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第6話 不幸


「……随分と遅かったな」

「すいません」

「すみませんでした」

 結果的に遅れてしまったことで、キレてしまっている玲也先生にひたすら謝り続ける俺達。

 ――結局、あれから勉強をすることになり完全に遅れたのだ。

 さすが優等生の鏡というべきか。戦闘は戦闘、勉強は勉強といった真面目な性格だった。そのせいで今回のような状況になったとも言える。

 優等生ってのは本当に良いことだけども、時と場所を考えないとダメだな。

 律儀にすべての過程を終わらせようとしているからだろうけどな。

 今日のカリキュラムは不幸にも玲也先生の担当している教科が二時間連続であったらしく、敢えてゆっくりと帰ったのも関わらず、揃って怒られてる途中というわけだ。

「ここまで遅れたからには俺の質問に答えることが出来るんだろうな?」

「大方は出来ると思いますよ。“彩葉”が懇切丁寧に教えてくれましたので」

「ほぉ」

「まぁ、“隼人”君はやる気がないだけで、物分かりは良かったので捗りましたよ。もしかしたら私よりも理解力が高いかもです」

 そこまで褒めてくれるのはありがたいことなんだが、俺にそんな理解力はないよ。

 彩葉の教え方が上手くて、俺のやる気が向上し易い方法を取ってくれたので勉強しやすかったってのはあるな。

「おいおい。何だよ、そのやる気がないアピール」

「当然ですよ。何回、話が脱線したと思ってるんですか」

 うぐっ、そう言われると結構キツイんですけど……。たしかに何回も話を脱線させてしまったよ。本当なら授業内容を圧縮して、一時間で締めくくり、全力ダッシュすれば間に合うという予定だった。だが、俺が質問しまくって、彩葉がすべての質問に答えていると、時間が足りなくなってゲームオーバーってわけだ。

「はぁ……、仕方ない。今回は初回ということで質問はやめておいてやる。さっさと座れ、柊、こいつらより遅れてるんだから真面目に聞けよ」

「はい、ちゃんと聞くことにします」

 質問されることを逃れることが出来たので良しとしよう。結果オーライというやつだ。ホッ、と肩を撫で下ろしつつ、俺達は自分の席へと戻っていく。

「何かあったら有紗に聞け。授業を持っていないから、時間は空いてるはずだ」

 ――何か質問があったら有紗先生に聞け。っと、ここにいない人の名前を勝手に出してもいいのか?

 夫でもあるこの人が言うのだから、きちんと合わせてるんだろうな。

 あるいは夫婦であるがうえに思考回路が一致しているのかな。だからこそ、信頼関係ってのがあるのだろうね。

「了解です」

「で、授業をしようと思ったんだが……。とあるやつが殺気を振り回してるせいで出来なさそうだな」

 とあるやつってのが凄く気になったため、気配を察知しようとしていたのだが、そんなことをする必要こともなくわかってしまった。

 そいつが放っている殺気がとてつもなく大きかったのと、クラス中の視線が一人に集まっていたからだ。

 みんなが見ている視線を辿って先を見てみると、黒髪長髪でその長い髪をポニーテールにしている男がいた。

(あははは、何か嫌な予感が……)

「お前は何で、そんな殺気を振り回して――」

「柊隼人!! お前は何故、姉さんの名前を親しそうに呼んでいるんだ!」

 玲也先生の問いに応答することなく、大声で俺に噛み付いてくる。

 ――ああ、やっぱりそういうことだったのか。

 予想はしていたんだけどさ、それって先生の言葉を遮ってまで言わないといけないことなのか?

「そりゃあ、な?」

「ねぇ、私が呼んでいいよって言ったんだし」

「え、何で」

「そりゃあ私に勝ったんだし」

「おい、自爆してるぞ」

 何故か自信満々に答える彩葉だが、この状況でそれはしてはいけないことだ。

 せっかく嘘まで用意して教室に入ってきたのに、すぐに嘘だとバレてしまった。

「あっ……」

 それも本人のうっかりによって、な。

 優等生にはうっかりスキルってのが、地でついているものなのか?

(ほら、見てよ。先生の表情が一変したよ)

「水城、さっきの言葉は本当か?」

「え、あ、隼人君が私に勝ったという話ですよね?」

「ああ」

「ええ、隼人君は、私に勝ちましたよ。 私、お得意の≪落水(らくすい)≫も破られましたし」

 落水――雰囲気的に落ちる水と書いてだろうから、あの見えない魔力によって増幅された攻撃で相手の神経をイカれさせる強烈な衝撃のことか。そこに重力が関われば関わるほど、威力が倍増するから落水ってわけなのかな。

 何はともあれ、彩葉がお得意って言っていた理由がわかった気がするよ。リアルに腕の骨が折れるかと思った。

「……授業は中止だ。 全員、訓練所に集まれ」

 ――突然の授業中止宣言。

 驚いたのは俺だけでなく、クラスメイト全員も驚いていた。教師がそんなことを言ってもいいのか。という観点でだけどな。

 教師という存在は総じて、生徒を正しく指導するものだと思っていたからな。

 その考えを完全に吹っ飛ばされた気分だ。

 教師が進んで授業を中止させるとか、本当にやっていいことなのかと思った。ただ、めんどくさい授業がなくなってラッキーと思う俺がいたのも確かだ。

「急遽、水城悠里対柊隼人の試合をすることにする」

 前言撤回――。

 全然、ラッキーなんかじゃない。アンラッキーすぎるぜ。


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