第四章 希望への旅立ち Scene7
傷んだ足を引きずり、エルティーナの待つ研究室へと向かう。
先程から鳴り響くサイレンと緊急時の警告灯が、基地内で異常な事態が発生したのを告げていたのだ。
「やべぇ…」
ルシルは一刻も早くと焦燥に駆られる。
…が、深々と残る傷口が、足を動かす度に痛みが走り、思うように歩く事が出来なかった。
それに…
ルシルは背中で寝息を立てているリイクを肩越しに振り返る。
先程までルシルを引き裂こうとしていた化け物は、完全に元のリイクの姿に戻っており、ルシルに背負われて穏やかな寝顔を見せている。
「まったく、いい気なもんだぜ…」
少年の重たさに悪態をつくも、ルシルは嬉しげに呟いていた。
身体中の到る所に傷跡を刻み込まれたものの、何とか致命傷を負う前に元のリイクに戻す事が出来た。エフェメラの女神は最後の最後にルシルに味方したのである。
―待ってろよ、エルティーナ…
震える足でしっかりと歩き続けるルシルの視界に、研究室の扉が見えた。
高まる気持ちを抑えきれずに扉を開けると、ルシルは研究室に飛び込んでいた。
「エルティーナっ!」
声を張り上げ少女の名前を呼ぶ。
しかし、その姿はシューターには無かった。
ルシルは不安に視線を彷徨わせるが、それよりも早くエルティーナの声が飛び込んでくる。
「ルシルっ!」
少女はフロアの奥から足を引きずりルシルの元へ駆け寄ると、一気に彼の胸に飛び込んでいた。
「戻ってきたのね、ルシル」
「ああ…ちゃんと約束しただろ」
涙混じりの声を震わせる少女を抱きとめ、ルシルが照れ臭そうに笑ってみせる。
「リイク…」
少女の濡れたままの瞳がリイクを捕らえると、心配げに呼びかけた。
「大丈夫、眠っているだけだよ…世話がかかったぜ、このやんちゃぼうずには…それより早くしないとこの基地が…」
再会劇を楽しむ間もなく真剣な表情で言うと、ルシルは少女の手を引っ張った。
「待って…」
エルティーナはその手を振り解くと、老人の元へ歩み寄る。
「さあ、早く行きなさい…」
少女は嗚咽を噛み締め何か言おうとしたが、思いとどまると出来るだけ明るい表情をつくり頷いて見せた。
「わかったわ、あなたの事は忘れない。絶対に…」
「リイクを頼んだぞ」
「ええ」
見詰め合った瞳に固い決意を誓うと、少女は立ち上がる。
「さあ、行きましょ、ルシル」
老人に踵を返すとシューターへ歩き出した。
「エルティーナ、あの人は…」
ルシルの問いかけに少女は何も答えなかった。沈黙した横顔に少女の気持ちを察したルシルは、それ以上聞くのを断念する。
真っ白なシューターの機体にエルティーナ、ルシル、そして最後にリイクを座らせると、後部座席のルシルがコンソールのキーを打ち込んだ。薄暗い機内に明かりが灯り、いつでもシューターを撃ち出せる状態にすると、コンソールの最後のボタンに指を置いた。
「エルティーナ、覚悟はいいか?」
「お手柔らかにね」
少女が言い終わるのを待っていたかのように、ルシルの指に力が加わり、真っ白な機体は射出音と共に撃ち出された。
激しいGが少女の肢体をきしませる。
張り詰めていた緊張が解けたためか、意識が朦朧となってしまい目を開けているのもおっくうになる。
―不意に…
背中越しに大きな爆発音が響くと、機体に振動が走った。
老人が基地の自爆装置を作動させたのだとエルティーナは確信すると、安堵したように目を閉じる。
―終わったのね、全てが…
少女の意識は深い闇に落ち、途切れた。




