素顔を隠した戦士
とあるゲームセンターの中に1台のマシンが我が物顔で置いてある。
【認証確認】
「ヘッヘー……認証完了!」
【認証完了】
「しゃっあ! 漢祭の始まりだぜエエエ!」
【プレイヤーデータ……緋】
「そうだ、漢の名は、紅蓮 緋だぜエエエ!」
【コードネーム……レッド】
「そして、MMORPGの英雄となる者……レッドだぜエエエ!」
【スキャン】
マシンのナビが、マシンの中で座る緋の身体を読み取っていく。
【スキャン、完了】
読み取りが完了し、緋はヘルメットを被る。
【よろしいですか?】
「訊くほうが野暮だ」
緋は決定を押した。
【了解】
緋の意識が仮装空間に吸い込まれた。
※ ※ ※
「さあ、今日も漢が暴れるぜエエエ」
「相変わらず五月蝿いね。君は」
「うるせえ、お前は静かすぎんだ、クール!」
緑が生い茂る大地に、赤い身体と青い身体が立つ。
「レッド。君、レベルは幾つだ?」
「レベルなんてモンは飾りだ。漢にはな」
「フーン。そうなんだ」
ドスンドスンっと地面が揺れる。
「地震か?」
「違うよレッド。あれは」
クールが指を指す先にモンスターがいた。
「ヴァロンじゃねえか!」
レッドが拳を鳴らす。
「戦うの? 君、レベルは?」
「何度も言わせんな。漢にとってレベルなんてモンは飾りだぜエエエ!」
レッドがヴァロンに向かって走り出す。
「やれやれ……ヴァロン討伐の推奨レベルは30」
クールがレッドのステータスを見る。
(君は、レベル15じゃないか)
レッドが、クールから100m離れた場所でヴァロンと戦っている。
「ギャアア」
「叫ぶだけなら誰でも出来る」
レッドが背中に背負う刀を抜いて、ヴァロンに突き刺す。
「ギャアア!」
ヴァロンが、もがき苦しむ。
「暴れんなって!?」
レッドがヴァロンから落ちてしまう。
「痛てえええ」
ヴァロンがレッドを踏み潰そうとしている。
「気合いで押し返す!」
ヴァロンの足裏がレッドの両手と接触した。
「クッソ!! 潰れるゥゥゥ」
「……まったくしょうがないねえ。アバターはヒーローの定番のレッドなのに」
クールがレッドを引き抜く。
「あー、背中痛てえ……」
「感謝してよ。僕が居なかったら、君は今頃、ゲームオーバーで丸一日イン出来なかったんだから」
【ファイナル】
「バイバイ」
クールが右拳をヴァロンに打ち込むと、ヴァロンが爆発した。
「漢の標的を横取りしやがって!」
【レベルアップ】
「やったよ。僕のレベルが上がった」
「レベル位で喜ぶとは、まだまだだなクール」
「レベルが僕の1/3の君には言われたくないよ」
「レベルなんて飾りだ!」
【ログアウト】
「僕は帰るよ。もうすぐ夕飯だからね」
クールが消える。
「バイク野郎め~!」
レッドが見えない歯軋りをする。
【ログアウト】
「次こそは倒してみせるぜエエエ」
レッドもログアウトした。
※ ※ ※
「ちくしょー! また負けた!」
マシンから緋が出てくる。
「次こそは」
ゲームセンターから緋が出た。
「今日の夕飯何かな」
「あっ……すんません」
緋が肩がぶつかった相手に謝る。
「いいえ。気にせずに」
相手が去っていく。
「可愛い娘だったな」
緋が無意識に口にしていた。




