★第12話★ 対エクソルチスムス作戦会議
★第12話★ 「対エクソルチスムス作戦会議」
・・・池田自作の音を利用した「掃除機型武器」のテストプレイから
1週間が経過していた。
結局、あの機械の効き目は俺の予想を上回っていた。
あの音が耳に入ると想像以上の効果を引き起こすようで、
標的が頭痛、めまい、吐き気などに襲われる事が分かった。
学校の物理の授業でも習ったが、
よく学校にあるウェーブマシーンがつくる波を眺めるのとは
全く次元の違う、定常波の威力を実感できる実験となった。
だが、池田は何だか満足できないような様子で、
様々な改良点を自分のノートへ次々とメモしていた。
定常波の変換効率自体は性能上昇が難しいようだが、
バッテリー性能、そもそものツールのサイズ、形などは
まだまだ改善できるとの事だった。
そして、今日は再び土曜日。
瑠璃川の提案により
彼女の家で重要な作戦会議を開く事になっている。
既に池田、瑠璃川、澄田と俺が集まり、
立派な洋室の客間で四角いテーブルを四方に囲むように座り
4人で話を進めていた。
「・・・ところで、作戦の決行はいつ頃になる予定だ?」
池田に視線を向け、訊いた。
「僕の機械が完成し、皆さんの心の準備が整い次第、になります。」
池田が自ら発する言葉をためらいながら答えた。
ちなみに、これはゲーム感覚で進めている計画ではなく、
俺たちは全員これに自分の命を預けている。
・・・敵はナイフを持った殺戮集団。
もしかすると殺される可能性もある。
全員その事をしっかりと受け止めつつ話し合う必要があった。
「機械の完成はだいたいいつ頃になるんだ?」
「出そうと思えば、永遠に改良点は出てきますよ。
しかし、サイズやバッテリー持続時間などの改良は済んでいますから、
後は敵のナイフ対策としてボディにシールドの機能を持たせるために
ボディ自体を丈夫な素材に交換すれば、
少々荒い部分はあるでしょうが
まず作戦実行には問題ないのではないでしょうか。」
池田は得意げにメガネのつるを中指で押し上げる。
「澄田、エクソルチスムスの行動予定などの情報は何か掴んでいないか?」
澄田 麗華は、
エクソルチスムスの首領として動いている鏡夜の妹だ。
彼女は直接組織の作戦などに出向く事は無いそうだが、
一応この中では最も内部に通じ得る人間である事は間違いない。
「えっと・・・・私には基本、作戦などの情報は入ってこないので、
あんまりそういうのには詳しくありません・・・。
力になれなくてすみません・・・。」
澄田がいつものように小さい声で答えたが、
ここは学校のように騒がしくはないから、
俺のように特別耳が良くない人でも聞き取れる。
「そうか・・・。」
この1週間、全国で合計6人のシンギング・ウォーズプレイヤーが殺害された。
3人は高校生、2人は大学生で、あとの1人は中年の男性であった。
もともと俺も標的にされていた訳だから、いずれ狙ってくるだろうと警戒していたが、
俺の前に団員らしき者が現れる事はなかった。
シンギング・ウォーズやカラオケに熱中して
学校に行かない馬鹿たちがいるのは事実ではあるが、
それを阻止するために他の無実の人間を次々に殺すのは明らかに狂っている。
少し前までの俺ならば、そんな変な奴らに対抗するなどとは
考えられなかっただろうが、澄田に命を助けてもらってから変わった。
これ以上、俺の好きなカラオケを汚されたくないというのもあるが、
第一として澄田の力になりたかった。
彼女は他人が殺されていくのを見過ごせずにたった一人で行動を起こしていた。
自分の兄と対立する事を恐れずに。
「奴らの計画は分からなくても、本拠地の場所は詳細に分かるな?」
「はい、それなら大丈夫です。」
澄田は持ってきたショルダーバッグから大きめの地図を素早く広げ、
4人が囲む四角いテーブルに置いた。
「紙地図ですか・・・・。
今どきはスマホでマップが簡単に出るのは分かりますか?」
池田は不思議そうに尋ねた。
「いや・・・スマートフォンはあるんですけど、
皆さんの前で画面が見られないんです・・・。」
澄田は恥ずかしそうに俯く。
「あ、そうでしたね。失礼しました。
では、本題に戻りましょうか。」
池田が軽く頭を下げる。
「・・・はい。これは都内の郊外の地図ですが、
このビル全体が彼らの拠点になっているはずです。」
澄田が人差し指で丸を描くようにして指したものは
その周囲と見比べると敷地面積が小さめのビルであった。
「実際に入った事はありませんが、兄はここで寝泊りしているようです。
つまり・・・夜でも作戦の実行は可能です。」
「分かった。」
作戦としては、澄田が組織側に密かに連絡を取り、
当日の彼らのビルへの進入口を何らかの形で確保する。
手荒ではあるが、そこから池田の例の掃除機と
澄田の強力なスタンガンを使ってどうにか活路を開き、
中にいる鏡夜を殺害する。
澄田によると、組織は資金が貧弱なため、
おそらく団員の中に銃火器類を所持している者はいないという事だ。
つまり、相手が振り回すナイフさえ攻略してしまえば
後は事が順調に進むという事になる。
「岡本さん、ボディの素材変更なら一週間あれば終りますが、
作戦決行はいつ頃にしますか?」
「・・・来週の土曜日、ちょうど一週間後はどうだ?
