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見ることのない夢
幸せな夢
笑い声が聞こえた。それにつられて階下に降りる。
居間のドアを開けようとしたら、内側から妹が出てきた。
「おにーちゃん、おそよう!」
淡く明るい居間にはテレビがついて、適当な会話と笑いを誘ってはそれにのって母も笑っていた。
「ん? ん? おにーちゃん、もうお昼だよー。勉強大変だね」
きゃあきゃあと小さく跳ねながら定位置とでも言うようにデレビの方へと戻っていく。
夢を見ていた。
「おとーさん! 今日ねーなんの日だか覚えてる?」
続けざまに後ろから声が聞こえた。
「祐。そんなにはしゃがないの、お父さん困ってるじゃない」
笑いながら妻が幼かった息子を抱き寄せていた。
あぁ、そうか…
幸せだった時に挟まれて私は呟いた。
「これは、夢か」
そこで目が覚めた。
まだ朝日も昇っていない時間に、老人らしく目が覚める。
しわがれた喉で億劫ながらも息をつき、一人では十分すぎるほどの広さの部屋に明かりをつけた。
使っていない部屋の方が多い家の中で、老人は独り呟く。
声は、空に反響して静寂だけがそこに浮き上がっていた。