ?」
「最初から!?」
クールが驚きを隠せないでいた。
「おう。漢が単に今まで使わなかっただけで、ずっと二刀流だ」
「知らなかった」
「「ギャアアアア!」」
残り二体のヴァロンが吠える。
「一気に決めるのだ」
【ファイナル】
「七菜、取っておき……かましてやろうぜ」
「いこう、緋」
【タッグ】
「超・仮面キック!」
「「紅蓮斬・ダブル!」」
「「ギャアアアア!」」
クレナイの強烈な必殺キックとレッドとクールのコンビネーション技が炸裂した。
「お見事なのだ」
「破耶さんこそ」
「緋も破耶先輩も凄く良かった」
三人は両手を広げてハイタッチした。
※ ※ ※
「うー! 久々にやった仮面英雄伝は疲れた~」
「だらしがない。そんなことでは先が思いやられる」
「ははは。こうして二人の掛け合いをゆっくり見れるのも僅かか」
「何言ってんです、好きなときに会えるじゃないですか」
「それもそうだ……が、大学と高校では勝手が違うのだろう。容易く時間は合うまい」
「そんなもん漢達が合わせるまで」
「僕も可能な限り合わせます」
「ありがたいな。良い後輩を、友達を持った」
破耶が立ち止まる。
「二人共、お茶にしよう」
「喜んでだぜ」
「お供します」
三人は喫茶トランプに入った。