池田以外の他2人もだが。」
俺は瑠璃川と澄田を見やった。
すると澄田は微かに頷いたように見えたが、
瑠璃川は視線を下に向けたまま動かない。
そう言えば、瑠璃川はこの作戦会議が始まってから
ほとんど何も言葉を発していない。
「瑠璃川さん、どうしたんですか?」
池田が訊く。
「あ、いや・・・ちょっと具合が悪くなってきたから・・・。
ゴメンね、ちゃんと聞いてたから大丈夫だよ。」
彼女の取り乱し方を見ると、何も聞いてなかった事が容易に分かる。
しかし、開始直後から具合が悪そうなのも確かだ。
時々痛そうに平手を額に当てていた。
「・・・無理しないでね、瑠璃川さん。
調子悪いなら私たちだけで話をまとめておきますから、
良かったら部屋を出て休んでいてください。」
澄田が気遣う。
「うん・・・ありがとう。じゃあ、今日は抜けるよ。
帰るときはそのまま出ていって良いからね。」
そう言うと、瑠璃川は椅子を引き、そのまま部屋を出ていった。
残された3人はすぐに険しい表情を浮かべた。
「・・・瑠璃川さんは、あんまり乗り気じゃないんですかね・・・。」
澄田が申し訳ないように俺の方を向いた。
「作戦が作戦だからな。
もともとお前だって乗り気って訳じゃないだろ。
やむを得ず、じゃないのか?」
「・・・そうです。」
澄田の視線が下がる。
「ところでなんですが、メンバーはこの4人で大丈夫ですかね?
明らかに戦力不足ですから、増やせるならもっと増やしたいのですが。
澄田さん、強化スタンガンの予備は無いですか?」
池田がいつものように眼鏡をいじりながら提案する。
「私の使う『デス・コンビクション』の他に、
カラー違いの試作品が・・・2つあります。
たぶん少しメンテナンスすればすぐ使えると思います。」
「なるほど。今のところナビゲート役が僕と瑠璃川さん、
戦闘担当は澄田さんと岡本さん。
岡本さんは僕の武器を使うので、そのスタンガンがあれば
あと2人分の枠が余りますね。
誰か、良い推薦候補はいませんか?」
俺は澄田の方を向いたが、彼女は軽く首を横に振った。
「・・・自分で言っておいてなのですが、
僕の方で推薦したい人物がいます。
でも、その人は基本何を考えているか分からないので、
リスクが無いと言えば嘘になりますが・・・。」
「その人物とは?」
池田が話し終わらないうちに口を突っ込む。
「僕はパソコン部に入部しているのはご存知かと思いますが、
1つ上の先輩で、内垣外さんという人がいます。
彼は既に部活を引退しているのでしばらく会っていないのですが・・・。
でも、噂によると、彼は北川高校のエクソルチスムス団員を見つけては
素手で立てないまでボロボロにして
警察に何人も差し出している・・・らしいのです。」
・・・その人間は何だ?
素手で、ナイフを持ったヤツを倒せるのか?
しかも、そんな人がなぜパソコン部に?
「確かに、団員ではない事は明白だが、
その人は色々とおかしいだろ・・。」
「まぁ、そうなんですよね。
いつもニヤニヤしながら口癖で『足りないねぇ』って
うるさいんですよ・・・。
僕の中ではずっと変人扱いですが、
あの方が味方になったら逆に頼もしい気がするんです。」
・・・そんなヤツが味方に?
