★第4話★ 奇妙な出会い
★第4話★ 「奇妙な出会い」
人が・・・死んでいる?
俺はその時、何となく察していた。
よくある異世界に来た訳ではないにしろ、
俺のこれまでの日常は確実に非日常へと動き始めている、と。
それは一時の錯覚かもしれない。
例の”中二病”的思考の現れかもしれない。
そもそも、死んだ人間を視界に映して平常心を保つ人間の方が異常。
しかし、俺はなぜか、
その場で現代日本の異常を察するにまで至っていた。
なぜかは分からないが、
身体が寒気を覚えて止まらない。
目の前の死体が、それ以上の意味を俺に押し付けようとしてくる。
・・・俺は駐車場のフェンスに両手を掛け、そのまま飛び越える。
そして血まみれの人間に近寄り、様子を観察するが、
見たところ、どこかの高校の制服を着た男子のようだ。
「・・・オイ!お前、大丈夫か?」
一応声を掛けてみるが、返事は無い。
男子生徒の身体に視線を巡らせる。
と、制服の胸部に鋭利な刃物で入れられたような切込みがあり、
今も血がそこから溢れ出してきている。
・・・もしかすると殺されてからあまり時間が経っていないのか?
周囲を見渡し、犯人と思われる人影が動くのを待つが、
それらしきものは見当たらない。
俺は今、十分に身を危険に晒している自覚があるが、
もう既に犯人には逃げられたようだ・・・。
俺は制服からスマホを取り出し、
慣れない手の動きで110番にダイヤルを入力した。
電話の応答をしながらも、
俺の脳内ではしきりに拒否反応が起こっている。
・・・この「血」の生臭い臭いというのは
どうも気に入らないんだ・・・。
血の臭いなんて、鼻血でも出せば
簡単に嗅ぐ事ができるくらいには
ありふれた珍しくはない物だと思うが、
俺にとっての他人の血というのは特別な意味があった。
・・・もしや、脳が”あの事”を連想させているのか?
すると俺の頭の中に、あの日の鮮明な映像が浮かび上がってきた。
・・・1人の小学生男子がトラックに跳ねられ、
アスファルトに転がり、頭部から赤い水たまりを広げていく・・・。
思い出したくなくても、
勝手に思い出してしまうんだ・・・。
あの、俺のトラウマとも言える出来事を・・・。
・・・俺が通報を入れてから数分ですぐにパトカー、
及び救急車が到着し、俺は参考人として
近くの警察署まで連れていかれる事となった。
―――――そして、約1時間半後―――――
その後、俺は無事に21時頃には帰宅する事が出来た。
母親はいつも通り、
残業でまだ仕事から帰ってきていなかったから、
冷蔵庫に入っている夕食を取り出し、
電子レンジへと掛けた。
俺の夕食はいつもこんな感じだ。
それにしても・・・何故あの男子生徒は殺されたのだろうか?
ただの通り魔的犯行なのか?
それとも金銭トラブルなのか?
それとも何か別の恨みを買ったから?
いや、彼はまだ高校生だろう?
誰かから殺されるほどの恨みを買う事があるのか?
・・・そう考えるとやはり、
人間関係というものは複雑で、
恐ろしいものなんだろう。
数学や英語のように答えが定かではなく曖昧、かつ、
放っておけばさっきのように重大な害を被る事も有り得る・・・。
俺はそんな事を考えながら、電子レンジの中で回っている
焼き魚をただボーッと眺めている。
いつの間にか俺は、
こういう考えなくても良いような
難しい事を考えるようになっていた・・・。
―――――翌日の朝―――――
『昨日、午後7時ごろ、高校生が
ナイフで胸部を刺され死亡する事件が起こりました。
場所は岩手県○○駅付近の駐車場。
加えて、東京都内と神奈川県内でも、別の高校生が
ほぼ同時刻にナイフで刺されて死亡するという
同様の事件が起こりました。
犯人はいずれも逃走中です。
警察は何か関係があると見て捜査を進めています。』
・・・俺は朝食をとりながら、母親と共に朝のニュースを見ていた。
「龍星が言ってたのってこれの事?
