★第2話★ ネトゲオタクとの対戦
★第2話★ 「ネトゲオタクとの対戦」
・・・北川高校2年E組、朝の教室のほぼ中心で
2人のシンギング・ウォーズプレイヤーが
必死に自分のスマホを操作している。
片方はスマホ画面を睨み付けるように凝視し、
もう一方は自身がかけているメガネのつるを
操作していない方の手でしきりにいじっている。
現在はちょうど登校時刻の数分前。
普通なら最も生徒の出入りが激しい時間帯だ。
教室内はいつものように生徒たちの雑談で騒然となっている事もあり、
2人の熾烈を極める戦いに気付く者はほとんどいない。
――――――――――――――――――――――――――――
「・・・ほう。」
この俺、岡本 龍星の
西洋銃士をイメージしたアバター、"クリエイター・ノヴァ"が
メインウェポンである二丁拳銃ガストブラスターを連射するが、
先ほどから、その銃撃は面白いほど避けられ続けている。
アバターネーム:クリエイター・ノヴァ
アーマー:ガンマンスタイル
メインウェポン:ガストブラスター
HP:LV5
耐久力:LV7
スピード:LV11
アバターネーム:神速
アーマー:スタンダートガード
メインウェポン:ダブル・ストリームブレード
HP:LV3
耐久力:LV3
スピード:LV4
対戦相手である池田 和也のアバター
"神速"が、銃撃を器用に避けながらノヴァとの距離を縮めてくる。
すぐに間合いが詰められ、そのまま神速は
メインウェポンであるダブル・ストリームブレードを両手に構え、
ノヴァの頭上に振り下ろしてきた。
ノヴァは咄嗟に両手の銃を身体正面でクロスさせ、
振り下ろされてくるブレードをそれによって受け止める。
すかさずノヴァは銃でブレードを押し返し、その銃口を素早く神速に向けた。
瞬時に連射を開始するが、
神速はその名の通り両手のブレードをまるで乱舞の如く振り回し、
超至近距離にも関わらず、
ノヴァの銃撃を完全に防御した。
・・・あろう事か一連の動作で
向こうのダメージ判定は一度たりとも出ていない。
ノヴァは、リーチは短いが、
手にした2丁の銃身を神速の頭部に叩き込もうと銃を傾け、
そのまま銃で殴る格好で神速に迫る。
「・・・そんなの、ばれてますよ?」
その動きを読んでいた池田の神速はブレードでそれを弾いた。
弾かれた銃はノヴァの手を離れ、推定距離5mほど地面を転がり、静止した。
それにより、ノヴァのウェポンは左手のガストブラスターのみとなってしまった。
「大事なウェポンが片方欠けましたが、大丈夫でしょうか?」
池田は皮肉たっぷりの様子で、
視線をスマホから俺の顔に一瞬だけ移し、そう言い放った。
・・・お決まりのように、メガネをいじりながら。
・・・コイツ、さすがはネトゲオタクなだけある。
アバターの身体能力や装備はこちらの方が明らかに上なのにも関わらず、
池田は自身の操作性でその溝を埋めている。
俺がアバターにおいて最も重視している「スピード」も、
見かけは何ら俺のクリエイター・ノヴァと変わらない。
さっきから池田の隣では
騒音の元になる瑠璃川が応援に見立ててはしゃいでいるが、
その声もろくに頭に入ってこないぐらいには、
俺は池田との対戦に熱中していた。
・・・敵を挑発している余裕なんてない。
スマホ画面から少しでも目を離せば負けてしまう。
それぐらいの危機感は自然と覚えてしまう。
最初は必要以上にヤツをナメていた。
それは確かだった。
これでは、彼が自信を持つのも分からない気もしないでもないか。
・・・しかし。
このシンギング・ウォーズという特殊なゲームで
俺が負ける事はそうある話じゃない。
「悪いが、こんなので油断してもらっては困る。」
ノヴァは地面を蹴り、高く跳躍した。
同時に左手から右手に銃を移し、上空から神速へ迫る。
神速はサイドステップで回避を試みる。
が、ノヴァは構わず、神速の回避「前」の地点へと
右手の銃口の狙いを定めた。
「何をするつもりですか?」
ノヴァは空中で銃の引き金を引いた。
すると、今までとは違う大きな漆黒の銃弾が発射された。
「・・・煙幕弾ですか!?」
地面に着弾すると共に、その真っ黒な弾は黒煙をもくもくと放ち始め、
すぐさま視界が遮られた。
「・・・フッ、しかしこの視界不良ではあなたも
僕のアバターに攻撃を当てられないではないですか。」
池田が中指でメガネのつるを上へ押し上げる。
おそらく、頻度から考えてこれは彼の癖だろう。
「池田、甘いな。」
「は?」
すると次の瞬間、ノヴァの銃による発砲音とほぼ同時に、
神速が肩を打ち抜かれた。
「何?この状況で確実に銃弾を当ててきた?」
今まで余裕のお坊ちゃまぶりでスマホをいじっていた池田は、
この時初めて焦った様子を見せた。
メガネ越しの目を飛び出そうなくらい大きくして、
画面を凝視する池田は僅かながら滑稽だ。
・・・ノヴァはもう一発銃弾を放ち、
それも神速へと確実に命中させた。
神速が黒煙の中で地面を転がる。
神速のHPゲージは今の銃撃で4分の1を切った。
「一体、どうやってこんな事を・・・?」
池田はヤケになったのか、神速を無意味に動き回らせ、
両刀のスラッシュコマンドを連発するが、
当然、そんな簡単に命中するハズも無い。
「ちょっと、ちゃんとやりなさいよ!負けちゃうでしょ!」
横から池田のスマホを覗き見している瑠璃川が騒ぎ出す。
「まさか、煙幕は使用プレイヤー本人には効果が無い・・・のですか?