聞いた感じはただの不審者のような気がするが・・。
だが、エクソルチスムスに敵意を抱いているのは確かだろう。
この際、利害関係が一致するのであれば
是非協力してもらいたいところではある。
「私は・・・賛成します。
協力してくれる人は誰でもありがたいです。」
澄田が声のボリュームを少し上げた。
池田の方をまっすぐに見ている。
「ならば、俺も賛同する。
彼には月曜日にお前の方から詳細を話しておいてくれ。」
「分かりました。
ですが、あまり期待は出来ないかもしれません・・・。」
池田が苦笑いを見せた。
「では、とりあえず作戦を煮詰めていきましょうか。
東京までの移動手段である新幹線はこの時刻の車両が・・・」
―――――その日の夜、ロックハンド3人は―――――
《うわヤバイヤバイ、さすがチート野郎だ!》
《コイツはなかなか面白いねぇ・・・。》
ロックハンドの3人はシンギング・ウォーズで
最近頻出している謎の不正ソロプレイヤーと戦っていた。
運営側リーダーの伊集院でもその実態を掴めていない困り者であったが、
上級パーティばかりを狙って対戦を仕掛けてくるために、
今回は偶然ロックハンドが標的にされたという状況だった。
『パーティ名:ロックハンド』
アバターネーム:モガナ
アーマー:銃暴
メインウェポン:アトモストダズラー
HP:LV50
耐久力:LV47
スピード:LV7
アバターネーム:ダニスラ
アーマー:ガードオブエレガンス
メインウェポン:ジエンドストライカー
HP:LV22
耐久力:LV20
スピード:LV58
アバターネーム:アナカシコ
アーマー:タブーフォームX
メインウェポン:禁忌金剣
HP:LV30
耐久力:LV36
スピード:LV35
『ソロプレイヤー』
アバターネーム:サイバーセイバー
アーマー:ザギガンティック
メインウェポン:フルメタルブレード
HP:LV80
耐久力:LV80
スピード:LV80
サイバーセイバーのアーマー、ザギガンティックは銀色の防具。
名前のゴツさからは想像出来ないほどシンプルな装備で、
見た目的にはただシルバーの長いローブを羽織っただけだ。
使用武器も、持ち手から刃先まで銀色をしており、
全身のカラーをシルバーでまとめ上げている。
ロックハンドのアナカシコが振るった禁忌金剣が
セイバーへと迫る。
セイバーは大きな銀色の剣、フルメタルブレードを振り上げそれを弾いた。
互いの重量の剣が弾き合ったことによりアナカシコがバランスを崩す。
すかさずセイバーより5mほどの距離にいた
モガナによるガトリング弾が連発で飛んでくる。
セイバーは今度は刃の面積が広いという自らの剣の特徴を活かし、
自分の身を守るように剣を盾にして銃弾を跳ね返す。
それを確認したモガナは、
ガトリング砲を撃ちながらセイバーへ向かって走り出した。
どんどんセイバーとの距離を詰めていく。
セイバーは左右のバックステップを切りながら後退していく。
だが、手に構えた剣には、常時、正確にガトリング弾が命中している状況だ。
次の瞬間、セイバーは後方からの殺気を感じ取った。
顔を横にして後ろを見やると、スナイパーライフル型武器、
ジエンドストライカーを構えているダニスラが背後10mほどに待機していた。
《撃ちますよー》
チャット欄に文字が流れた次の瞬間、
セイバーの左肩が瞬時に撃ち抜かれた。
が、目の前からもガトリングを乱射されており、
とても背後からの狙撃には対応できない。
スナイパーライフルは規則的に何度も弾を飛ばし、
セイバーの背中部分を正確に捕らえていく。
そして、さきほど体勢を立て直したアナカシコが剣を振り上げ、
セイバーへと迫った。
自分の前後からくる弾に集中しているセイバーは反応が間に合わない。
すかさず剣は振り下ろされ、セイバーを切り裂く。
アナカシコの禁忌金剣より衝撃波が発生し、
その衝撃でセイバーが5mほど宙を舞い、飛ばされた。
《撃ち方やめて再度陣形を整えろ。》
モガナのプレイヤー、内垣外の指示により、
ウェポンの使用を中断した残り2人のアバターが
さきほどのフォーメーションを再び構成する。
《・・・妙だねぇ。ヤツの残りHP。》
ロックハンドの陣にはめられたセイバーのHPゲージは、
ほぼ減っていないといっても過言ではない状態であった。
全体の15分の1ほど減っている、くらいだろうか。