よく普通に警察なんか呼べたわね・・・。」
「確かに、殺人現場に遭遇する事なんてまず無いけど、
あぁいう緊急時は自分で意識しなくても脳が勝手に体を動かすらしい。
昨日起こった事があまり記憶に無いのはそのせいだと思う。」
・・・しかし、通報すれば事件が終結する訳じゃない。
ニュースを見ていて、更に気になる事が出てきた。
他の場所でも、同じ「殺害方法」で、
同じ「高校生」が殺害されていたとは・・・。
どう考えても単なる偶然ではないだろう。
少なくとも3人以上による、それも計画的な犯行・・・。
そして岩手、東京、神奈川の、
とても距離が近いとは言えない3箇所で事件が起こった事から、
犯人たちの活動領域も広いという事が推測できる・・・。
愉快犯なのか、または該当する高校生に
特別な恨みを持った人間達なのか・・・。
今後、私生活でも十分に気を付ける必要がある。
・・・俺はさっさと朝食を済ませ、自室のPCを立ち上げた。
朝の日課になっているカラオケ四天王同士のバトルがあるからだ。
・・・いつも通り、シンギング・ウォーズにログインし、
戦闘ルームへ入室。
プレイヤーには全員個別のIDが用意されているのだが、
その特定の人のIDを知っているプレイヤーは、
互いのオンライン時に限り、いつでも対戦を申し込む事ができる。
それは新エリア進出を目指して進む「フィールドエリア」でも、
育てたアバターで対戦が可能な「戦闘ルーム」でも変わりはない。
ちなみに、1人のプレイヤー、1つのパーティとは
一日一回までしか対戦できないというルールがあるため、
相手のポイントが無くなるまで何度でも、というふうにはいかない。
《龍星来たぞ~おはよー》
戦闘ルームで、俺らカラオケ四天王の4人が操るアバターが顔を合わせ、
チャット機能を利用した会話が始まった。
《お前ら、ニュースみたか?》
《すぐ近くで殺人事件が起こったらしいね。
しかも犯人はまだ捕まってないとか・・・。》
子供らしさが残る和彦が真っ先に反応した。
あれだけ目立つニュースとなると、
誰だって気を引かれるだろうな。
《俺、怖いから今日だけ学校休むわw》
大柄で強気な浩介は不思議とどこか楽しそうだ。
《ズルいわね。》
このオカマ口調の岩崎 雅は
四天王の中でも特に変わっていてキャラが掴みにくいが、
別にフザけている訳ではないのだと最近ようやく分かってきた。
《殺されて後悔しても遅いだろ?》
《まぁまぁ難しい話は今度にして、そろそろ始めようぜ!》
俺たちカラオケ四天王の対戦カードは、
ランダムで勝手に決まる。
ゲーム内でそういう設定も可能だ。
《今日の相手は龍星かしら?》
・・・俺の今日の対戦相手は
例のオカマ、岩崎 雅となった。
《久しぶりよねぇ・・・6日ぶりぐらいの対戦かしら?》
名前だけでは判断できないかもしれないが、雅は男だ。
・・・自他共に認めるオカマ野郎。
だが、彼は185cmという長身のイケメンで、
オカマとは言えど、社交性と外見で女子からは人気が高いと聞く。
逆に男子からの評判は相当に悪いのだが・・・。
以前にとある女子から告白された際に
「フザけんじゃねぇぞ!」とその場でキレた事で
学年内では有名である。
それでもなお、女子からの人気を保つとなると、
