夜空の下で
「わたしは間違っていたのか」
「間違っていたんなら、誰も付いてこなかった筈です」
七菜が励ます。
「三年連続で生徒会長なんて凄すぎだぜ!? 破耶さん」
緋も助け船を出す。
「しかし、結果として無関係の人達を大勢巻き込んでしまったのだ」
「紅。あまり自分を責めるのはよくない。誰だってミスはするし、壁にぶつかる。けど、それを乗り越えたとき、また一回り成長できる」
「海乃……」
「全国の反生徒会が何らかの形で関わっているとすれば、私にも非があるかもね」
「海乃も生徒会に入っているのか?」
「一応、生徒会長をやらせて頂いてるよ」
「海乃もなのか!?」
「どんな人間も完璧じゃないよ。だから仲間と一緒に乗り越えるんだ」
「仲間、か」
破耶が緋と七菜を見る。
「どうしたの? 破耶さん」
「なんでもないのだ」
破耶は明るい笑顔を見せた。
「あの~、これからどうします? 事情を話してたら、すっかり夜になっちゃったけれど~」
「今日は散々な目に遇った挙げ句、イベントだって満喫出来なかったわ! なんだか帰るのが勿体ないわよ!」
「僕も美岬に賛成さ。もう少し皆と居たい」
「矢吹も大胆だねえ。緋が羨ましいよ」
海乃が七菜を冷やかす。
「ぷっ……! 七菜が赤くなってやがる」
「五月蝿いぞ、緋! 僕は赤くなんか!」
「悪い……。まあいいんじゃないか? 可愛くてよ!」
「か……かかわっ……いい!?」
七菜が一層赤くなった。
※ ※ ※
「秘技・千枚おろし!」
「甘いぞ矢吹! ……フィナーレ・ショット!」
「まだまだなのだ、海乃!」
「流石は矢吹だよ!」
「スゲエ打ち合いだぜ! まさか卓球でここまで熱くなれるとは!」
「同じ球技として見逃すわけにはいかないさ!」
七菜も拳を作って盛り上がっている。
「……そういやあ、美岬と偵徒は?」
「お風呂に行ってる」
七菜が答えた。
※ ※ ※
「よくもまあ、宿に着くや否や、卓球で盛り上がれるわねー」
美岬は、宿をせっせと取った破耶に感心し、宿まで一時間歩いたにも関わらず卓球を提案した海乃に凄さを感じた。
「ふぅ~、癒されるわー」
美岬は目を閉じつつ疲れを癒す。
「美岬ちゃん? 居るんだよね~?」
風呂の入り口に顔だけ覗く偵徒がいる。
「そんなとこで立ってないで、さっさと来なさいよ!」
「無茶苦茶だよ~! だって裸だし~!」
「いま空いてるのが混浴だけなんだから仕方ないじゃない」
「僕は別にあとでいいし……」
「いいから来なさいよ」
「……うー~」
戸惑いながら偵徒が入ってきた。
「この宿が明日の朝まで、ウチ達の貸切状態なのはラッキーだったわね」
「うん~」
偵徒は目を閉じながら返事をする。
「……偵徒のクセに、一丁前に照れてんな」
「うはっ!? ……ゴホッ……」
美岬に引っ張られ、偵徒が溺れかける。
「だらしないわよ!? 男ならシャキッとしなさい!」
「美岬ちゃん!!!?」
偵徒の視界に裸の美岬が入る。
「……遅かれ早かれ……見るんだから……」
「何か言った?」
「……ウチは、あんたが……好きなのよ!!」
美岬が照れを隠すように手で顔を隠す。
「美岬ちゃんが、僕を!!!?」
「あんたは、どう……なのよ?」
「……僕だって美岬ちゃんが好きだ!! ……大好きだよ!!」
「本当に本当なの?」
美岬が顔から手をどけて訊く。
「本当だよ~!」
「……ならさあ……ウチと……キスしよ?」
美岬が偵徒に顔を近付ける。
「美岬……ちゃん」
二人の唇が静かに重なった。
※ ※ ※
「綺麗な夜空だ」
七菜は夜空を見上げる。
「こんなに星が綺麗に見えるんだな」
緋も隣で夜空を見上げている。
「こんなにも星は綺麗なのに、人は争いを止めない」
「こうやって夜空を見ながら、心を落ち着かせるのも平和への近道かもな」
緋が伸びをする。
「こうして隣に立っていて思うんだが、少し緋の背が伸びてる気がするんだが?」
「うん? ……漢は自覚ないぜ?」
「まあいいさ。どっちでも」
七菜は野球帽を取ると、緋に被せた。
「そろそろ新しいやつを買わないとなあ」
「僕は充分満足している」
七菜が目を閉じて背伸びする。
「……目にゴミでも入ったか?」
「まったく。君は空気が読めないのか?」
七菜が片目を開いて訊く。
「そうだとよかったかも。緊張なんて漢らしくないし。けど、それでも……」
緋が七菜とキスをした。
「……あっ!」
風によって野球帽が飛ばされる。
「やれやれ」
七菜が拾いにいく。
「よし!」
緋も後を追った。
※ ※ ※
「まだなのだ!」
「受けてたつよ!」
七菜と海乃は卓球に打ち込んでいた。




