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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言3~我が侭お嬢様のお気に入り~
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第76章:恋人の証

【SIDE:七森春日】


 なくしてから大切なものだと気づく事ってよくある。

 それは人でも同じ事で。

 僕は桜華を失うかもしれないという危機感で、初めて彼女が自分にとって大切な存在だったことに気づいた。

 苦手で怖い義妹。

 だけど、可愛くて誰にも渡しなくない女の子。

 

「……僕は桜華をひとりの女の子として見ていたんだ」

 

 桜華をベッドに押し倒すような格好で僕は囁く。

 彼女は驚いた顔をしたまま身動きせずに唖然としている。

 

「はっ……い、今さら、何を……」

 

「僕は桜華に妹を望んでいてた。それは否定できないけど、今は違うよ。僕は桜華には妹ではなく女の子であって欲しい」

 

「散々、人を妹扱いしておいて言えるセリフ?」

 

「桜華が怒るのも当然だと思う。責められても仕方ない。それでも、今の僕の本当の気持ちなんだ。桜華に嫌われて、拒絶されて初めて気づいた事がある。僕は桜華の事が嫌いじゃなかった。好きだったんだって」

 

 こちらを見つめる桜華の瞳。

 それはどう対応していいのか分からないと言った風に見えた。

 

「……今さらそんな都合のいい言葉を信じられるわけがないでしょう」

 

「信じて欲しい。どうすれば信じてもらえる?」

 

「私はずっと春ちゃんに振り向いて欲しくて行動してきた。それを全て否定してきたのは春ちゃんじゃない。好きだって言ったのに、妹扱いしかしてこなかったのも……。それが手のひら返したように言われたって信じられない」

 

 彼女の身体が震えている。

 僕はどうすればいいのだろうか。

 そっと掴んでいた手を離して僕は桜華から距離を取る。

 

「そうだね。今さら僕が好きだとか言っても意味はないんだ」

 

「え?あ、えっと、それは言って欲しいけど」

 

「……どうすれば信じてもらえるのかな。困ったな、傷つけ続けてきたから怒られるのは当然だけど……どうしようかな」

 

「おーい、春ちゃん?あのぅ、好きって言ってくれないから拗ねてるだけで別に春ちゃんの事を拒絶してるわけじゃ……」

 

 僕が困り果てていると、いきなり桜華が切れた。

 

「――くぉらっ、春ちゃん!!人の話を聞きなさいっ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

「せっかくこっちに振り向いたと思ったら、勝手にひとりで話を進めないでっ!!私の話を聞きなさいっ。暴走禁止、いい?」

 

「う、うん……」

 

 桜華の勢いに頷いてしまう僕。

 いつもの強気な桜華がそこにはいた。

 

「ったく、春ちゃんらしいけどさ。少し、我慢しなしさいよ?」

 

 そして、一呼吸した彼女は僕の頬をパチンっと叩く。

 ジーンと響く強い衝撃に僕は何も言えない。

 

「……痛い?」

 

「い、痛いに決まってるじゃないか」

 

「それなら、それでいいわ。これまでの私に対する振る舞いはそれで済ませてあげる」

 

「それって……僕を許してくれると言う事?」

 

 僕は叩かれた頬を押さえながら桜華に尋ねる。

 本気で叩かれたのでジンジンと頬が痛む。

 これが桜華の痛みだってことかな。

 

「あのね、春ちゃん。私は大事な事をまだちゃんと聞いてないの。だから、怒ってるわけ。この場面で、何を言って欲しいのか分かるわよね?それが分からないのならもう一発行くわよ?」

 

「ごめんなさい……?」

 

「違う~っ!!謝罪はもういらない、私が言って欲しいのは……」

 

 桜華は瞳に涙をため込んでいた。

 強気に振る舞っていただけで、内心は先ほどの弱々しい桜華と変わっていない。

 情けないな、僕は……。

 桜華がこれだけ頑張ってくれているのに、何をやってるんだろう。

 僕は桜華をそっと抱きしめながら言う。

 

「桜華。僕は桜華が好きなんだ……女の子として大好きなんだよ」

 

「……そうだよ。私はずっとその言葉だけが欲しかったの」

 

 桜華は僕を抱きしめ返しながら涙の粒を瞳からこぼす。

 

「バカ、春ちゃんのバカっ……ひっく……」

 

「ごめんね、桜華。待たせちゃって……」

 

「遅すぎるんだよ……うっ……でも、嬉しいから許す」

 

 小さな肩を震わせながら桜華は泣いていた。

 僕は子供をあやすように彼女の頭を撫で続ける。

 優しく、その髪を撫でていると桜華は泣きやんでいく。

 僕はもう好きな女の子を泣かせないと心に決めた。

 

「……これで正真正銘、私達は恋人になれたわけよね」

 

「そういうことになるかな」

 

「私だけしか女の子として見ないと言う事よね?春ちゃん、意外に女にモテるから」

 

「それはどうかと……ひっ、は、はい、そうだと思います」

 

 桜華がめちゃくちゃ怖いくらいに睨んできたので発言を訂正する。

 マジで怖いよ、桜華……。

 

「まぁ、春ちゃんに浮気するような甲斐性も勇気もないと思うけど、先に言っておくわ」

 

 桜華は爽やかな笑顔を浮かべて僕に言うんだ。

 

「――もしも、浮気したらぶち殺すからね」

 

 ヤンデレさん、怖いです。

 まさに命がけの恋ってやつですか。

 

「と言うのはちょっとだけ冗談で。殺しはしないけど、2度と私以外の女性を見れなくらいに“女性恐怖症”にしてあげる」

 

 それはそれで怖い~っ!?