一種の才能として認めるべきだとは思うが・・・。
そんな彼の歌唱での専用技は
「絶対音感ofオポネントデストロイ」だ。
名前の前半を見ても分かるが、
彼は一曲中、平均99%のキーを正しく歌う事が出来る。
その分、他の四天王のような表現はあまり入れられないが、
カラオケという場面に限り、音程がほぼ全て正しいというのは
最も安定した最強の武器となる。
ちなみに、技の名は彼自身が命名したものであるが、
聞くと彼は、世間的にいわれる「絶対音感」は持っていない。
しかも、カタカナ部分は
「対戦相手を破る」という意味で付けたらしいが、
その場合の「破る」は「デストロイ」ではないため、
本当に支離滅裂な名前になっている。
言ってみればバカ丸出しといったところだな。
《BATTLE START》
アバターネーム:クリエイター・ノヴァ
アーマー:ガンマンスタイル
メインウェポン:ガストブラスター
HP:LV6
耐久力:LV7
スピード:LV12
アバターネーム:シェーンサン
アーマー:フレイムガード
メインウェポン:不死鳥砲
HP:LV10
耐久力:LV10
スピード:LV12
《さて、今日も張り切ってやりましょうかね。》
俺たちカラオケ四天王はこうして毎朝バトルしている訳なのだが、
お互いが新たに
未知のウェポンやアーマーを装備してくる事はざらにある。
カラオケやゲーム内で稼いだポイントにより、
アバターの装備を強化する事が常時可能だからだ。
今回も、雅は何やら新型ウェポンを装備してきたらしい。
雅のアバター、シェーンサンが
バズーカ型武器「不死鳥砲」を構え、すかさず発射した。
その巨大な弾はまるで焚き火の火元を飛ばしたかのように、
メラメラと燃えながらクリエイター・ノヴァへと迫ってくる。
よく見ると、弾には鳥のようなエフェクトが掛かっている。
取りあえず、ノヴァは両手銃のガストブラスターを、
その不死鳥弾に向かって連射し始めた。
するとガストブラスターの銃弾は吸い込まれるように燃え尽き、
不死鳥弾は容赦なくノヴァのすぐ前方へと迫った。
ノヴァは地を蹴り、空中で身体を捻る。
不死鳥弾はノヴァを取り逃し、代わりに
ノヴァ後方の地面に生えている草木に燃え移った。
・・・このシンギング・ウォーズは背景の
地形の作り込みにも抜かりはない。
宙のノヴァは、身体を捻りながら両手銃の銃口をシェーンサンへと向け、
その引き金を引く。
銃弾はシェーンサンの腹部へと打ち込まれ、
ダメージを受けたためにサンは地面へと転がった。
《甘い!》
《!?》
ノヴァが着地した次の瞬間、背後から攻撃を受けた。
同じようにノヴァも地面へと転がる。
《これは・・・追尾弾か?》
《いや、厳密には追尾ではないわ。
まるでラジコンのように動かせる、面白い弾。》
不死鳥砲が撃ち出した不死鳥弾には、
どうやらアバターによる操作機能が備わっているらしい。
・・・なるほど。
弾は地面に落ち、草木を燃やしたと思っていたが、
ただ単に草木に引火しただけで、弾本体は俺の死角、
おそらく宙を浮いていたノヴァの頭上に飛んでいったという事か。
そして隙を付いて弾を操作し、しっかり命中させた・・・。
先ほど、ノヴァの銃弾が難なく命中したのは、
サンが不死鳥弾の操作に集中していたためか。
