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最終章 イノセントブルー

「ルシルっ、早く早く!」


覚めるような朝の輝きの中にリイクの声が響くと、少年は眠たげな眼を擦るルシルの手を有無を言わせずに引っ張って行った。


「何だよリイク…俺、昨日はほとんど寝てないんだよ」


エルティーナが意識を失ってから二日間、ルシルとリイクはつきっきりで少女の看病に当たっていた。だが、リイクの次の言葉を聞いた瞬間に、寝不足などどこかへ吹っ飛んでしまう。


「エルティーナが目を覚ましたんだ」

「本当かっ?」


ルシルは手を引かれる立場を逆転させると、エルティーナが眠っている部屋へとすっ飛んで行った。


「エルティーナっ!」


かつてはルシル自身が寝かされていた部屋に飛び込む。


ベッドに身を起こした少女はにこやかに微笑む、すさまじい形相で現れた男を迎え入れた。


「おはよう、ルシル」

「エルティーナ…」

「随分と眠っていたみたいね…心配掛けてごめんなさい」



昨夜まで生死をさまよっていたとは思えないほど、エルティーナの顔には精気が漲っていた。

リイクの手を取り少女の傍らまで近付いたルシルは、そっと手を伸ばし、まだ青白い少女の頬に手を触れる。


「良かった…一時はどうなるかと思ったよ」

「ありがとう…」


見つめ合う瞳にはそれ以上の言葉はいらなかった。

リイクが差し出した水を飲み干すのを待って、ルシルがあれからの事を話し始めた。リイクが間もなく意識を取り戻した事、崩壊して燃え盛る基地、そしてここブライムストーンまでの長い道のり。


「じゃあ、ずっとルシルがあたしを?」

「ああ、随分と苦労したよ。重たくて…」

「失礼ね」


少女がクスリと笑う。


ルシルとリイクも釣られて口元を緩めるが、しばらくするとため息に変わっていた。


「結局、何の成果もなしって事さ…」

「あら、そうでもないわよ」


肩をすくめて見せたルシルにそう言うと、エルティーナは研究所で聞いた老人の言葉を語り始めた。


老人の話によれば、あのカプセルはまだ未完成であり、それによる作用は一時的なもので、リイクが成長期を迎え成人するまでには完全に消え去るだろう…との事であった。


「人間は神にはなれないって言ってたわ、あの人…」


エルティーナは老人のさみしげな瞳を思い出し、感傷めいた呟きを漏らした。


「それじゃあ、僕」

「そうよ、もう少し我慢すれば必ず元通りになるはずよ」


エルティーナはリイクをそっと抱き寄せてやる。


「ところで」


少女がふと視線を上げた。


「あなたはどうするの?これから」


問いかけにルシルは少し困ったような顔つきになった。


「どうするって言われても…帰る手段もなくなったし」


エルティーナとリイクの覗き込むような視線を受けながらルシルは続ける。


「もし、またリイクが暴れだしたら、止める役が必要だろうし…」


二人の期待に満ちた表情に応えるように結論を出した。


「もし…二人さえ良ければ、ここにとどまろうと思うんだけど…」

「気まりね!あなたはここじゃ英雄よ、歓迎するわ」


瞳を輝かせ速断すると、少女は嬉しげにルシルに飛びついた。


「ちょ、ちょっと…子供が見てる前で…」

「良かったね、ルシル」


照れくさそうに顔を赤らめるルシルに、リイクが嬉しげに声を上げた。


三人はひとまずの冒険に終止符を打ち、新たなる物語の始まりに胸をときめかせていた。


それを祝福するかのようにマイラーの青い輝きが窓から差し込んで、ルシルの視野いっぱいに飛び込んだ。


でも、その青い輝きに満ちたレキングラムの空が、ルシルにとってありきたりの日常の風景と化すのは、そう長くはかからないだろう。


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