★第13話★ 上級プレイヤーの実力
★第13話★ 「上級プレイヤーの実力」
モガナの超巨大ビーム砲、アトモストダズラーの砲撃により
フィールドの遠くまで飛ばされたセイバーが2本の剣を振り翳して迫ってきた。
《よーし、始めるぞ》
モガナは自身のビーム砲を
セイバーとは真逆の方向となる後ろへと構える。
《味わえよ、存分になぁ》
すると、モガナはそのままビーム砲のトリガーを引き、
そこからは背後に向かって眩しい光が飛び出した。
と、同時に、モガナの身体が物凄い反動により、
セイバーが向かってくる前方へと飛び出したのだった。
身体が45度以上傾き、空を飛行するかのような姿勢で
地面すれすれを飛行する。
モガナはビーム砲を左脇の辺りに抱えたまま姿勢を整えると、
両肩のガトリング砲をセイバーに向けて発射し始めた。
セイバーは冷静にガトリング弾を剣の刃先で弾き飛ばすが、
目前へと迫ってくるのは銃弾だけではない。
モガナの身体が凄い勢いでセイバーとの距離を縮めてくる。
セイバーは近付いてくるモガナを切り裂こうと、もう片方の剣を構えるが、
それよりも先にモガナのビーム砲による打撃がセイバーを捕らえた。
巨大ウェポンなだけあり、その衝撃は銃身による打撃と言っても計り知れない。
セイバーは脇腹をビーム砲で殴られ、地面へと転がった。
反動で飛ばされてきたモガナも両足で着地する。
砂煙が次々と舞い上がる。
すぐにセイバーは体勢を立て直し、転がりながら立ち上がるが、
その目の前に現れたのは大量のガトリング弾。
セイバーは反応し切れずに弾の餌食となった。
連続でアバターがひるみ続けるようなモーションが続く。
モガナの背中に取り付けられたガトリング砲はさきほどから停止しない。
が、すぐにセイバーは体勢を整え、
両手に持っていた剣を振り回し、弾を跳ね返し始める。
弾の速度も速いが、剣が振られるスピードもそれに対応できるぐらいに素早い。
するとモガナはガトリングを発射しながら
再度、巨大ビーム砲を脇に構え、剣を振り続けるセイバーへ向かって
躊躇なくトリガーを引いた。
再びビーム砲の銃口を中心としてまぶしい光が一瞬にして広がる。
セイバーはビーム砲の砲撃が命中して飛ばされ、
またモガナは反動によりそれとは逆方向に飛ばされる。
《久しぶりだねぇ・・・これ使うのは。》
モガナのプレイヤー、内垣外がチャットで発言した。
《相変わらずヤバイな。
モガナのスピードはLV7でほとんど初心者級だっていうのに、
ウェポンを利用して今回はLV80の敵にも負けないスピードを出している。
よく考え付いたもんだ。》
アナカシコのプレイヤー、大道 響次が称賛する。
《まぁ、誰かが同じような装備でパクろうとしても無理だろうけどねぇ・・・。
俺みたいに”尋常じゃない反応速度”が備わっていないと。
あれはキーを高速かつ正確に叩けないと無理な技なんだよねぇ。》
内垣外はさりげなく自画自賛を始める。
《本当に、なぜ、あなたがそんな変な能力を持っているのですか?》
ダニスラのプレイヤー、長谷川 調が訊く。
《まぁ良いさ。今はあのチート野郎を潰す。》
頭を打たれて転がっていたセイバーが起き上がった。
すぐ後ろにいたモガナと対峙する。
《威力超Z級ガトリングワールドはまだ終ってないんだよねぇ。
続きを始めようか。》
次の瞬間、セイバーの背中が撃ち抜かれた。
弾道を辿ると、10mほど後方で
ダニスラが硝煙を上げるスナイパーライフルを構えていた。
ダニスラの使い手である長谷川は女性プレイヤーである。
そのためにダニスラの容姿も女性のそれに準ずる。
ロックハンドの他の男2人のアバターは
いずれも角ばったゴツいアーマーを装着しているが、
ダニスラの装飾は至ってシンプルである。
装着しているアーマー、ガードオブエレガンスは
白色を基調とした、肌の露出が少ない軽量のもので、
肘や腿などの各所に硬い装甲が配置されているが
