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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言3~我が侭お嬢様のお気に入り~
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第70章:桜華の涙《前編》

【SIDE:七森春日】


 僕は咲耶さんの紹介で一人のモデルさんと知り合いになっていた。

 白瀬ナミ、本名は白瀬奈津(しらせ なつ)さんと言う。

 一見すれば美少女に見える彼女……だが、実は男の子なのです。

 そう、彼女ではなく彼は女装モデルさんらしい。

 いわゆる、男の娘と呼ばれる、男が好きになりそうな男の子だ。

 可愛い男の子ってホントに女の子そのものにしか見えないね。

 とはいえ、今はまだ女装と言う事を隠しているそうだ。

 事務所の方針で女性モデルとして活躍する白瀬さん。

 同年代で咲耶さんは参考になるとか言う理由で紹介してくれたんだけど、僕が女装モデルとして働く気は一切ありません。

 えぇ、本当に、そんな趣味もないんで勘弁してください。

 そんな感じだけど、気さくな子ですぐに親しくなれた。

 

「あははっ、そうなんだ?春日って女装趣味があるわけじゃないの?」

 

「まぁ、無理やりさせられているだけだから」

 

「そっか、残念かな?同じ趣味だと思ってたから。あっ、ボクは別に男が好きとかじゃなくて、ちゃんと女性も大好きだからね」

 

 どこから見ても女の子、僕以上に女顔で女の子の仕草も身につけている。

 彼は見た目が小さい頃から女の子っぽくて、姉に良く女のモノの服を着せられていた影響が今に至るらしい。

 あれ、どこかで聞いたような話なのは気のせいだろうか。

 どこかの義妹に無理やり女装させられた男の子がいたような……僕自身の事でした、うぅ。

 僕も一歩間違えば彼のようになっていたのだろうか。

 そう思うと、ほっとしたような、なんだか複雑な気持ちになる。

 

「……ボクは女の子の服装をするとさ、自分らしくなれるんだ」

 

「僕は桜華に無理やりさせられているから、女装は趣味じゃない」

 

「でも、嫌いじゃないんでしょ?そうじゃなきゃ、あんなに可愛い感じになれないって」

 

 白瀬さんは普段着からスカートはいているみたい。

 人の趣味をどうこう言えないけど、変わってるよね。

 つい数ヵ月前まで春ちゃんモードで女装させられていた僕が言える台詞じゃないけど。

 そんなワケで彼とは男同士ということもあって仲良く関係を続けていた。

 僕は信頼できる男友達って少ないから話せる相手がいてくれると嬉しい。

 けれど、油断していたんだ。

 まさか桜華が僕の携帯電話を盗み見して、僕と白瀬さんの関係に気づくなんて。

 


  

 

 夜の自室で僕は処刑台に立たされている気分だ。

 そして、桜華と言う義妹が僕を処刑しようとしている。

 

「……これがどういう事か説明しなさい、はい、言い訳をしてみなさいよ」

 

 グリグリと携帯電話を僕の顔に押し付ける桜華。

 いきなり、寝ていた僕を起こした彼女はベッドの上に正座を命じた。

 始めは何事かと状況把握するのに数分かかり、僕はようやく事態を飲み込めた。

 

「白瀬ナミ?何で彼女と知り合いなの?私は紹介してないわ」

 

 桜華は白瀬さんが女の子だと勘違いしている。

 それが自分の知らないところで知り合いだったのが気に食わないらしい。

 さらに言えば、それを密会のような意味合いで取られているのがまずい。

 しかも、彼との約束で彼が男であることは誰にも言えない。

 それは桜華にしても、だ。

 つまり、僕には言い訳して逃れると言う選択肢すらないのだ。

 

「あのですね、それは深いワケがあるんですよ」

 

「ワケ?また会いましょうという文章にどんなワケがあるわけ?教えて欲しいわ、えぇ、どういう意味なのか。あぁ、文面通りにまた会おうねって、つまり、仲良くしてるって言いたいわけ?へぇ、そういうことなんだ?」

 

「ち、違うってば!?そんな蛇すら睨み殺す瞳で睨まないで!?」

 

 強烈な睨み、桜華がマジで怒り心頭。

 怖い、これは過去最大級の怒りだ。

 桜華が怖いのは小さい頃から体感しているけど、これほどの怒りは久々だ。

 ブチ切れた桜華に何をされるか分からないので、下手に動けない。

 

「……お兄ちゃん、私はね、今まで相当我慢してきたのよ。それなのに、ここ数ヶ月のお兄ちゃんの裏切り行為は目に余るものがあるわ。宗岡先輩、咲耶さん、そんでもって今度は白瀬ナミ?ずいぶん、親しい女の子が増えているわね」

 

「白雪さんとか咲耶さんとは違うんですけど……」

 

 それに彼は男の子であって、そういう対象ではない。

 僕には男趣味はまったくもってありませんから!?

