千景/遭遇する2人
「馬鈴薯、人参、玉葱、白滝……」
千景は、買い物袋を見ながら確認する。
「……しまった……お肉が無い! 買い忘れたわ」
千景は来た道を振り返る。
「……この暑さの中を引き返すのは気が引ける。かといって肉無しの肉じゃがは……まあ良いわよね、どうせ食べるのは新田なんだもの!」
千景は無理矢理納得すると、なるべく日陰を通りながら歩いていく。
「……喉が渇いたわ」
千景は近くにあった自販機で缶ジュースを買うと、一気に喉を潤した。
「……生き返ったー! ……あれは?」
千景の視界に、鬼の形相の女性が映る。
「この暑さが憎いのは解らなくはないけど、程度を超えてない?」
女性がチラッと千景の方を向くと、千景に近寄ってきた。
(え? 今の独り言、聞かれたの!?)
「くーれーなーいー! はーやー!」
「ちょっと貴女!? いきなり何なの!!」
女性は千景に掴み掛かる。
「くーれーなーいー!!」
「紅? 破耶って!? ……悪いけど人違いよ」
千景は女性の手を振り払う。
「教えろ! 紅破耶の居場所を!」
「……貴女は誰! 知らない人には教えられないわ!」
「ちっぃ」
女性は歩きだす。
「ちょっと待ちなさい。貴女、紅破耶に会ってどうするの?」
「殺す。殺せばカレが戻ってくる」
女性が走り出す。
(カレ? 破耶を殺すって!? それに、あの校章は柊高の! ……イヤな予感がするわ)
「おーい、千景!」
「……新田!? どうしたのよ?」
「待ってるのも退屈だったし、どうせなら買い物を手伝おうかってな。で、どうした?」
新田は千景の顔を見て察した。
「イヤな予感がするの。破耶に危険が迫ってる気がするの……!」
「しゃーない。買ったものを置いてくるから、程ほどにな。すぐに追い付く」
新田は荷物をかごに載せると、自転車のペダルを漕ぎ出した。
「……逃がさない。破耶を狙うのなら」
千景が女性を追っていく。
(くれない!)
女性は路上を走っていく。
「あぶねえな! 気いつけろ!!」
(はや!!)
女性は、走る車に飛び出し、信号を無視し、怒号を浴びるも確実に柊高に近付いていく。
「はあ、はあ」
千景は息を切らしながらも女性から視線を外さない。
「走るのが速いわね! 全然追い付けない!?」
(くれない!?)
いきなり女性が体勢を崩す。
「今のうちに!」
千景が走り出す。
「彼女の知り合い?」
「違うわ。ただ、この女性が破耶を狙ってるから」
「破耶? 成る程、紅の友人だったのかな?」
「その……貴女は?」
「私は寺崎海乃。私も彼女を追って来たんだよ」
「追ってきた!?」
千景は、自分以外に女性を追っている人がいたことに驚いた。