 どちらにしても僕は浮気なんてするつもりはないんだけど。

 もしもしてしまったら人生終わりだと言う事は心にしっかり刻んでおこう。

 

「……心配しなくても私は束縛はしないから、嫉妬はするかもしれないけど。下手に規制させても、鬱陶しいでしょう。春ちゃんの場合はある程度は信頼できるもん」

 

「あのぅ、逆の場合はどうすれば?」

 

「誘惑攻撃くらい自分で対処してよね。私の恋人であるという自覚を持って行動するのが当然でしょう?それともまだ自覚はない?何なら、自覚を持たせてあげましょうか?力づくで……」

 

 僕は慌てて首を横に振って否定する。

 この交際関係、既に上下関係は築かれてしまってるようだ。

 

「春ちゃん、これだけは約束して欲しいの」

 

「何を約束すればいい?」

 

「私さ、今回の事で自分が結構さびしがり屋って気づいたの。春ちゃんがいないとダメだって……。私を寂しくさせないで。それだけはお願い……絶対に約束してね?」

 

「うん。僕なり頑張るよ」

 

 桜華は嬉しそうに「頑張って」と笑う。

 喧嘩していた時に僕も桜華の抱える弱さに気づけた。

 この子は強いように見えて弱い子でもあるんだって。

 僕が守ってあげたい。

 そう思える相手だったんだ……。

 

「それじゃ、今日は一緒に寝ようか?いいよね、春ちゃん?」

 

 甘えるような声で言う桜華に僕は頷く。

 長い長い時間をかけて僕らはようやく恋人関係になれたんだ。

 

 

 

 

 翌朝、少しだけいつもより早く目覚めた僕はまだ眠っている桜華を置いて部屋を出る。

 昨日はふたりともすぐに寝ちゃったんだけど、久々によく眠れた。

 それはきっと桜華が僕を許してくれたことと傍にいる安心感があったからだろう。

 洗顔を終えて、リビングに出るとキッチンでは母さんが朝ご飯を作っている。

 

「あら、春日。今日は早いのね。何か用事でもあるの?園芸部かしら?」

 

「ううん。そう言う事じゃなくて……その、母さんに言っておきたいことがあるんだ」

 

「私に話?何かしら?」

 

 味噌汁用のネギを包丁で切る手を止めてこちらを見る母さん。

 僕は言わなきゃいけない、僕と桜華の関係について。

 桜華に伝えるよりも勇気を出して僕は言う。

 

「……昨日、桜華に告白したんだ。僕は桜華が好きだって」

 

「そう……。それで桜華は何て答えたの?」

 

「僕を好きだって言ってくれた。僕らは恋人になったんだ」

 

 僕と桜華は義理の兄妹。

 通常で言えば結婚は出来る関係だけど、世間体としてはあまり望ましくない関係だ。

 僕は母さんの反応を待っていると、吹き出すように彼女は笑った。

 

「あははっ、真面目な顔をして言うから何事だと思ったらそういうこと?そっか、桜華の恋もようやく実ったのねぇ……おめでとう、春日。この場合は桜華の方がおめでとうなのかしら?」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 あれ、何だか普通に認められている?

 

「……桜華が春日の事を大好きなのは分かりきっていたけど、春日は桜華が苦手っぽかったから心配していたのよ。桜華の恋は実るのかなって……春日が受け止めてくれてよかったわ」

 

「え?あ、あの、それでいいの?」

 

 普通は何か親として言う事があるのでは?

 母さんは唖然とする僕に「何か言って欲しい?」と逆に言われてしまう。

 

「人生っていろいろとあるわけじゃない。前にも話したけど、私は好きな人と引き離されてしまった過去があるの。だから、子供の桜華には好きな人と恋愛して欲しいと思うから春日が望むのなら桜華を大事にしてあげてね」

 

「うん……」

 

「そうしてくれるのなら、私が母親として言う事はないわ。ふたりを信頼してるもの」

 

 母さんはそう言って僕を祝福すると、朝食の手伝いをしてと頼まれる。

 

「ありがとう、母さん」

 

 僕は礼を言って、朝食の手伝いを始めることにした。

 

「ところでふたりってもうキス以上の関係だったりするの?親として気になるわ」

 

 ……ご心配なさらずとも、そーいう事は一切してません。

 

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