衝突
「ここまで来れば安心なのだ」
破耶達は、スタジアムの観客席に避難した。
「しかし、やけに濃い煙だね……なかなか空に抜けないし」
海乃が怪しむ。
「黒い煙は危険だ。このままじゃ、一酸化炭素中毒で危ない!」
七菜が危惧する。
「毒よりも危険かもなのだ」
「ウチ達以外にも観客席に避難してるみたいだけど、まだ扉の鍵は開かないの!?」
「……くそっ! ケータイが圏外だぜ!?」
「この煙には電波を遮断する効果もあるのか?」
七菜はアプリを起動しようとするが遮断されてしまう。
「テロかもね」
「海乃さん、冗談やめてくださいよ!!」
「なあ、ベンチの扉は見たか? 野球のときに選手が控え室を出入りするのに使う」
「頭に無かった!」
美岬が頭を抱えた。
「よし! 見てくるぜ!」
「待て紅蓮! 迂闊に煙の中に突っ込んで、もしもの事があったらどうする!?」
「このまま観客席に居てもしょうがないだろ!? 少しでも可能性があるなら、漢はそこにかける!」
緋が下に降りる。
「なんて無茶をするんだ!?」
海乃が呆れる。
「緋の気持ちも解らんではないのだ。だが確かに無謀でもある」
「どうする紅。ここで待つか、紅蓮を追うか」
「……待とう……。様子をみるのだ」
※ ※ ※
「うっ!?」
黒い煙が緋を襲う。
「ごほっ! ごほっ!」
「開けろよ!!」
「自分達だけ逃げたのかよ!! 運営は!!」
「頭が……痛い!」
「息が苦し……い……!!」
グランドスタジアムの中を黒煙が包み込んでいく。
「他の連中がヤバそうだ。……煙で前が見えねえ……」
緋は人混みを掻き分けながら、探りさぐりベンチ席を見つけた。
「見っけ!」
緋はベンチ裏のドアに手を掛けた。
「……開いてる!!」
緋は勢いよくドアを押した。
「ぐはっ!?」
「なんだ?」
緋の視線の先に男が倒れている。
「……見られたとあっては仕方がない。残念だが……始末させてもらう!」
男は立ち上がると、緋に向かって刃物をかざした。
「この騒ぎの元凶はお前か!」
緋はドアを閉じると、男の刃物を持つ手を蹴りで封じる。
「このぉ! ……柊高の反生徒会を嘗めるな!」
男は消火器から消火剤をまいた。
「ゲホッ!?」
緋が踞る。
「死ねい!」
「!!!?」
男が消火器で緋の頭を撲った。
「……すみません隊長。男を一人、殺しました」
男がトランシーバーを切る。
「もうすぐ全てが終わるんだ」
男はドアの鍵をかけた。
※ ※ ※
「何よあれ!?」
美岬がグランドスタジアムの天井に煙が発生しているのに気づく。
「……天井も煙で塞がれたようだ。目的は分からんが確実に殺しにきているよ!」
「緋のやつ、戻ってこない。まさか……!?」
「緋に限ってそれはない。第一、七菜が信じなければ、緋が悲しむのだ」
「破耶先輩」
七菜は野球帽を被り直した。
「今のは銃声か!?」
海乃が身を屈める。
「誰よ! 撃ったの!」
美岬も身を屈める。
「……銃か……」
「どうしたんです? やっぱり先輩も怖いですか?」
「怖いのだ。それに残っている……銃の感触が……両手に」
「破耶先輩?」
銃声が響く。
「キャーアアア!!!!」
女性の声が響き渡る。
「誰か撃たれたのか!?」
「うわああああ!!!!」
男性の声が響く。
「何なのよ! もう嫌よ!」
美岬が、気絶している偵徒にしがみつく。
「……いけない!? 僕の身体がよろける……」
「矢吹! ……マズイ……空気の出入口が封じられている上に、換気装置も止まっているから」
「そろそろ限界なのだ」
破耶は、よろけた瞬間に左手の薬指を見る。
(……指輪……指輪……!! そうなのだ!!)
「破耶……先輩」
「大丈夫なのだ……七菜、しっかり意識を保つのだ!」
破耶が指輪に念じる。
「うっ……」
美岬が苦しむ。
「……美岬ちゃんは……僕が守る……!」
意識を取り戻した偵徒が美岬を抱き寄せる。
「頼む、力を貸してくれ。ミカノ……夏郷!!」
破耶の指輪が赤い光を放った。