・・・少し油断していた。
《さぁ、ガンガンいくわよ。》
シェーンサンは立ち上がり、
再び紅蓮の不死鳥砲をノヴァに向けて構えた。
躊躇無く不死鳥弾を発射する。
・・・ノヴァのメインウェポンであるガストブラスターは
その連射性能が売りだ。
隙をつくった相手アバターに連続で銃弾を叩き込み、
それにより怯ませる事ができる。
「スピード」を重視している俺のアバターとは特に相性が良い。
だが、連射性能と引き換えに、その威力は決して高くはない。
もちろん、連射される全ての銃弾を命中させれば
総合的に高火力とは言えるだろうが、
一発一発の弾の威力は低い事に変わりはない。
現状の場合、発射されてくる不死鳥弾に、
こちらの銃弾を撃ち込んで消滅させなくてはならない。
が、威力が足りないのだ。
しかも、スピードを殺さないために軽量化を図った
ガストブラスターの銃弾では、不死鳥弾に攻撃を加える前に
不死鳥弾が発する熱で溶けてしまう・・・。
・・・ならば、「賭け」に出るか。
不死鳥弾がノヴァへと迫る中、
ノヴァはガストブラスターの照準を定めた。
その標的は・・・雅のアバター、シェーンサン本体だ。
不死鳥弾の下をすり抜け、
ガストブラスターの連射がシェーンサンへと叩き込まれる。
・・・やはり、相手のアバター、サンは
不死鳥砲発射後、その不死鳥弾の操作をしなくてはならない。
故に、その間、わずかな隙が生まれる。
だが問題は・・・。
サンは連弾に耐えながら不死鳥弾を操作し、
ノヴァへとその巨大な火の球を命中させた。
当然の事、ノヴァは後方へと吹っ飛ぶ。
同時に、連弾でダメージが蓄積されたシェーンサンも
膝立ちの状態になった。
《へぇ・・・こうして隙を見つけては撃ち、
隙を見つけては撃ちを繰り返せば私に勝てるというわけね。》
・・・試験的に実行してみたが、
受けたダメージと与えたダメージの差は・・・微妙、といったところか。
不死鳥砲の威力は一撃が重いが、
一時的に動けないために、ガストブラスターの全連弾の餌食となる
サンへのダメージもなかなかだ。
どちらかと言えば、ノヴァへのダメージの方が若干大きいが・・・。
しかし、このまま雅が
同じ事を繰り返してくれる保障は無い。
《じゃあ、もう一発行くわよ?》
不死鳥弾が同じようにノヴァに向かってくる。
コイツ・・・今と同じ事を繰り返せば
いずれ勝てると確信したのか?
確かに若干ではあるが、ノヴァへのダメージの方が大きい。
ノヴァが再びシェーンサンを標的に絞り、両手の銃を連射し始めた。
先ほどと同じように、
連弾は不死鳥弾の下をくぐり抜けてシェーンサンへと迫る。
《やっぱり甘いわね。》
・・・何だと?
次の瞬間、動けないはずのシェーンサンは
右へのステップで連弾を回避した。
それと同時に、不死鳥弾はノヴァへと命中する。
ノヴァは先ほどと同じように後方に飛ばされるが、
サンは既に次の不死鳥弾を放っていた。
どうにかノヴァの体勢を整えて第二波を回避しようとするが、
ダメージ判定直後の、しかも空中という事もあり、
全くアバターを操作できない。
ノヴァは二波目を食らい、勢いで地面に叩きつけられる。
《・・・不死鳥砲の発射直後は
アバター操作ができないのではないのか?
