8話 きっと、いつか
私は、相葉の一言で隠し切れない程に、動揺していた。
理由も、分からないまま。
そうしていると、未優が口を開いた。
「・・・いい。相葉に、ほかに好きな人が居たっていいよ。だから、お願い。
あたしのことも・・・見て・・・。」
そう言い終えた未優は微笑んでいた。
だけど、私はその顔につたっていた、一筋の泪を、この遠距離からでも見逃しはしなかった。
その表情から、声から、未優の「本気」が伝わってくる。
そんな彼女を見ていたら、何だか、とても切なくなってしまった。
こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだ。
切ないって言うのは、こういうことだったのか。
でも、何故私は切ないのか、それはやはり分からなかった。
相葉が何かを喋ろうとした、その時。
強い風が吹き、屋上の扉が閉まってしまった。私は扉を開けようとドアノブに手を伸ばしたが、そうしてしまったら、会話を盗み聞きしていたことが相葉にばれてしまう。
私は仕方なくその場を去ることにした。
重い足を動かし、体を階段の方へ向けた。
キィィ・・・
扉の開く音がした。
私は慌てて会談を駆け下りた。
その時にちらりと視線を向けると、下を向いている未優が見えた。
多分相葉には姿を見られていないだろう。
安心して、そのまま一気に昇降口のある一階へと向かった。
疲れを知らない私は何食わぬ顔で、1分後に来た相葉に手を振った。
相葉の隣には、未優はもう居なかった。
未優は、大丈夫だろうか。
不安になった。しかしその気持ちよりも、相葉の好きな人の方が気になって仕様がなかった。
だからといって、こちらから訊くことはできない。
でも、私は相葉だったら、きっといつか言ってくれる、そんな気がした。