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プロローグ

以前、新人賞に投稿した作品です。

このまま腐らせておくのも何だと思ったので、投稿する事にします。

物語が一段落するまでの内容は書き終えていますので、この作品は毎日更新で送りますので、よろしくお願いします。


 “あなたは魔術を信じますか?”

 この質問に冷静に答えるなら……信じない。とそう即答できるだろう。

 魔術なんて非現実的なモノが存在していると、世界の常識ってやつが崩れ去っていってしまう。この世界に常識ってやつが存在するのか否か、それすらがあやふやな問題であるけどな。

 ――魔術なんてモノは存在しない。

 数十年前まではこの世界に住んでいる誰もがそう信じていた。

 そう、信じていたんだよ。

 戦闘を引き起こすような火種が存在することすら自体、絶対にないと思っていた。

「あ、そういや、どうやって魔術を見つけたんだっけ?」

 いかにもな高級感が漂い溢れている車の中で、根本的部分に疑問を持った。俺こと『柊隼人(ひいらぎ はやと)』だ。

「それはあれですよ、隼人様。頭の中が異次元と言われていた研究員がたまたま『魔術器ヴェルジュ』を開発出来たっていうのが、始まりだったはずです」

 魔術器――それは数十年前に生産されてきた代物。今でさえ量産されている魔術を使用するための器であったが、魔術器開発が成功したのは偶然の産物だ。

 その偶然の産物を量産し始めたのにも理由があった。

 世界を壊すためにやってきたとされている『魔物』。こいつら対策に魔術器を大量生産していたわけなのだが……。

 今思うに、こいつらがこの世界に突然と現れだしてから、世界は遥かに変わり果ててしまった。この国が目指す方向性ってやつもちぐはぐになり、国は魔術器一色に染まっていった。

 ちなみに魔物とは、この世界に現れた化け物の総称。

 ただ魔物と一括りに言っても、色んな種類のやつがいる。魔物のランクはS・A・B・C・Dと五つのランクに分かれており、種族も魔物によって一貫していない。

「ただ聞いてみただけで、あんまり興味はないんだけどな。この学院に来ることになったのも“あいつら”のせいなんだし」

「隼人様……」

 俺が心から嫌っているやつらと、そいつらや俺をバカにしてきたやつらによって与えられてきた迫害のほんの一部分を思い出してしまい顔を顰める。ほんの一部分の迫害と言っても、俺の中ではかなり大きいモノだ。

 中にはもっと大きな事件に繋がった迫害もあった。俺をバカにしてたやつらに対して勝手にキレて激怒して、俺が大きな事件に繋げてしまったんだ。

 幸せとは程遠いような微妙な表情になって外の景色をぼうっとした様子で見ている俺を心配してくれているのだろう、彼女はまるで自分に起こっているように悲しそうな声音で俺の名前を呟いていた。

「……ありがとな。朱音さん」

「はい? 何か言いましたか」

「いや、何でもないよ」

 どうせ聞こえないフリをしてくれているんだろ。

(まったく……。本当に彼女には助けられてばかりだな)

 彼女の名は『(みなと) 朱音(あかね)』といい、黒髪ロングで切れ長の瞳が特徴の女性だ。職場では皆のお姉さんって立場で、幼少のころから今までずっと一緒にいてくれて、人生にくじけそうになったとき、何度もお世話になった人だ。

 小さいときから人生にくじけそうになるなんてどんな家庭状況だったんだよ。と自嘲しながら思う。

「それにしても一流の『魔術士(ヴァルチェ)』を育てる魔術専門学院ね」

 自分の隣に無造作に置かれているパンフレットの表紙が偶然、視界に留まり、そこに書かれていた学校名を声に出す。

 トップページには『あなたの才能を開花させます』というキャッチコピーと学院の全体写真があった。

(あなたの才能を開花させますって、とても怪しい目的で出来ている宗教のキャッチコピーみたいだな)

 これから行く学院に対して一抹の不安を抱える俺であった。

 その証拠として自分の顔が引き攣っているという現在の様子が俺自身にもわかってしまう。

「あ、隼人様。お隣にパンフレットを置かせていただいたのですが、ご覧になっていただけてますか?」

「うん? 一応、見てるよ」

「それを聞いて安心しました。最後までしっかりと読み上げてくださいね」

「はいはい」

 パンフレットの中身が心からどうでもいいかのような生返事を返しつつ、朱音さんの忠告通りにきちんとパンフレットの隅から隅まで目を通すことにする。

(へぇ、実戦込みで三年間のカリキュラムか。中々本格的じゃねぇの)

 手当たり次第に気になった部分の言葉を適当に拾い上げていた。ページ数が多いパンフレットの中身だったのだが、特に目についたのはその部分だけだった。

 他には魔術を使用する上で必要なことだとか事前に理解しておくべきだの、魔術士はこうあるべきだ。こういう存在でなければならない。みたいな俺にとってくだらないとしか思えないことしか書いていなかった。

 まぁ、その辺りの情報はどうでもいいんだけどさ。

 三年間というカリキュラムはどこの高校でも揃って同じだけど、実戦込みなのか……。

 さすが国が建てた魔術学院は違いますってか、公立や私立の魔術学校では実践がないからな。

 これが国立魔術専門学院の力ってやつなのかな。

 分厚いパンフレットを真剣かつ真面目に見ていたからだろうか、欠伸が出てきてしまった。

(……やばい、文字を長い間見ていたからかな。かなり眠くなってきた)

 それに車を動かしている際に生じる適度な揺れが揺りかごのように思えて、それが更に俺を眠りに誘ってくる。

 学院に行くために家を出たとき、普通に聞いていたら問題が無さそうな日常の一コマのはずがその学院に行く準備の段階で一悶着があったため、心身共に疲れてしまっていた。

 一応、パンフレットの内容は一通り目に入れたからこのまま寝てしまっても問題はないだろう。要らないと思っていた魔術についても一通り、頭の中に叩き込んだ。詳しく説明しろって言われたら無理かも知んないけども、簡単でザックリとした回答なら返せる。

 ――そんなランクまで覚えたら、別に寝ても大丈夫だろう。というか、なんで俺は言い訳ばっかり考えているんだろうな。

 朱音さんに向かってする言い訳ってことになるのだろうが、何故、こんなことを考えているのか意味がわからない。自分の体調を一番に考えて行動した結果だ。怒られる必要すらないってのにな。

 とりあえず、俺は寝よ…う……。



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