全国大会
「あれ? 破耶さん」
「緋。お前にも話があるのだ!」
「漢に?」
緋は破耶に促され、教室を出た。
「矢吹さん。私ね、紅蓮くんに訊いてみたのよ。矢吹さんを好きなのかを」
「別に。緋が僕のことをどう思っていようが、僕には関係ないさ」
七菜が自分の席に座る。
「紅蓮のやつ、嫌いなら一緒に居ない……って言ってたんだぞ!?」
「当然だ。君は、嫌いなのに一緒に行動するのか?」
「そりゃそうだけどよ……何かお前達は違うんじゃないか?」
「……緋は友達だ。それ以上でも以下でもない」
七菜は、本を読み始めた。
※ ※ ※
「全国大会!?」
「うむ。今年の新祝祭の目玉企画なのだ」
「でも、そんな事、無理なんじゃ?……全国のプレイヤーが納得するわけ!?」
「案ずるな、我が校の校長はゲームの開発メーカー全社と縁が有ってな。明日の新祝祭では全国大会が可能なのだ」
「……メーカーは良くても、プレイヤーは反発するはずだぜ? いくらなんでも高校限定の全国大会なんて!」
「心配には及ばん。既に策は整っている」
「え!?」
「明日、ログインしなかったプレイヤー達には、報酬として百回分のログイン権が与えられるのだ!」
「百回分が無料ってこと!?」
「まあ、チームでの共有だがな」
「それでも凄い大盤振る舞いですね!」
「これも校長に理事長、何よりも我が校の信頼あってのことなのだ」
破耶が誇らしそうに腕を組む。
「……漢に用って、以上ですか?」
「いいや。ここからが本題だ」
「何ですか?」
「今回の全国高校対抗戦に、我が校の代表として出場してほしいのだ!」
破耶が頭を下げる。
「ええ!? 漢が代表!? 無理ですって!! てか頭を上げてください」
「……やはり代表は荷が重いのか?」
破耶が頭を下げ続けながら訊く。
「漢なんかじゃ、直ぐに負けます。よっぽど破耶さんや七菜が出たほうが……」
「わたしは出るぞ。だが七菜には断られたのだ」
「あいつ……何で?」
「『緋に迷惑を掛けれない』……そう言われたのだ」
「漢との噂が原因か」
緋が教室に向かう。
※ ※ ※
「矢吹さん。ちょっとお願いが有るんだけど?」
「また僕を探るのかい」
七菜は、本を読みながら答える。
「違うわよ、私の髪を束ねてほしいの」
「自分でやればいいじゃないか」
「両手が塞がっているの」
女子の両手はペンキだらけになっていた。
「作業前にまとめればよかったはずだ」
「仕方ないじゃない! 流れでこうなったのよ」
「まったく。仕方がないね」
七菜は本を閉じると、女子の髪を束ねる。
「後ろで一本にお願いね」
「……長い髪だな」
「自慢の髪よ」
「そうか。ほら、出来たぞ」
七菜は再び、席に着いた。
「ありがとう、助かったわよ。矢吹さんも伸ばせばいいのに……伸ばさないの?」
「切ったんだ。部活のために」
「いろいろ勿体ないわね……素材は良いのに」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
「七菜ぁぁぁ!!」
「騒がしい。本ぐらい静かに読ませてくれ」
「何で代表の件、断ったんだよ!」
「これ以上、君との仲を誤解されたら困るだろう?」
「漢は気にしないぜ? だから代表になってやってくれ!」
「僕は気にする……誤解の目で見られたくない」
「……なら……お前に恋人が出来れば良いんじゃないか?」
「!?」
「そうすれば代表になれるんだろ? お前が出るんなら漢も数合わせにはなるぜ?」
「……馬鹿あああああ!!」
「痛ったーーー!!」
七菜が本で緋の頭を叩いて、勢いよく教室を出ていった。
「大丈夫!? 緋くん」
「う~……!」
※ ※ ※
「廊下を走るのは誉められんな」
「……破耶……先輩」
破耶が廊下で立っていた。
「人前で泣いているとは、らしくないな」
「僕にも……分からないんです。キイラの件から分からないんです……」
「二ヶ月前から?」
「僕は……緋にとって友達なんだろうか!?」
「七菜。お前はどうなんだ?」
「僕は……」
七菜が自分の胸に手を当てる。
「どうなのだ?」
「……僕は……友達じゃ嫌だ……」
七菜が涙を流す。
「なんだよ、廊下に居たのかよ」
緋が二人に近づく。
「僕は……緋が好きなんだ」
「……七菜……なんて言ったんだ?」
「あ……か!?」
七菜の涙声が廊下に消えた。