なぜ俺のガストブラスターが避けられた?》
《不死鳥砲っていうウェポンは、操作モードと非操作モードがあってね。
操作モードはアンタの言う通り、
発射後は弾を操作しなきゃいけないからアバターには隙ができる。
連射も不可。
でも、非操作モードでは、弾の操作が出来ない代わりに、
普通の飛び道具系ウェポンと同じように扱える。
もちろん発射後もアバターの操作は可能なのよ。
だから、連射も可能。》
・・・そういう事だったのか。
さすがは正確な音程で常時高得点を出せる雅だ。
カラオケで得るポイントが四天王4人の中でも多い分、
ウェポンも豪華な訳だな。
と、感心している場合ではない。
このままでは完全にヤツのペースだ。
雅のアバター、シェーンサンが
操作モードで発射した場合はダメージ覚悟で連射、
非操作モードで発射した場合は回避してから出方を見る。
この戦法が最適のようだな。
だが、困ったのはいずれにしろ向こうが有利だという事だ。
お互いが相手の射撃を食らった場合は、
わずかにノヴァの方がダメージが大きい。
非操作モードで発射されても、
あのサイズの火の球をボンボン連射されては
全てを避けられる自信は俺にもない。
・・・こうなれば、撃ち出された不死鳥弾を
宙で「破壊」する以外に方法はないだろう。
シンギング・ウォーズではウェポン、つまり武器を用いて相手と戦う。
アバターに装備させるウェポンのうち、
1つを「メインウェポン」として設定する事ができる。
これに設定されているウェポンの威力は通常の2倍にアップする。
しかし、その代わりとしてメインウェポンは
相手への公開領域となってしまうのだ。
ちなみに、戦闘前に互いの
アバターネーム、
アーマー、
メインウェポン、
及びアバターの各身体能力は公開される。
その時点で各自、頭の中で作戦を練っている。
そのメインウェポンと共に「サブウェポン」として、
合計、上限5個までウェポンを持たせておく事が可能になっている。
感覚的には分かるが、ウェポンを持てば持つほど
アバターのスピード性能に影響が出る。
スピードを最重要視する俺ではあるが、
一応メインウェポンの両手銃ガストブラスターの他に、
もう1つのウェポンをサブウェポンとして持たせている。
・・・実際に使うのは初めてだが、使うなら今しかない。
《え?アンタ銃士でしょ。
剣には慣れてないんじゃない?》
俺はノヴァに、サブウェポン「ゴールデンソード」を装備させた。
よく西洋の騎士が扱うような剣の金色バージョンといったところか。
大して価値は高くないウェポンだが、今は「剣」が必要なのだ。
《慣れていないからなどと言って逃げていれば、
慣れる事など絶対に有り得ない。》
ノヴァは金色の剣を両手で構え、シェーンサンへと走り出した。
《何だか、カッコ良い事言っちゃって・・・。
この不死鳥砲の餌食になりたいようね。》
すぐさま不死鳥砲が発射される。
それが操作モードか、非操作モードなのか・・・?
いや、「切り裂く」までだ。
ノヴァは回避の姿勢は見せず前進し、
前方から飛んでくる不死鳥弾をまっすぐに見据えている。
・・・今だ!
ノヴァのゴールデンソードが振り下ろされる。
その刃は燃えている不死鳥弾の真ん中へと刺さった。
《そんな事して大丈夫?
熱でダメージ負うわよ。》
確かに、ジワジワとノヴァのHPゲージが減ってきている。
でも・・・ここまでは俺の作戦通り。
次の瞬間、黄金の剣が太陽の如き球を切り裂いた。
その切った軌跡は、ちょうど球の直径となっていた。
その割れた球のすぐ後ろにいたサン目掛けて、
ノヴァは手の剣を槍投げの槍のように投げた。
その金色の剣は、サンが肩に乗せて構えていた
不死鳥砲の穴へと突き刺さった。
《え?これギャグ?w
って、発射動作が取れないんだけど!?》
《終わりだ。》
すぐさまノヴァはウェポンを
メインウェポンのガストブラスターに切り替え、
接近の勢いを殺さずに
その両方の銃口をサンの頭部へと突きつけた。
すかさず、引き金を引きまくる。
何度も何度も、キーボードの攻撃キーを連打する。
《YOU ARE WINNER》
・・・零距離射撃開始から5秒ほどで決着が付いた。
どうにか雅に勝てたようだ。
《くッ・・・サブウェポンは
メインウェポンに比べて威力が低くなる。
でも、サブウェポンを戦闘補助ツールとして使う事で、
