バイバイの夢
久しぶりに帰った田舎の空気に酔った夢。
電車のゆりかごのような振動につられて、わたしは夢を見た。
駅のホームに設置されたベンチに座り、右へ左へと行き来する電車を私はただ眺めていた。
隣を見るといつの間にかおじいちゃんが座っていた。
「電車が来んなぁ」
しわがれた声が懐かしい。真夏の白い駅のホームにはわたしとおじいちゃんしかいなかった。壊れたスピーカーがせわしなく蝉の声を流しているかのようにあたりは蝉の声しか聞こえない。
残像に寄り添うようにして、目を閉じる。いつの間にか蝉の声は子守唄に変わっていた。
懐かしくてずっと寄り添っていたかったけれど、それは出来ない。
ガタン、と貨物電車が停まることなく駅のホームを通り過ぎて前髪を揺らしたので目を開けた。
一瞬ひんやりとした風が足もとを通り過ぎて、いつの間にホームに停車していた電車が音もなくドアを開けた。
流石に、もう一人だったね。
ぽかんと開いた隣の席は確認するまでもなく誰もいない。幼かった頃よく祖父の家に遊びに行っていたはずなのに、最期の日に限って行けなかったことに後悔でもあるか。そして、今日も。
電車が行ってしまっては元も子もないので、重い腰を上げて単身電車に乗り込む。
薄い音がなって電車のドアが閉まった。
座席に座ることもなく閉まったドアに寄りかかる。
横目に流れる田舎の景色を見て、そう言えばここはわたしの田舎だったと思い出した。
「バイバイ」
「ばいばい」
どこにともなく言ったのだが祖父と父の声で返事が返ってきた。
ガタンと電車の振動で目が覚めた。
雪国とうたわれた田舎は一面銀世界と言うにふさわしい景色でわたしを迎え入れた。
「……」
寝ぼけた頭で外を見ていると、寝入る前に口に放り込んでいたアメの甘ったるい味が口全体によみがえってきた。チョコ味だ。
「帰って来た」
学生時代登校に使っていた路線からは見慣れた景色が通り過ぎていく。
今日からまたここで暮らすのかと思ったが、所詮怪我が治る数カ月の間だと考え直した。
若いころは田舎臭くて耐えられなかったが、今は少し懐かしい。
横目に、わたしが生まれた所だと母から聞かされた産婦人科の立て立て看板が通り過ぎて行った。
その後も、次々と見知った景色が流れて、都市開発されたと聞いていたのだが、それはやはりこの田舎までは及んでいなかったようだ。
徐々に懐かしさに染まって行くその景色はまるで走馬灯のようだと私は思った。