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第四章 希望への旅立ち Scene6 

エルティーナはシューターのシートから身を乗り出す。


身体をよじった事で痛みが走り苦痛のうめきを漏らすが、それでもなお二階層の扉に目をやり、無事な姿のルシルとリイクの姿を探した。でも、ルシルが行ってから何度繰り返しただろう落胆の吐息をつくと再びシートにもたれかかった。


「ルシル…」


待つものの時間がこれ程までに長いものだと思わなかった。


ルシルが約束どおりリイクを連れて帰ってくると信じていたが、絶え間なく襲ってくる孤独に、ついつい良からぬ事を考えてしまい、その度に少女は首を振り否定するものの、たまらなく心細い気持ちに陥っていたのだ。


「お嬢さん…」


不意にかかった声にエルティーナは肩を跳ね上げる。


「あなたは…」


少女の目の前で撃ち抜かれた技術者であった。老人はうつぶせに倒れたまま顔だけをエルティーナに向けていた。


少女は自らの傷など失念したみたいにシートから降りると、老人の元へ身体を引きずっていく。


「大丈夫…?」


老人の身体を起こしてやる問いかけるが、老人は弱々しく笑うと首を振った。


「駄目じゃよ…もうお嬢さんみたいに若くは無い」

「そんな…」


力づけようとしたエルティーナが口をつぐむ。老人の負った傷は一目で見てわかる程の致命傷で、今こうして生きているのが不思議なくらいであったのだ。


老人もそれを承知しているのか、目をそらした少女の手を取ると、慰めるように優しく言った。


「いいんだ、いつかはこうなる運命だったんだ…思い残す事はない。ただ一つだけ、頼みを聞いて欲しいんじゃ」

「頼み?」


老人は残された微かな力でエルティーナの手を握り返す。


「ここの自爆装置を解除するのを手伝って欲しい」


少女は驚きに目を見開く。


「自爆って、それじゃあ…」

「心配は要らん、お嬢さんが手伝ってくれたら後はわしがやる。お嬢さん達はあれで脱出すればいい」


老人がそう言ってシューターを指差した。


「でも…」

「頼む…時間が無いんじゃ。わしが生きているうちに早く…」


老人は大きく咳き込むと大量の血を吐き出した。が、それでも気迫のこもった声で目を大きく見開くと、エルティーナに必死に訴えかけていた。


「わかったわ…」


エルティーナには逆らう術が無かった。


「あたしは何をすればいいの?」

「あそこへ連れて行ってくれ」


少女の問いかけに、老人は計器類が並んだフロアの一角を指差した。


少女は頷くと老人の身体を抱き起こす。痩せ衰えた老人は見た目よりも遥かに軽く、傷を負った少女の力でも、何とか支えてやる事が出来た。


「仕方なかったんだ…家族を人質に取られ…奴等の言いなりになるしか…」


少女の肩にもたれかけ、老人は苦しげに喘ぐと吐き出した。


「でも奴等、最初から約束を守るつもりなんて無かったんだ…殺されたよ、妻も息子も…テレストもみんな…」


悔しさを噛み締める横顔に、エルティーナは何も言えずに口を閉ざした。


今どんな言葉をかけても、老人の深い悲しみを埋める事など出来はしない。知らぬのうちに少女の頬に涙を伝う。


「だが、これで全てが終わる…ありがとう、お嬢さん。わしみたいなもののために涙を流してくれて…」


老人は偽りの無い気持ちを少女に伝えると、静かに微笑んだ。


少女はただ黙って頷くと、老人の身体を計器の前のシートに座らせてやった。


「どうすればいいの?」

「そこに並んだ数字のキーを、言うとおりに押していってくれ」

「これね」


老人が頷くのを確認して、エルティーナは老人の指示通りの数字を打ち込んでいった。

老人は少女の指が的確にコンソールをクリアしていく様を満足そうに眺め、それが終了すると胸ポケットから一枚の磁気カードを取り出して少女に差し出した。


「これをセンサーに通したら終りじゃ…」


少女はカードを受け取ると、コンソールのセンサーに差し込んだ。


「これでいいのね…」


言い終わらぬうちに、けたたましいサイレンが研究所に鳴り渡り、照明が一斉に緊急を告げる赤色に切り替わった。


「ああ、ありがとう、お嬢さん。後はわしの仕事じゃ」


老人は感謝の眼差しをエルティーナに向けていたが、やがて何かを思い出したように再び口を開いた。


「あの子…リイクの事なんじゃが…」



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