毎夏に一度は見る夢の中
ある少年の夢
ざわざわと体の中で蟲が蠢いている感覚。
喉を掻くもぼろりと爪がはげるだけでその違和感は拭えない。しかし、
「夢だ」
夢のなかで僕は一人ごちる。今日は何がきっかけでこんな夢を見ているのだろう。夢の中では現実の記憶が曖昧になるので意識は夢の中に落ちて他の場所に向いた。
網戸には羽虫が集っていた。窓の冊子には羽虫の死骸が多く落ちている。網戸に集る羽虫はざわりざわりと蠢き次々と冊子へ落ちていく。
そんな光景を目にするだけの夢。
睡眠中の脳が景色を反転させる。土の匂いに浸るような湿地帯。中学の時に肝試しに行った墓場。そんな場所に一人、名前も分からない人の墓の前に彼女が蹲っていた。
「小百合?」
「ん?」
淡い夢特有の雑音の中で彼女の声だけがはっきりと聞こえた。
「約束。海行こうって言ってたじゃん? もう無理だよね?」
「もう暗いし?」
「お盆だしね。河童から、なんだっけ? おぼれさせられちゃうね」
「……」
ミンミンと蝉が鳴いて僕は目を閉じる。
あぁ。
嗚咽に似たため息が漏れた。
笑い声が聞こえる。何が楽しいのだろう。ちくたくと時計の音がする。もうすぐ朝なのだろうか、夢の中の耳鳴りが、よりいっそう朝に近づく。
「ねぇ」
朝の音に混じり、小百合の声が溺れる。
「――――」
六時半の目ざましの音で目が覚めて、小百合が何を言ったのか分からなかった。
夢の中で見る小百合はいつも優しい。年に一度しかいかない親戚の家。一度のけんかでもう何年も口を利いていないのに。
朝焼けの中に昔破った約束を思い出して、泣けてきた。