逃げてた夢
主人公ではなく少し脇役に惹かれていた子供の夢。
走っていた。重い空気に足を取られながら逃げていた。
ただひたすらに走っているにもかかわらず全く進まない。
ほんの少しだけの斜面に足を取られて、背後に迫る気配に心臓を締め付けられる。
ただ気持ちだけが焦り、浮足立つ。
頭の中は逃げることに精いっぱいで、進まない景色に焦れていた。
ざわざわと揺れる木の葉で追われていることを思い出す。存在も何もないそのものに恐怖して息をのんだと同時に後ろから髪を鷲掴みにされた。
恐さが頭の中いっぱいに広がり、視界が裏返って地面に落ちた。
淡い日の光が影を生んで顔を隠していて、見えない。そして何をしたではないにもかかわらず、予感が先行して目をつぶる。
何か悪いことをした覚えがない。それなのにと、不条理を心の中で唱えたが、そんな事を唱え続けられる程、余裕はなかった。
目を見開いて涙も出ない。押し殺した自分の息が男の人の大きな手で覆われて、消えた。
閉じればいいものを、顔がこわばっているのかそれができない。そして、できないままじりじりと視界が暗くなっていく。
そして、光が見えた。いきなりでつい目を伏せる。
びくりと震えた視界で何かが横切り恐怖が消えた。
開けた視界に入ってきたのは戦隊モノのヒーロー。色はグリーン。
「うわぁ……!!」
「大丈夫かい? みっちゃん!」
その言葉にこくこくと頷いた。
マスクで顔は見えないが、目を合わせるように彼はしゃがんで背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
主人公ではなくそのライバルでもないのに、ただひたすらにがんばっている彼が大好きでした。
緑のヒーローに手を差し伸べられて、怖かった夢が素敵な夢にかわり、私は朝を迎えた頃にはすべて忘れていた。