いや・・・確かそうでは無いはずですが。」
「俺も画面は同じだ。」
俺は自分のスマホ画面を向こう側にして、
池田と瑠璃川に見せ付けた。
池田のスマホと同じように、ただ画面は黒い煙が漂うだけで、
他は何も見えない。
「残念ながら、遠慮はしないぞ?」
ノヴァはそのままガストブラスターを単発で次々と打ち込み、
全てを神速へと命中させた。
「・・・バカな!?」
池田はパニックに陥り、自分の机に持っていたスマホを勢い良く置いた。
プラスチック製のハードケースがガツッという大きな音を立て、
周囲で雑談していた女子グループの何人かが驚き、
瞬時に彼へと視線を向けた。
《YOU ARE WINNER》
「俺の勝ちだ。獲得ポイントは・・・150か。
少々物足りないが仕方が無い。」
俺はスマホの電源を落とし、制服の胸ポケットに閉まった。
「ま、負けちゃったの!?
和也どうしたのよ・・・?」
池田は自分の机に両手で寄りかかっている。
見ただけでかなり落ち込んでいるのが分かるが、
状況からして俺が慰める義理なんてない。
「・・・俺のスマホは左と右の両方にスピーカーが付いている。」
「何・・・?」
池田の顔がやおら上がり、俺と視線が合った。
「俺は左右のスピーカーから聞こえる音を頼りに、
その場の状況を立体的に把握できるよう、多少練習を繰り返した。
アバターが移動すると、微かだがその足音が出る。
今回はそれを聞き取らせてもらった。」
「なるほど、そうでしたか・・・。
それを使って僕のアバターの居場所を確実に捉えたわけですか。
さすがはカラオケ四天王・・・といったところです・・・。」
池田は再び視線を机に落とした。
・・・もしかして、コイツは普段ゲームで負ける事がないのではないだろうか?
この落ち込み様は、いくら何でも異常だ。
残念だが、シンギング・ウォーズではカラオケ店舗の通信カラオケ「EXTREME」で
高得点を出し、それによってポイントを貯める必要がある。
でないと強力なウェポンやアーマーは手に入らないのだ。
つまり、普通のネットゲームの腕だけでは足りないという特性がある。
装備やステータスを見たところ、
池田のポイントは大してたまっていないようだった。
「・・・が、お前の操作性は見事なものだった。
俺が育てているアバターとのレベル差を、
その操作の腕で上手く埋められている。
更なるポイントを得て、装備を整えた時、再戦を求める。」
・・・別にこれは池田を励ますために付け加えた言葉ではない。
単なる事実だった。
ウェポンはダブル・ストリームブレードという
中級レベルのものを装備しているが、
アーマーはゲーム開始直後の初期装備だ。
それに、アバターの身体能力は俺の方がはるかに勝っているにも関わらず、
接近戦では俺の方が押されるほどであった。
「・・・そうですか。」
池田は視線を下に落としたままボソッと呟いた。
・・・この男に俺はいくらか嫌われた。
その程度なら、いくら"友達"のいない俺でも簡単に分かる。
でも、それが今の俺にとっては何の不利益にもならない。
陰口でも何でも叩いてもらって良い。
むしろ、俺はいつしかそうやって距離を置かれる事に、
一種の安堵を感じるようになっていた。
俺は落ち込む池田の後頭部を一瞬だけ睨み付け、
自分の席へと戻る。
すると、そこでちょうど登校時刻を示すチャイムが鳴った。
・・・ようやくここから学生の本文である勉強の始まりだ。
シンギング・ウォーズも、歌も、しょせんはそれを支えるオマケでしかない。
俺は自分の将来をよく考えているつもりだ。
反面、目標を見失っている人間は結局、ダメな人間になる。
俺が見ているとこの進学校でもそのような人間は多数いると思われるが。
池田のように何かしら「絶対の特技」がある人間は
個人的にはまだ好感が持てる。
でも、この日本という国は「勉強」の出来で
その人の将来がほぼ決まるシステムになっている。
・・・色々思う事はあるだろうが、
高校生にとって一番大切な事というのは常に「勉強」なんだ。
誰もこれには反論出来ないだろう。
