好奇心
「……なるほど。珍しく元気ないと思えば…… 」
「……はい…… 」
放課後。緋は夏郷に、札哉からの話を打ち明けた。
「悩んでるってことは、気持ちがあるってことだよね? なら、決めるのは緋自身じゃないか」
「漢、ゲームは好きだけど、ゲームを作るほうは難しくて……知識も必要だし、理数系じゃなきゃ無理だって思ってたんです。けど、専門知識がなくても構わないと言われたときに思わず胸が踊ったんです。ただ……海外に半年間ってのが引っ掛かって」
「七菜ちゃんのこと?」
「……真っ先に頭に浮かびました。漢にとって、七菜はそれだけ大きい存在です。でも……もうひとつあって……」
「もしかして……卒業式のこと?」
「はい。夏郷さんや破耶さんにはお世話になってばっかだし、しっかりと卒業式には出たいんです」
「……嬉しいな……後輩が俺たちをそんなに想ってくれてるなんてな。けどさ。俺たちの事と自分の事を重ねて考えちゃダメだ。緋は緋の路を進むべきだよ」
「……夏郷さん……」
「いまは、自分の素直な気持ちに従ってみるんだ」
「……ありがとう夏郷さん。漢、吹っ切れました!」
緋は夏郷に礼を言うと、七菜の家に向かった。
※ ※ ※
「……フン!」
七菜の投げたボールは壁に当たると、七菜のグローブに跳ね返ってきた。
「我ながら球威が増してきたか」
「七菜。ちょっと買い物に行ってくるけど大丈夫?」
「大丈夫だよ!いってらっしゃい」
(誰も僕なんか襲いに来ないから)
「フン!」
ボールは壁に当たると、七菜の股下を勢いよく転がっていく。
「しまった!?」
「ほらよ」
「……緋! わざわざ家までどうしたのさ?」
「どーしても今日中に言いたくってな」
「電話で済むだろ」
「いいや。直接言いたくってな」
「それで。言いたいことって?」
「……漢、来月から半年間、海外に行く」
「へ?」
七菜が、思わず持っていたボールを落とす。
「んじゃ。また明日な!」
「待って?!」
「どうした?」
「いきなり言われて納得できるかい!? まったく、君は突飛だ!」
「しょうがないだろう。漢も今日言われたばっかだし」
「今日言われて、今日決めたのか! ……わかってるの? 海外だ! 言葉が通じないんだぞ!?」
「そうたけど」
「……その様子だと両親にも言ってないのかい?」
「高校から真っ先に来たからな。まだ言ってないぜ」
「まったく。両親に相談もせずに、報告も後回しで、僕の家に向かうなんて。順序が滅茶苦茶だ!」
「親には帰ったら言うぜ。これでも夏郷さんに相談して決めたんだ。そんで漢の素直な気持ちをお前に言ったんだ」
「……考えは変わらないか?」
「たぶん、な」
「わかったさ。もう何も言わない。ただ約束してくれ! 悔いは残さないと!」
「約束する」
そう言うと、緋は帰っていった。
「どうして緋は海外に行くことになったんだ? ……夏郷先輩に訊いてみよう」
七菜は夏郷に電話する。
【…………という事だよ】
「夏郷先輩。ありがとうございました」
七菜は電話を切った。
「スペシャルアドバイザーか。ゲームに少しでも関われるなら、緋が望むのも分かる」
七菜はボールを見つめる。
(僕が背中を押して応援しないでどうする!)
七菜がボールを壁に投げた。