その細身のシルエットはまさに女性アバターだ。
顔には両目にかかる四角い黒色のゴーグルを装着しており、
アバターの髪はショートにしている。
アーマーの軽量さとアバターのスピードステータスも合わさって、
高速で移動のできるスナイパー、といった戦士タイプになっている。
・・・ロックハンド戦では、モガナの予想外の機動力に気を取られていると、
彼女のような取り巻き2人の存在に気が回らなくなる。
確かにモガナはこのパーティの最重要人物ではあるが、
他2人もシンギング・ウォーズの上級プレイヤーである事に変わりはない。
内垣外のサポート役として機能しているが、
油断をすればサポート役によって勝敗が決まる事はざらにあった。
前姿勢になってバランスを崩したセイバーの目の前には
いつの間にかアナカシコが剣を振り上げて待っていた。
すかさず、セイバーの右肩を目掛けて剣を振り下ろす。
セイバーは瞬時に上半身を左へずらし直接の斬撃を避けた。
が、アナカシコの禁忌金剣から発せられる衝撃波によって左へと弾かれ、
再び身体が転がった。
すると、またガトリングが火を噴き、
地へと転がっていたセイバーの腹部に次々と正確に命中していく。
セイバーのHPゲージは、確実に減少してきている。
《・・・どうしたのかねぇ。
急に大人しくなったような気がする。》
もしかすると・・・最初のようにロックハンドの手の内を探っているのか?
そのような疑惑は、少なからず内垣外にはあった。
―――――その頃、アブソリュート・アーツ社では―――――
「随分と頑張っているようだな。」
現在は既に20時を少し回っている。
運営チームのデスクには伊集院を含めて
5人ほどの社員がまだ忙しそうにキーボードを打っていた。
伊集院は、その中の遠藤という男性のデスクに近付き、
何やら話し掛けていた。
「はい、現在、2日後の月曜日に導入予定になっている
シンギング・ウォーズの新システムの確認をしていますので。
利用者の方に楽しんでもらい、
そして我々アブソリュート・アーツ社の成果に
貢献できればと思っています。」
その遠藤と呼ばれた男性は高身長で体格もスラッとしていて、
声もハキハキしているためにいかにも真面目そうな面影が滲み出ている。
「それは結構だな。
今回のスキルシステム実装は私自身も楽しみにさせてもらっている。
アバターのステータス、装備に続く新たな勝敗を決める要素。
今回の殺人事件で離れていった若者もおそらく帰ってきてくれるだろうな。」
遠藤はにこやかに「はい!」と答え、伊集院から目をそらし、
卓上のデスクトップPCへと視線を移した。
が、伊集院はそのPC画面を見据えたまま動かない。
「・・・伊集院さん?どうされまし」
そのとき、遠藤の右隣の影が動いた。
遠藤は反応しようとするが、間に合わない。
突然、遠藤の顔面に勢い余る拳が突き付けられた。
「コイツ、いつまで仲間ヅラしてるのでしょうかね?」
その拳は、遠藤の隣の席に座っていた村上のものであった。
椅子に座っていた遠藤は椅子から転げ落ち、床に倒れて鼻を押さえる。
室内で働いていた遠藤以外の3人が突如席を立ち、
伊集院と共に、床でもがく遠藤の周囲を取り囲んだ。
「む・・・村上、何をするんだ!?」
鼻を押さえたまま遠藤が伊集院たちを見上げる。
鼻からは鼻血が噴出していた。
フローリングに鮮やかな血痕が散らばっている。
すると、突然その部屋のドアが勢いよく開けられた。
扉の向こうから6人ほどの人影が次々と中に入ってくる。
「伊集院さん、例の者を仕留めました。」
シンギング・ウォーズ運営チーム第二責任者である蔭山だった。
蔭山の背後には、5人ほどの人間が見える。
そのうちの1人は両肩を2人に取り押さえられており、
首を垂れて俯いている。
それは髪を耳が隠れるぐらいまで伸ばし髪を茶色に染めた若者だった。
「白鳥、お前の裏切りに気付いていないとでも思ったか?