当然、よく言う"友達"とやらと時間を共有して楽しむ事は皆無でも構わない。
将来のためには、特に意味も無い。
それが日本の現状だ。
俺はそのような日本の形式に、
自分を上手く適合させる事が出来ているという自負がある。
だから、俺は自分の将来を切り開く自信がある。
・・・無理に現状に逆らう必要は無い。
自分をそれに合わせてしまえば、何の問題も起きない。
シンギング・ウォーズもそれと同類だ。
カラオケ中毒者の続出が社会的な問題になっているというのならば、
カラオケが無くなるその前に、飽きるほど堪能すれば良い。
今更カラオケを救うなど・・・無理なんだよ。
―――――その日の23時過ぎ、都内のとある室内にて―――――
「・・・状況は日に日に悪化する一方です。
このままでは本当に人間がカラオケに支配されてしまうでしょう。」
黒いスーツに身を包んだ、短髪の長身男が口を開く。
「この時が・・・ついに来た・・・とでも言おうか。」
グレーっぽいスーツに白のローブを羽織った、
ロングヘアーの男が椅子に座りながらゆっくりとそう喋った。
・・・男たちが話している部屋には、
会議室のように長テーブルが4つ、正方形状に並べられ、
窓際には大きな可動式ホワイトボードが置かれている。
1つだけある窓のグレーの遮光カーテンは固く閉ざされ、
部屋には蛍光灯の灯りが煌々と灯っている。
「やはり・・・我々の手で制裁を加える必要がある、
という事でしょうか?」
この、会議室のような広い空間には、計6人の人間が席についている。
今度は、先ほどとは違う黒スーツの男が質問を繰り出した。
「フッ、当然の事を。
日本の未来は・・・我々に・・・掛かっているのだ。
平和を脅かす邪悪な存在は、消去するまでの事。」
ロングヘアーの男は、左右にボサッと広がっている自身の髪に指を入れ、
後方へととかすように髪を掻き分けた。
「では、プランCでいきましょうか?」
「いや・・・Eだ。
Cでは少々・・・派手すぎる。
現段階では・・・まだ早いッ!」
ロングヘアーの男はそう言い終わる前に、
会議用の長机に勢い良く両手の拳を振り下ろした。
ガシャンという物凄い音が会議室に響き渡る。
黒服の男達5人に一斉に緊張が走った。
「・・・だが、それは加減を施せという意味などではない。
分かっているではあろうが。」
再びロングヘアー男はゆったりとした口調に戻り、
叩き付けた拳を机の上でゆっくりと開いていった。
「プランEを美しく・・・かつ完璧に遂行せよ。
もし・・・失敗するような事があれば。」
すると彼の目は大きく見開かれ、
黒服の5人の1人ずつに素早く視線を巡らせた。
「あ、あ、は、はい!了解致しました!
他のメンバーに知らせておきます!」
5人は気付けば皆揃って息を弾ませ、冷や汗をどっぷりとかいていた。
まるで、今から拷問にでも掛けられるかの如く。
「決行は・・・明日だ。
もはや妥協の余地は・・・無かろう。」
ロングヘアーの男はそう言い、
部屋の棚の上に置かれていた
"何か"を包んだ黒い布をゆっくりと持ち上げる。
縦の長さ20cmほどのそれは、空中でその輪郭を露わにする。
次の瞬間、ロングヘアーの男は布を振り落とし、
その内部から出てきた「サイバイバルナイフ」を
慣れた手付きで上下左右へと激しく振り回し、
規則的に一定のポーズで静止する動作を何度か繰り返した。
その間、他の黒服男たちは黙ってその様を見ていたが、
皆、自分がこれから切り裂かれるかのように、
恐ろしい異物を見る目を向けている。
ロングヘアーの男は1分ほどでそのナイフを
元のように布をかけて棚の上へと静かに置いた。
と、同時に、その棚の一番上に位置する引き出しを開ける。
「我々の組織の財力で「銃」は手に入らない。
悪いが・・・お前たちにはこの装備で戦ってもらう。
以前にも・・・伝えた通りだ。」
そう言い、ロングヘアーの男が取り出したのは
数本の折り畳まれた「バタフライナイフ」だった。
「これで・・・この社会を救うのだ。
我が同志たちよ・・・。」
★第2話★ 「ネトゲオタクとの対戦」 完結




