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怒りの鉄拳

「うーん……」


 緋は物置の中に居た。


「怪しい物なんかないけど」


 ボールや跳び箱やマットを退けてもみたが何もない。


「……やっぱりイタズラだったのか……」


 緋は諦めて物置を出る。


「どうだった?」


 七菜が訊く。


「不審な物は何もなかったぜ。そっちは?」


「上の通路には何もなかったさ」


「となると、ステージを見ている夏郷さん達か」


 緋と七菜はステージに上がる。


「怜衣さん、宇留田さん。何か見つかりました?」


「なーんにも。そっちは?」


 怜衣の問いに、緋は首を横に振った。


「爆弾なんて隠そうとするならば、ステージはうってつけなんだけどね」


 宇留田が幕を見ながら言う。


「何でもなければそれでいいけど」


 夏郷が指で×を作っている。


「こっちは何もなかったのだ」


 破耶も合流した。


「残すは、外を見ている愛生アッキーだけか」


「そろそろ確認を終えてる頃だろう」


 夏郷がステージを降りて、体育館の外に出た。


「!」


 夏郷が急に走り出す。


「夏郷さん!?」


 緋達が夏郷の後を追い掛ける。


※ ※ ※


「思惑通りだ」


「こんな人気ひとけのない所まで追い込んで、何を考えてるんですか?」


 体育館の側の雑木林に、愛生と男子生徒がいた。


「そんなの決まっている。加藤さんを隅々まで味わうんだ~!」


 男子生徒が愛生をガシッと押さえる。


「やめてください!」


 愛生は抵抗するが、力負けしてしまう。


「無駄だよ? 大体、上級生に反抗するなんてダメだ」


「いたい!」


 愛生が頬を叩かれて倒れる。


「さあ、楽しもうか! 俺の……卒業式の前祭を!」


「いやあああ!!」


 愛生の叫び声が雑木林に響く。


「おりゃあああ!!」


「ぐはっ」


 男子生徒が転がった。


「大事ないか!!」


「破耶さん! はい、何にもないです」


「……生徒会? なんで居るんだよ!? 生徒会は体育館で、いくら探しても見つかることのない爆弾を探してる筈だ」


「……ということは……書き込みの主は!」


 怜衣が、おもいっきり男子生徒を蹴った。


「なんだああ!! イイ気になりやがってええ!!」


 男子生徒が怜衣に飛び掛かる。


「離れろっての!」


「俺と前祭を過ごしたいのなら、そう言えばいいんだ」


 男子生徒が怜衣の制服に手を掛ける。


「おい!」


 夏郷がグンッと、男子生徒を木に押し付けた。


「何だよ……邪魔するのか?」


「……邪魔じゃ不満か? 何なら殺してしまっても構わないんだがな」


 夏郷の腕に力が入る。


「何だよ……他人ひと事だろ?」


「じゃあ、殺されても他人ひと事だな」


「正気かよ!?」


「正気だから怒ってるんだ!!」


「グバッ!!」


 夏郷に殴られて男子生徒が鼻血を出す。


「俺の機嫌を損ねて鼻血で済んだのは幸運だ。書き込みの件は大目に見てやるが、愛生ちゃんと怜衣を襲った事はしっかりとケジメをつけてもらう」


「ケジメ、だと!?」


「ああそうだ。二人に土下座しろ。俺が許すまで絶対に顔を上げるな」


 夏郷が男子生徒に促す。


「くそっ!」


 男子生徒は土下座をした。


「いいか……俺が許すまで、だ」


「夏郷」


「そうだな。すまないけど、校長と理事長に知らせてくれ」


「了解したのだ」


 破耶は校長室に向かった。


「君。どうしてこんな事を?」


 七菜が訊く。


「卒業する前に、思いを成就しようと。加藤さんに思いをぶつけようと」


「無理矢理で叶う恋なんて恋じゃない。ただの思い込みさ」


「思い込み?」


「叶ったと思うのは君だけだ。愛生ちゃんには何の気持ちも無いのに」


「俺は!」


「君は、最低さ。比較対象なんて存在しない」


「……くっ」


 男子生徒は悔しがる。


オレの先輩に、こんな奴が居たなんて。軽くショックだぜ」


 緋が男子生徒を蔑んだ。

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