その威力の低下を一切気にせずに利用した。見事よ!》
褒めてくれる雅だが、
俺も、実のところ思い付きで、その場限りの作戦を立てた。
あれほど不死鳥砲に頼っているヤツは、それが使えなくなれば
パニックになって隙が生まれるに違いない。
だが、使えなくするには、
まずは不死鳥砲から飛んでくる弾をどうにかするしかない。
その両方の役を務める事が出来たのは「剣」だけだ。
最も、剣が不死鳥砲の口に刺さったのは意外だったが・・・。
本当に良く出来たオンラインゲームなんだな。
《あと、四天王の武土井からの誘いなんだけどね、
明日、久々に四天王でカラオケ行かないかって話。
龍星が来る前に話してたのよ。》
・・・カラオケか。
俺は昨日行ったばかりだが、例の件でカラオケが消える前に、
飽きるまで通うというのは我ながら良案だからな。
《分かった。予定を空けておこう。》
―――――その後、俺はいつも通りの時刻に登校した―――――
教室に入り、自分の席にリュックを置く。
やっぱり、他人が「ほぼ」いないこの静かな広い空間というのは
いつ来ても心地良い。
・・・これのおかげで、今日も一日頑張ろうという気になる。
俺が早く登校する価値の全てはここに詰まっているのだ。
将来、自分の家を建てた時にもこのような広大な空間をつくろう。
もちろん、家具などは一切置かずに。
・・・そうだ、俺はこのつまらない高校生活を通り抜け、
高度な学歴を手に入れ、将来、自分の好きなように暮らすのだ。
椅子を引き、席に座った。
隣の澄田 麗華は今日も俺より早く来ている。
・・・彼女は頭が垂れ下がって今にも寝そうな姿勢になっているので
視線だけを彼女の手元に向けてみると、どうやら読書中らしい。
寝てなどいなかった。
するとその瞬間、彼女が読んでいるページの一行目が、
突然俺の目に率先して割り込んできた。
―――『では、正義とは一体何なのでしょうか?』―――
・・・セイギ・・・?
何だ、この感じは?
思えば、正義なんてものは明確な意味を持たない。
俺の頭の中に咄嗟に出てきた答えがそれだった。
多数派が正義と言えば最もな気もするが、
実のところはそうでもない。
クラスの話し合いとかでも、
少数の変なヤツが的を射た意見を持っている事もある。
列記とした意味を持つ“文字列”であるというのに
きちんと定義できない言葉、「正義」。
その存在に、俺はたった今気付いた。
「!?」
ハッと我に返ると、隣の席の澄田 麗華と目が合っていた。
俺は首ごと左を向き、彼女は右を向いている。
俺は焦って目線をすぐに自分の机へと落とした。
・・・いつの間だろう?
彼女の本の一節に気を取られた隙に、意識が飛んでいたのか?
それで不審に思ってこちらを見てきた澄田に、
俺が無意識のうちに視線を向けた、と考えるのが妥当だ。
俺がどう弁解しようと、
他人の本を覗き見るような事は決して誇れるような行為ではない。
俺とした事が・・・今のは恥ずべき行為だ。
「あの・・・?」
ん?
突如、呼ばれた気がして、
隣の澄田に恐る恐る目線だけを向けた。
だが、彼女は元の頭を垂れたポーズに戻って読書を継続している。
続けて周りを見回すが、教室には他に誰も来ていない。
・・・今のは気のせい・・・じゃないな。
物凄く小さい声だったが、この静寂の中、俺の耳には届いた。
でも今のようなまでに高いキーの声を持つ女子は
この2Eにはいないはずだ。
もちろんだが男子にもいない。
・・・とすると、俺がまだ一度も肉声を聞いたことがないこの女子、
澄田 麗華の声なのではないか・・・?
確かにこの声量的に、普段のざわつく教室では
声が聞けないのも納得だった。
・・・待て、ここは聞こえない振りをして済ませるのが良くないか?
さっきの俺の行為を問い詰められ、下手な発言をして、
それを都合が良いように捉え直して教師陣に通報されたりなどしたら
俺の立場が危ういではないか。
話すのをほとんど見ないが、コイツも一応人間だ。
こういう中身の見えない人間ほど
いざという時に何をするのかが全く読めない。
だが、しつこく呼ばれたりしたら・・・その時はその時だ。
どうにか、上手くごまかしてやろう。
・・・結局その朝、
俺が色々な作戦を思案する横で、
澄田がもう一度俺を呼ぶ事は無かった。
★第4話★ 「奇妙な出会い」 完結




