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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言3~我が侭お嬢様のお気に入り~
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第75章:この想いに気づいて

【SIDE:七森桜華】


 子供の頃って世界は自分を中心に回っていると思っていた。

 何でもかんでも私のしたい事は全てしてきた。

 嫌がる春ちゃんを強引に女装させたり、キスしたり。

 その頃から私は彼の事が好きだったから意地悪していたんだ。

 

「嫌だよ、桜華ちゃんっ!?僕は嫌だ!」

 

「この私の言う事が聞けないの?春ちゃんのくせに生意気なのよ」

 

 好きだから意地悪してしまう。

 それは男の子に限った事じゃない。

 私も好きだから、かまって欲しくてよく彼に意地悪していた。

 嫌がる彼に自分のスカートをはかせる。

 見た目が女顔で小柄な春ちゃんはよく似合う。

 長めの髪に髪留めをしたら女の子と言っても誰ひとり疑わない可愛さ。

 

「や、やめてよ」

 

「可愛いからいいじゃない。ほら、動かないで」

 

 女装させて私の妹みたいに扱うのが好きだった。

 でも、その本当の理由は今になってようやく気づけた気がする。

 私は彼に“男”を感じたくなかったんだ。

 好きな相手がお兄ちゃんだったから意識したくなかったのかもしれない。

 女装させて、女みたいに扱えば自然にいられる自分がいた。

 あの頃は彼を“春ちゃん”と呼ぶのは女装させていた時だけだった。

 それ以外はお兄ちゃんとか、後には兄貴と呼んで区別していたもの。

 そうしていないと自分がおかしくなりそうで。

 好きすぎるこの気持ちに気づいて欲しくて。

 自分の気持ちの事で精一杯だった。

 だから、嫌がる春ちゃんの気持ちなんて考えた事もなかったんだ。

 彼が私を苦手にしている。

 その事に気づいたのもずいぶんと後になってからの事だ。

 嫌われているとは思わなかった。

 私のしてきたこと。

 愛情を一方的にぶつけてきたからこそ、彼が私を拒絶するのは当然。

 今の私には彼に好かれる要素が見当たらない。

 私はこんなにも春ちゃんの事が大好きなのに……。

 

 

 

 

 夜食を食べていた私は数日ぶりに彼と会話する。

 そして、春ちゃんから私と話がしたいと自室につれてきた。

 喧嘩して以来ずっと彼の事を避けてきた。

 

「……今さら私に何の話があるっていうのよ」

 

 春ちゃんの気持ちは分かってる。

 どうせ、私のことなんて妹でしかないことも。

 女の子として見て欲しいのに、見てくれない。

 悔しさと悲しさ、二つの辛さがずっと私を苦しめてきた。

 そりゃ、私も過去の行動については反省するべき点もあると思う。

 春ちゃんに強引に迫ったり、意地悪してきたし、女装させたり、困らせてきたのも多々あるけれど、それはすべて愛情だもの。

 嫌いな人間に悪戯するほど私は暇な人間じゃない。

 彼に「その辺に座って」と言われた」のでベッドの上に座りこむ。

 この部屋で話をする時ってあまりいい思い出がないんだけど。

 いつも私と春ちゃんの会話は平行線で、私は恋人にしてもらえなくて。

 私達は何度喧嘩してきたんだろう。

 

「それで話ってなによ?私は明日の準備もしなくちゃいけないから忙しいの」

 

「明日、男を紹介してもらうんだって?」

 

「いい機会でしょ。よかったわね、兄貴もこれで鬱陶しい妹から解放されるじゃない。私は彼氏を作って幸せになるの」

 

「……別に僕は桜華の事は鬱陶しいなんて思っていないよ」

 

 春ちゃんの言葉が信じられない。

 今は何も信じたりすることができない。

 私を拒絶した彼に、私はもうどんな言葉も信じないと決めたの。

 それは勇気のいる決断。

 春ちゃんは私の事を愛してくれないと言うのなら、愛するのをやめる。

 報われない恋を思い続けるのに限界があるの。

 私はいつまでも諦めずにいるほど、心に余裕もない。

 

「兄貴は……私の事を妹としてしか見ていないってよく分かってる。だから、もういいじゃない。お互いに価値観が違うんだもの。どうせ、私達は赤の他人で本当の兄妹でもない。兄妹ごっこを続けてる意味もないでしょ」

 

「それは他人になるってこと?」

 

「妹でも、恋人でもない。ただの他人になれば春ちゃんも満足なんじゃないの?」

 

 それは本心の言葉じゃない。

 何で自分からそんな事を言うの、と自嘲したくなる。

 私は半ば自棄になりかけていた。

 何もかも壊れてしまうなら、それでいいって。

 

「……桜華はそれでいいんだ?」

 

 私は春ちゃんの方を向けずにいる。

 視線は自分の膝を向け、俯きながら会話を続けた。

 今の私には彼と直視する自信がない。

 何度も自分の存在を否定されて、これ以上、また否定されたらきっと私はもう立ち直れないかもしれない。

 小さな頃から春ちゃんは私のお兄ちゃんだった。

 妹みたいな兄、我が侭放題の私に振り回されて、ずいぶん苦労してるはず。

 思い出してみればみるほど、私は自分がしてきたことが何ひとつ彼にとって幸せとかいい思い出になることなんてない。

 自業自得、そう言ってしまえばそれまで。

 人は自分のしてきた過去の行いを消すことはできない。

 私と春ちゃんが築き上げてきたもの。

 その関係は……一方的な服従関係でしかなくて、愛なんてなくて。

 

「話がそれだけならもういいでしょう」

 

「僕はそれだけなんて言ってないよ」

 

「まだ何かあるわけ?これ以上、何を話しても無駄じゃない」

 

「無駄だとは思わない。僕は……桜華に言わなくちゃいけないことがあるんだ」

 

 いつもは弱気のはずの春ちゃんの様子が変だ。

 私はゆっくりと彼へ視線をあげると、彼は真剣な表情をして言う。

 

「僕はずっと桜華の事が苦手だった。すぐに意地悪して、怒ると怖いし、女装させて恥ずかしい目に合わせるから」

 

「そんなの今さら言われなくても分かってるわ。改めて、私の事が嫌いだっていうならやめてよ。こうみえても、私は弱いの」

 

 きっと彼の口から「嫌い」だと言われてしまうと泣いてしまう。

 

「知ってるよ。桜華の弱さ。本当は弱い普通の女の子だ」

 

「何よ、それ……私の弱さを知ってる?兄貴のくせに私の何を知ってるの」

 

「……ホントだよね。何年、桜華と一緒にいたと思ってるんだろう。僕は気づいていなかったんだ。自分の気持ちにも桜華の気持ちにも。心のどこかで桜華の事を“妹”としてしかみないようにしていたのかもしれない」

 

 春ちゃんはそっと私の身体を抱きしめてくる。

 今の私達の関係考えればここは拒絶する場面だ。

 なのに、私はされるがままに身動きを取らない、ううん、取れずにいた。

 

「――だって、桜華はもうずっと前から僕にとっては“ひとりの女の子”だったんだ」

 

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