いや、お前ら、か。」
伊集院が穏やかな口調で淡々と話し始める。
「遠藤がシンギング・ウォーズのプレイヤーデータを不正に引き出し、
それを企画担当の別室にいた白鳥へと回し、
白鳥が例の組織に提供していたという情報は先日掴んだ。
蔭山に常時見張られていたのには気付かなかったのか?」
白鳥は両肩を掴まれたまま、俯いて何も答えない。
「例の組織・・・何の事ですか!?」
鼻血を出して床に倒れていた遠藤が起き上がろうとするが、
体格の良い村上に脇腹を蹴られ、再び床に叩き付けられる。
鼻から血が勢いよく噴き出す。
「・・・エクソルチスムス、実に愚かな組織だ。
私達のシンギング・ウォーズを潰しに掛かってくるとはな。
我がアブソリュート・アーツ社に逆らう愚かな組織及びその指導者。
その対策に負われるのは、さすがの私も疲れが溜まる。
お前もその仲間なのだろう?」
伊集院は感情を込めずに淡々と言い放つ。
「・・・。」
両肩を押さえられている白鳥はやはり何も話そうとしない。
が、苦しそうに微かな歯ぎしりをしている。
「エクソルチスムスって、あの殺人グループの事ですか!?
なぜ私がそんな組織の肩を持つという設定になっているのですか!?」
遠藤は腹を村上に踏まれ、仰向けのまま立てないでいる。
「だから、お前がプレイヤーデータを白鳥に渡したんだろう?
蔭山さんがちゃんと見ているんだ。」
村上が足元の血に染まった遠藤の顔を眺めながら言う。
「違いますよ!私は白鳥さんが
シンギング・ウォーズシステムの更なる改善のために
全国のプレイヤーの年齢層などを調査したいという目的で
プレイヤーファイルの情報を求めてきたので、渡したまでです!
そんな、変な組織に加担するような真似をした覚えはありません!」
遠藤は村上の足を両手で押さえながら必死にもがく。
「おい、白鳥!私をはめたのか!?
お前はそんなヤツだったのだな!」
我を忘れた様子で絶叫し続ける。
「・・・白鳥、これは本当なのか?」
村上が声を小さくして訊く。
「・・・俺は・・・エクソルチスムス団員だ。
今回は・・遠藤を利用させてもらったんだよ。」
さきほどまで黙っていた白鳥がゆっくり口を開いた。
「お前ぇぇぇッ!!」
村上の足元で遠藤が声を張り上げる。
「伊集院さん・・・もしかすると遠藤は本当にはめられて・・・。」
村上が急に表情を曇らせ、隣に立っている伊集院に訊いた。
「フッ・・・はめられた、か。
遠藤、お前はそれで責任を免れるとでも思うのか?」
伊集院が遠藤を見下ろす。
遠藤の表情が一瞬にして強張り、もがいていた手足の動きが止まった。
「他人を簡単に信用する事がどれだけ難しい事なのか、
また、どれだけ愚かしい行動なのか、お前には分かるまい。
人は人間の特性をよく理解すべきなのだよ。
この裏切りに満ちた世の中の特性を。
まぁ確かに言えるのは、自分を平気で裏切るようなヤツを
まんまと信用していた本人も同罪だということだ。」
伊集院はゆっくりと、決して感情を入れずにそう言った。
「・・・そう・・ですか。」
遠藤を踏み付けていた村上も動揺している。
が、村上がそう言い終わる前に室内から手を叩く音が聞こえてきた。
見ると、蔭山だった。
落ち着いた様子で、単独の拍手を伊集院へと送っている。
「さすがは我らがリーダー、伊集院さんです。
違いますかね?皆さん?」
蔭山が一度拍手を止めてそう言うと、村上も慌てて拍手を始めた。
次々に室内で遅れた拍手が巻き起こる。
「2人とも警察へと引き渡せ。」
伊集院がそう言うなり、部屋の拍手がやみ、
すぐに両肩を押さえられていた白鳥が連れ出された。
それを見て、村上は慌てて足蹴にしていた遠藤を立ち上がらせ、
背中を押して部屋の外へと誘導する。
たった今大きなショックを受けたのか、遠藤は一切抵抗せずに歩を進めた。
―――――――――――――――――――――
・・・遠藤は理解したであろう。
何も考えずに他人を信用する危険性を。
相手は同じ会社で働く同僚だろうが、それは変わらない。
人は簡単に信用などできる訳がない。
誰だってそうだ。
多少の善意は持ち併せていても、100%それで構成されている人間はいない。
他人を利用するという事は言わば本能的な行動であり
人間であれば誰しもがその行動を取りながら生きている。
綺麗でかつ一般的な言葉を使うのならば「支えあって」生きている、と言うべきか。
まぁ、少なくとも利用した相手への感謝は怠るべきではないだろう。
そしてそれを忘れた人間は「ゴミ」という事である。
私は、過去の私のような思いをする人間を増やしたくはない。
悪は倒さねばならないのだ。
故に、カラオケとネットゲームを連動させた例のシステムの開発に至った。
この私の計画の邪魔は誰にもさせてはならない・・・。
―――――――――――――――――――――
―――――その頃、ロックハンドの3人は―――――
《いい加減死ねよ!》
アナカシコの斬激がセイバーのすぐ隣を通り過ぎる。
すぐに繰り返し発生する衝撃波によってセイバーが飛ばされた。
セイバーは地面に転がったが、何事もないようにすぐ立ち上がる。
が、立ち上がった直後に背後から飛んできた弾に右肩を貫かれる。
弾道を辿ると、ダニスラのスナイパーライフルだった。
撃ち抜かれてもセイバーはよろめきながら双剣を構える。
《ヤツのHPゲージ・・・・・だんだん減りが遅くなってないかねぇ?
