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第2話 欠陥魔術士


「それにしてもアレですね。本当にこの学院は大きいですね」

 まだ学院の表面に当たる部分だけしか見てないだろうが、そのちょっとの間で感じ思ったことを言う。

 今、現在、有紗先生による学院案内が開始されている。

 あれから三十分ぐらいは余裕で経っているのだけど、俺は一歩たりとも教室に足を踏み入れていない。有紗先生が言うには、担当の教師に話の内容はまるっきり委ねられているHRの時間にはまだなってなくって、他の普通教科の先生の授業なので、今いっても無駄らしい。

 それが原因で、俺は学院内の案内を受けているってわけだ。いや、どちらかと言えば学院内というより学院敷地内と言ったほうが適切かも知れない。

 ついさっき三十分ほど経ったと言っていたが、まだまだ学院内には入っていないからだ。ただ校門から学院に向かうまでの道程だけでかなり距離が開いているからだ。その間に建てられていた建物の紹介を流れ作業のように受けた。

 有紗先生の説明はとても詳しく、役に立ちそうな話ばっかりをしてくれているので助かるのは間違いないのだが……。その代償として物凄く長い説明となってしまった。

 それを聞き続けている俺は、今の段階でもすでに疲れが溜まりまくって死にかけていた。

「学院長の指示や莫大な財産のおかげで、ここまで大きな建物になったらしいですよ」

 だいぶ前から所属しているのであろう担当の先生によって受けさせられた案内を得て、感じたことがあった。

(この学院、何なのさ。……なんで、学院の敷地内にバラ園やら、衣服店とかゲームセンターがあるんだよ。あ、あとデパートもあるのか)

 説明を受けてきたはずの建物の名称ばかりをあげてしまって申し訳ない気分だが、知っている建物が説明を受けてきた建物だけなので許してほしい。

 デパートについてはまだ説明はされていない。が、デパートまで距離があるにも関わらず、存在感を強調しているような大きさだから仕方ない。

 話を戻すが、一歩譲ってバラ園はありだとしよう。

 ずっと授業じゃあ気が抜けないからこういう心安らぐ施設はあったほうがいいし、それに学院に花があったほうが見栄えが良くなるという点でも意味はある。

 ――でもさ、衣服店やゲームセンターはどうなんだ?

 そりゃあ服を見るのが嫌いなわけでもないよ。好きかって聞かれると好きだとは答えられないけども、嫌いではないと思う。

 あんまりこういう見た目を彩るモノとかに興味を示さなかったからな。これから変わっていけるといいけども。

 そしてゲーセンで遊ぶのが嫌いでもない。

 だいぶ昔の話になってしまうけども、ある程度、両親から自由を貰っていたときには近所のお兄さんと一緒にゲーセンに行ったこともあるからな。そのときにドハマリしてずっとやっていたゲームがあったのも覚えている。

 だからといって、敷地内にこれらのものを作る必要はないと思う。

(……って、そうだった。ここは基本的に外出禁止の校則が厳しい学校というか学院だったな。それなら、こういう公共施設があってもおかしくないか。あんなデカイデパートがあることには正直、驚きだけど)

「こんな感じに、この学院敷地内には色々とあるわけです」

「は、はぁ……」

「基本は外出が出来なくなるので、敷地内に色々と作る必要があったのです」

 それについては予想出来たけどもさ、こんな大型建築物を作る必要があるのかという話だ。ここまで大きくなくても、生活用品を変えるスペースとかあればそれだけでいいんじゃないのか。と思うのは俺だけなのかな。

 表情や態度といった他人から見える部分には出していないつもりだが、実は内心グッタリしていたりする。

 それもこれも敷地内の案内だけでツッコミどころがかなり存在しており、その全部にツッコミを入れていて体力をほぼ全部使い切ってしまい疲れてしまっているのだ。

 こういう建物が他にあるかどうかわからないけども、それらの建物を名付けるとするならば、敷地内も込みで――学院都市と名付けるとなんとなくしっくりとくるだろう。

 学園都市という言葉をご存知だろうか?