 何ていう言い訳が通じる桜華ではないのだ。

 これは事情を離さなければ流血沙汰になりそうなバッドエンドが近付いている。

 

「お兄ちゃんがこんなにも女好きだとは思わなかったわ。女の子が苦手とか言って、周りには女の子だらけ。ずいぶんと生意気で、良いご身分じゃない?いつのまに、そんなラブコメの主人公みたいなご都合主義な御身分になってるわけ?私、そういう陳腐で愉快な展開を望んでないわ」

 

「あの、桜華。キミは勘違いしているんだ、そう、勘違いだよ」

 

「勘違い?あぁ、その子たちは全部、ハーレムのひとりにすぎないって?やだなぁ、冗談でしょう?ねぇ?」

 

「違うから、そんな壮大な事も考えてないから。それに僕は複数の女の子相手にどうこうできる勇気もない」

 

 桜華が怖すぎて会話すら満足にできない。

 今日の彼女はいつもの3倍増しで危険すぎる。

 

「……ひどいなぁ、こんなにもお兄ちゃんを愛してる妹がいるのに。お兄ちゃんは私に振り向いてもくれないでさぁ。他で女作って楽しんでるんだ?私を不安や嫉妬させて、どうしたいのかな?もしかして、私の事、邪魔とか思ってたりするのかな?」

 

「だから、そういう類の女の子じゃないから!」

 

「それなら、何でこんなに親しいの?」

 

「それは、その……」

 

 彼が男の子だからです、女装趣味はともかく、友達として波長が合うんです。

 何てことは言えないわけで。

 

「言えないんだ?もういいわ、お兄ちゃん……こっちも、マジで許せそうにない」

 

 一気に死亡フラグきた!?

 殺さないで、僕はまだしたいことがたくさんあるんだ。

 ヤンデレ妹さん、お願いだからヤンデレENDだけはやめて!?

 

「ごめんなさい、何もしてないけど、ごめんなさい!」

 

 僕は必死に謝ろうと頭を下げようとする。

 だが、それをやめたのは桜華の様子が変だったから。

 彼女は俯いた視線を静かにこちらに向ける。

 

「え……?」

 

 僕は思わず唖然とさせられる。

 どうしてかって……答えは単純だ。

 桜華の瞳が真っ赤になって、涙ぐんでいたからだ。

 

「ひっく、うぅ……ぁっ……」

 

 桜華が泣いている、涙を流して泣いている。

 こんな桜華を見るのは怒り心頭を見るより久しぶりだった。

 

「えぐっ、うぁ……お兄ちゃんの、春ちゃんのバカぁ……」

 

 僕に涙を見せる桜華、肩を震わせて、涙を流す。

 

「……私は、春ちゃんが好きなのに、どうしていつも意地悪するのよ。どうして、私を受け止めてくれないのよ。どうして、他の女の子なら心を許してるの?どうして、私のことを怖がって、拒絶するのよ」

 

 彼女が僕に抱きつく、嗚咽を漏らして弱々しく抱きついてきた。

 

「うえぇーん、春ちゃん……。やだよ、春ちゃんが他の誰かに取られるのはいやっ!!」

 

 僕は彼女の事を誤解していたのかもしれない。

 こんなにも僕の事を桜華は思ってくれていたんだ。

 その気持ちに気づかず、拒絶し続けてきた自分が恥ずかしくなる。

 一途過ぎる想いゆれに屈折した愛情。

 泣き続ける彼女を僕は腕をまわして、泣きやませようとする。

 

「ごめんね、桜華……キミを傷つけてきてごめん」

 

 子供のように泣き続ける、本当の桜華の姿に僕まで辛くなる。

 普段の桜華からは想像できない弱さの一面。

 

「……うぅっ、あぁっ……ひっく、ぐすっ……春ちゃん……」

 

 この子にも当然ながらこういう部分があるんだって思った。

 ……いつもの強気な一面からは想像できない側面の部分。

 桜華の涙をそっと指先でぬぐってあげながら、僕は彼女が落着くのを待ったんだ。

 僕の行動が桜華を傷つけることもあるんだって。

 そんな当たり前の事を身にしみて感じながら――。

 

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