夏郷/まさかの再会
「暑いな」
夏郷は破耶の頼みで、家電量販店に出掛けていた。
「電球が切れたって言われて買いに来てみれば、クーラーは効いていないし、暑い。涼しくない」
店のあちこちに『節電に御協力を』と、ポスターが張り付けてある。
「これで良いかな。特に拘りはないらしいし」
夏郷は電球を持ってレジへと向かう。
「ん?」
レジに並ぶと、見覚えのある後ろ姿が視界に入る。
(どっかで見たような?)
「お待ちの方どうぞ」
店員の声掛けに、夏郷の前に並んでいる人が反応した。
(……!?)
夏郷の視界に、見覚えのある横顔が入った。
「お次の方どうぞ」
夏郷は会計を済まして後を追う。
「もしかして……キイラかな?」
「はい!?」
夏郷の方を向いたのは、紛れもなくキイラだった。
「久しぶり。元気にしてたかい?」
「ハッキングで捕まった人と再会しての開口一番が元気? って凄いわね」
「驚いてはいるけど?」
「心配しなくても大丈夫よ。今は警察側だから」
そう言うと、キイラは自販機の前に立つ。
「話を聞かせてよ。奢るから」
夏郷は自販機に小銭を入れた。
「戴くわ」
キイラが自販機のボタンを押した。
「警察側っていうのは、どういう事?」
「ワタシのハッキングの能力に目をつけた警察は、増加するネット犯罪に対策するために、ワタシをスカウトしたの」
「ホワイトハッカーって訳か」
「最近は、個人で開発したアプリにウイルスを仕込んで、そのアプリをダウンロードしたデバイスでいろんなサイトにアクセスすると、アクセスされたサイトが破壊されたり、ハッキングすると同時に悪意あるウイルスを送り込んで顧客情報を盗んだり……。無駄に手が込んでて大変よ」
キイラは話ながら、奢ってもらったジュースを飲む。
「じゃあ糖分は不可欠だな」
夏郷がコーヒーを飲みながら言った。
「そういえば、彼女は一緒じゃないの?」
「いつも一緒じゃないよ。まあ、買い物を頼まれたけどね」
夏郷は買った電球を見せる。
「あら、まるで買い物を頼まれた夫のようね」
「いい予行練習だよ」
「まあ。ご馳走さま」
キイラはジュースを飲み干すと立ち上がる。
「なんなら送ろうか?」
「大丈夫よ。それよりも愛しい彼女に電球を届けないと駄目よ」
「そうだよね」
夏郷とキイラは家電量販店を出ると、行く方向が同じなのか一緒に歩く。
「誤解されるわよ?」
「破耶は目撃しても不審に思わないよ。俺が破耶を信じているように、破耶も俺を信じてくれているから」
「あー暑い、熱い! 本当にアツいわよ」
歩いていると、ゲームセンターの看板が目に入った。
「ワタシは、ココに少し寄るから」
「そうか。じゃあ、ここで」
夏郷は紅家に向かった。