《さすがはチートプレイヤーだねぇ・・・。
そう簡単には勝てないようだ。》
さきほど衝撃で弾かれたセイバーが起き上がった。
《とりあえず、さっきの攻撃を》
次の瞬間だった。
セイバーの右手に握られていたはずの銀色の剣が
突然2本に増えたのだった。
ウェポン変更のモーションが2秒ほど流れる。
《チ、やられたねぇ・・。》
内垣外のチャットが流れたかと思うと、
二刀流と化したセイバーが地を蹴り、
先ほどの鈍さからは考えられないほどの勢いでアナカシコへと迫った。
アナカシコは身構え、剣を振り上げる。
が、計算を狂わせるほどのセイバーのスピードだと、
アナカシコの剣が振り下ろされる直前の隙を付くことは容易であった。
セイバーは加速した勢いを殺さず、飛び上がり、
2本のフルメタルブレードに全体重を掛けて斬撃を繰り出す。
剣を振り上げた状態で身体の真正面がガラ空きだったアナカシコは
斬撃を腹に受け、そのまま後方へと飛ばされる。
アバターのスピードステータスの高いダニスラが銃を構え、
瞬時に狙いを定めて撃ち放つが、
セイバーは空中で身体を回転させ、直前でその銃弾を避ける。
着地後すぐに6mほど前方にいたダニスラへと詰め寄り、
再び2本の剣を叩きつけるようにして斬撃を放つ。
ダニスラは持っていたスナイパーライフルの銃身で防ごうと試みるが、
そんな脆い盾は簡単に弾かれ、往復してきた2本の剣によって
ダニスラも弾き飛ばされた。
《やっぱりねぇ・・・。
ステータスの割には戦闘がやけにヘボいと思っていた。
俺たちの出方をまんまと見物されたという事か。》
セイバーはダニスラを斬るなり、地を蹴ってモガナへと迫る。
スピード性能が『LV80』のアバターなんてものはまず存在しない。
それこそダニスラのようなスピード重視タイプの上級アバターでも
現在ではせいぜい60前後が一般的。
故に、超上級パーティのロックハンドですらそんな対戦相手とは
出会った事がない。
《ステータス的にはシンギング・ウォーズの最上級プレイヤー並。
今のテクニックから、戦闘もそれに準ずる、と仮定。
という事は、という事は、という事はぁ・・・・・・》
セイバーは再び2本の剣に全体重を込めて
目の前のモガナへと狙いを定める。
《久々に『アレ』が出来るよねえええええええええええ!!》
モガナは、ずっと使わずにいた自らのメインウェポン、
アトモストダズラーを突然構え、
目前にいたセイバーに向かって思い切りトリガーを引いた。
瞬間、眩い光がフィールドを包み込み、
機械の起動音のような高い音と共にビームが発射された。
光に包まれたセイバーはそのままはるか遠くまで飛ばされ、
地面に背中を擦り付けながら更に引きずられていった。
アトモストダズラーは、「超大型ビーム砲」だ。
まるで脇腹あたりに大きめの冷蔵庫を横にして構えているような容姿になる。
全長サイズ共に、現時点のシンギング・ウォーズでは最重量武器。
その威力は見た目通り申し分ないが、問題なのはその「反動」である。
セイバーを撃ち抜いたモガナは、反動により自らの背後に飛ばされ、
体勢を立て直しながら両足で着地した。
が、着地後も反動が収まらず両足で後ろへと引きずられている。
シンギング・ウォーズでは、アバターの重量というものも
戦闘時に考慮されている。
例えば、アバターのスピードステータスが高くても、
アーマーやウェポンが重ければその能力自体の性能は実現できない。
また、アバターの総量が重量になるほど、吹っ飛びにくくもなる。
逆も然りだ。
アトモストダズラーは最高の重量武器である上に、
それを持つモガナには銃暴という、
これまた重量級アーマーが搭載されている。
そんな全身を重量装備で固めているモガナですら、
自らのビーム砲の反動で飛ばされるのだ。
アトモストダズラーの反動がどれほどのものかが分かる。
《こんなデカいだけの代物は使い物にならないんだけどねぇ・・・。
俺に使われなきゃ、の話だけど。》
セイバーが遠方へと飛ばされた隙に、
ダニスラとアナカシコがモガナの背後へと駆け寄ってきた。
《久々に、やっちゃって良いよねぇ・・・?》
《敵が敵ですから、構わないでしょう。》
ダニスラのプレイヤーがチャットで発言する。
《準備は良いか?
これより、『威力超Z級ガトリングワールド』を発動する。》
★第12話★ 「対エクソルチスムス作戦会議」 完結