そろそろ倒れてないとおかしいし。
それに、連続攻撃を受ける事により
DPもそろそろ溜まっている頃だ。
必殺技を撃たないのも不可解だねぇ・・・。》
モガナのプレイヤーである内垣外がチャットで発言する。
《ヤツはチートプレイヤーの中でも、
ゲームシステム自体に干渉しているタイプなのですかね?
或いは、あのアーマー、もしくはウェポンの特殊能力が備わっているか。》
《そもそもあのアーマーとウェポンはゲーム中に正規に存在するのか?
だとしたら上級プレイヤーである俺らが
知らないはずは無さそうだが・・・。》
シンギング・ウォーズは、
プレイヤーファイル毎に違う回収目標アイテムが設定されており、
それを手に入れる事により次のエリアへと進める事になっている。
当然の事、エリアを進めれば強力な装備を手に入れる事が可能。
が、全国のプレイヤーの中でも上級ランクに位置付けられている
ロックハンドの3人が知らない装備類というのは、すなわち、
彼らよりもエリアを進めていないと手に入らない、という事になる。
だが、公式ではそのレベルのプレイヤーは存在していない。
《おい、お前、どうやってその装備を手に入れてきた?
それはエリアを進めれば手に入るものなのか?
それともお前が勝手にプログラミングして使用可能にしているのか?》
チャット画面は対戦相手と共通になっており、
相手プレイヤーとの会話もできるようになっている。
内垣外が謎のチートプレイヤーに向かって訊く。
・・・すると、フィールド内のセイバーが構えていた剣を下した。
《それは、公式の人間に聞けば良いだろう?》
なんとチートプレイヤーが普通に返答したのだった。
《あなたは、例のエクソルチスムスという組織の人間なのですか?
そうならばなぜ上級プレイヤーばかりを狙っているのか、教えてください。》
ダニスラのプレイヤー、長谷川も続く。
《俺をあんな小規模な組織と一緒にするな。
俺はヤツらの団員ではない、という事だけは教えておいてやろう。》
ちゃんとした答えは返ってこなかったが、
ゲーム上を騒がしているサイバーセイバーというチートプレイヤーは、
エクソルチスムスとは無関係の者らしい事は判明した。
《繰り返すようだが、お前の目的は何だ?》
アナカシコのプレイヤーである大道も訊く。
《そんなの簡単に教える訳ないだろ。》
向こうからのチャットはすぐに返信が返ってくる。
PCのキーを叩くスピードがかなり速いようだ。
《ま、今日はこの辺にさせてもらおうか。
またお前らを標的にする事があれば再戦を求めよう。》
セイバーのプレイヤーがそう発言した次の瞬間、
画面上に大きく文字が表示された。
《YOU ARE WINNER》
突如ロックハンド側の勝利となり、専用のBGMが流れ出す。
《降参して逃げられたねぇ・・・。
まぁ倒したところで正体は分からないだろうけど。》
バトルフィールドの画面がだんだん暗くなり、
ロックハンドの3人のアバターは通常のフィールドエリアへと転送された。
《一応、ヤツの使用装備や戦闘方法などで、
まとめられる要素は伊集院さんに俺の方から報告しておく。
しかし、是非また戦いたいものだねぇ。》
上級プレイヤー故に、彼らはそれ相応の対戦相手が欲しくなるのは当然の事だ。
★第13話★ 「上級プレイヤーの実力」 完結