 学校等の教育機関や研究機関の集中する都市のこと、または伝統的に大学等を中心に発展させてきた都市のことを指す。それの学院内版だと思ってくれると助かる。

 もっとも学院都市という名前はたった今、俺が勝手に名付けただけであって、そんな名称の都市があるわけがない。

 まぁ、この名称の意味はなんとなく察することが簡単だろうが、学院内に都市のようなモノが作られている。だからこそ、俺は学院都市と名付けたのだ。

 その学院都市(仮)には、大型の建物とか若者向けのアミューズメントパークもあったりして、極めて学生向けの都市という感じだ。

 ちなみに今は学院の敷地内の案内を終え、自分達はこれから通うことになる学院内の案内になっていた。本当はもう少し敷地内の案内が長引くはずだったが、そろそろHRの時間になるので向かうというわけなんだけど。

(この疲れに疲れまくって体調が不安定な状態の俺が、これから一緒になるクラスメイト達に対して笑顔で自己紹介を出来るだろうか?)

 自己紹介っていうのは笑顔でするべきだ。

 笑顔で紹介をしたほうがその人個人に対しての印象も良くなるし、明るくて気さくなやつなんだなと理解してもらえるし。そしてなにより、笑顔を浮かべる人には気楽に話しかけにいけるだろ。

 そんな感じにきちんと俺は考えて行動しようとしているのだ。

「さてと、そろそろ授業も終わるでしょうし。教室へ向かいますか?」

「お願いします」

 有紗先生による救いの手に即座に乗っかってしまう俺であった。それは先生の言葉を聞いて行動に移すまで時間を聞いてもらえれば、俺がどんだけ案内に恐怖心を持っているのかわかるだろう。

 さっきの一瞬だけ物凄く頭の回転が速かったような気がする。

 先生に言われた質問を頭に送って、すぐに答えをだす。むしろ有紗先生の言葉は脳に行くまでもなく、脳へ行くまでのルートにある脊髄によって判断されたのかも知れない。

 この後に控えている自己紹介を何とか笑顔で振り切ることが出来れば、それからはかなり楽なスケジュールになっているはずなんだ。転入一日目からハードってことはないだろう。合ったとしても転入してきたばかりなので、やめてくれると助かるな。

「あらら、そんなに必死になるほどこれからの友達と会いたいわけね」

 そんな大層な理由なんかじゃないんだよな。ただ単に脳の許容地を越えさせたくないだけの話。案内してもらってなんだけど、有紗先生の説明が詳し過ぎてすべてを理解することが出来ないのだ。尚且つ、この学院がかなり大きすぎるってのもあるしな。

「わかったわ。そんなに真剣に言うのだったらついてきて」

 その言葉に答えることなく、黙って有紗先生についていく。

 これから所属することになる教室までの道程――ついさっき、有紗先生の口から放たれた“これからの友達”という言葉を思いだし、思わず顔を顰めてしまった。

(なぁ、有紗先生。友達なんてものは出来るわけないよ。だって俺は……)

 魔術士の欠陥品と言われている『欠陥魔術士(ディヴァルチェ)』なんだから。



 欠陥魔術士――魔術士の出来損ない。立派な魔術士とやらになれなかった偽りの術士だ。

 そして魔術士と欠陥魔術士の決定的な違い……。

 この二つの明確な違いなんていうものはこの世界に存在していない。魔術士に欠陥魔術士、どちらもきちんとした人間だし、どちらにも命や心といった大事なものが詰め込まれている。

 魔術士と欠陥魔術士の違いなんて、存在していないはずなのだ。というよりも、その頃にはまだ、欠陥魔術士という類の人間はいなかった。

 生まれながらにして魔力を持っている人は全員、魔術士だった。

 その頃の世界がとても落ち着いていたし、変な争い事もなかっただろう。少なくとも数十年まではそういう感じに平和的に生きていたらしい。

 ――それ以降、世界の理や常識も根本的なところから変貌してしまった。

 ある日をキッカケにとある魔術士達が魔術器をまったく使用出来なくなってしまい、魔術が一切使用出来なくなったのだ。

 魔術士にとって魔術器は、一番大切なモノだと言っても過言ではない。

 何故かと言うと、魔力を蓄積させることの出来る器に注入しないと魔術が発動しないのだ。魔力を器の中に溜め込み、そして一気にそれを放出させる。……それが魔術の真理だ。

 その魔術器が使えなくなった。つまり魔術を使用することが出来ない。

 魔術が使えないのなら、そいつらは魔術士と名乗る資格がない。

 それが知れ渡った瞬間から、俺は欠陥魔術士という呼び方をされ始めた。


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