第四章 希望への旅立ち Scene1
リイクが再び目を覚ました頃を見計らって歩き出す。
随分と長い休憩になってしまったが、それなりの…いやそれ以上の収穫があった事に、ルシルは一応の満足をしていた。
ちっぽけなブラスターは強力なフリーシア製に代わり、基地内で使えそうな磁気カードも手に入れた。それに記憶を取り戻したリイクによって基地内の全容も明らかになったのも明るい材料だったし、それに…
ルシルは柔らかなエルティーナの唇の感触を思い出す。
星空の下で少女と唇を重ねた甘いひとときに、知らずのうちに口元が綻んでいた。
「何ニヤニヤしてるのよっ」
エルティーナが怪訝に声を飛ばした。
「い、いや、何でもないんだ、その…」
肩を跳ね上げ我に返ったルシルはしどろもどろになる。
「どうせ変な事、考えてたんでしょ?」
「違うって…」
「知らない、もう」
一方的に決め付けられるとプイっとそっぽを向いた。
が、少女の表情は怒っていなかった。
浮かれきっていたルシルを少し困らせてやろうとして、その通りにオロオロしている哀れな男の姿を横目でちらりと垣間見ると、笑いをかみ殺すのに必死になっていたのだ。
「ルシル、ふられちゃったの?」
一部始終を楽しげに見ていたリイクが的確な質問をする。
ルシルが見てわかるほど、リイクは明るさを取り戻しつつあった。それだけに衣服についた血痕が生々しく、無邪気に笑う少年には不釣合いだった。
「子供は知らなくていい事さ…あと十年もしたらリイクにも教えてやるよ」
「やっぱり、ふられたんだ」
ルシルの精一杯の苦し紛れを、少年は根元から切り倒した。
「ふられるも何も、あたしははなっからルシルの事なんか、何とも思ってないわよ、失礼ね」
少女がだめを押す。
「そんな…」
ルシルはついに情けない声を上げた。
エルティーナとリイクはお互いに顔を見合わせると吹き出していた。
「冗談よルシル、だってあまりにも間の抜けた顔してるんだもの、ついついからかいたくなっただけよ」
悪戯っぽく笑うと片目をつむって見せた。
つい先程まで涙を流していたとは思えぬほど変わり身の早い少女に圧巻され、ルシルは呆然とする。
「さあ行きましょ。もうすぐ夜明けよ、急がなきゃ」
束の間の息抜きに終りを告げ、再び気を引き締めると少女は歩みを進めた。
そのすぐ後ろにリイクが続き、息抜きにされて納得のいかないルシルが独り言のようにぶつぶつとぼやきながら、後を追いかけた。
前方の夜空が淡い青みを帯びてきていた。
後もう少し経てば、真っ青な恒星が顔を覗かせるだろう。
薄れていく夜空の真下に見えたフリーシアの広大な基地を前に、夜通しで歩いてきたルシル達は、ようやく一息つくとその場に座り込んだ。
「間に合ったみたいね」
たどり着けた安心感で一気に疲れが出たのか、エルティーナは肩で息をしながらルシルに微笑んだ。
ルシルとて同じで、何とか頷きだけを返すとリイクに目をやった。
「どうしたの?」
少年はキョトンとした顔でルシルを見る。
「平気なのか…?」
「大丈夫だよ。それよりどうやって基地に入るつもり?」
「それは…」
「まさか正面から堂々ってわけにはいかないわね」
エルティーナがルシルに代わって答えると腕を組んだ。
「それなら任せて。基地までの抜け道があるんだ」
「抜け道?」
「非常時に使う脱出用のシューターの通路さ。父さんと逃げる時に使ったんだ。間違いないよ」
その時の事を思い出したのかリイクは少し表情を曇らせたが、すぐに元気を取り戻すとルシルの手を引っ張った。
「お、おい…ちょっと」
「こっちこっち、すぐ近くにあるんだ。さあ早く」




