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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言3~我が侭お嬢様のお気に入り~
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第69章:私が兄を好きな理由(わけ)

【SIDE:七森桜華】


 本日も学校帰りにモデルのお仕事。

 今日は新しいファッションブランドのモデル撮影。

 順調に私もモデルのお仕事も増えてきているから嬉しい。

 仕事終わりに夜の繁華街を歩いてると、お店でいい感じの服を売っているのを見かけた。

 

「ん?これ、春ちゃんに似合うかも」

 

 私の服ではなく男の子モノ、普段、女の子扱いしているけど春ちゃんは美形だから何を着させても似合うんだ。

 私は店に入って、店員さんに彼のサイズのモノを頼む。

 春ちゃんの服のサイズは前から知ってるからこういう時は便利。

 

「プレゼント用に包装しますか?」

 

「いえ、そのままでいいです」

 

 私は支払いを終えて服の入った袋を抱える。

 たまには彼にプレゼントしてあげようと思っていた。

 

「……うわぁ、雨降りそうな天気じゃん。最悪だ、急いで帰ろう」

 

 空はあいにくの曇り空、すぐにでも降りそうなので走って帰ることにする。

 

「おぅ、桜華じゃないか。何をしてる?」

 

 そんな私に声をかけてきたのは従兄の信吾さんだった。

 両手に食料品の袋を抱えている、そういう姿が似合わない人だ。

 

「信吾さん?また変な場所であったわね」

 

「変なって、繁華街であうのが変か?こっちは夕食の買い物だが。さっさと帰って、中間テストの問題作りをしなければいかんのよ。教師ってのは面倒な仕事だ。ちなみに言われる前に言うがテスト範囲は教えんぞ」

 

「聞いてないし、そもそも、信吾さんの担当科目は苦手だから放置。それよりも……ということは、帰りは車?」

 

「そうだが……分かった、雨が降りそうだから送っていってやるよ」

 

 彼も買い物をして家に帰る途中だったらしく、車に乗せてもらえることになった。

 言ってるうちに雨が車の窓に当たる、ギリギリセーフね。

 

「タイミングよかった。サンキュー、信吾さん」

 

「感謝しておけ。そういや、お前もあんな時間まで繁華街で何してるんだ?」

 

「お仕事。モデルの仕事でちょっと遅くなったの」

 

「あぁ、アレか。そういや、彼女から聞いたけど大きな仕事をする事になったんだって?お前もすっかり有名人になってるな」

 

 信吾さんの恋人は私が紹介したモデルの女子大生だ。

 長続きしないだろうって思ってたけど、案外、2人とも交際が順調みたい。

 

「私が可愛くて人気があるのは当然でしょ?」

 

「よく、臆面もなくそう言い切れるな」

 

「だって事実だもの。信吾さん、前、青信号」

 

「ったく、あんまりうまくいきすぎるってのも桜華を調子乗らせていかんな」

 

 冗談口調で彼が言うのは、それが私の努力の結果だと知っているから。

 本当に“くえない人”、昔から彼のような性格が私は苦手だ。

 車窓から雨の景色を見つめて私は言った。

 

「……春ちゃんも近いうちにデビューするわよ」

 

「何のデビュー?まさか……?」

 

「そのまさか。女装モデル、笑いたい気持ちはあるけど可愛過ぎて逆に笑えないから」

 

 信吾さんは失笑気味に「ついに校内ではなく、全国デビューかよ」という。

 

「私は反対したのに、うまい具合に話に乗せられて。後悔しても知らないわ」

 

「春日は後悔ってのを嫌というほどしても、他人を傷つけるのを嫌うからな。お願いされて断れないタイプだ」

 

「多分ね。そうでなければ、脅されたぐらいしか考えられない」

 

 あの春ちゃんが女装することに抵抗を感じなかったはずがない。

 それでも咲耶さんの提案を受けたことに意味があるはず。

 その辺の事情は教えてくれないので、推測でしかないけど。

 

「まぁ、いいじゃないか。どこに出しても悪くない自慢の兄だろ?」

 

「どこに出してもいいけど、出来ることなら独り占めしておきたい兄よ」

 

 他の誰も私の春ちゃんには近付かないで。

 そう思う私は心が狭いの? 

 違うよね、これは女の子としての当然の独占欲。

 好きな相手が他の女の子と一緒にいて嬉しい女の子はいないもの。

 

「……転校生の咲耶って人がいるでしょ。あの人が要注意なの」

 

「芙蓉ブランド、お前のスポンサーだろ、下手に怒らせるとまずいんじゃないのか?ああいうのって後を引きずるって聞くが」

 

「だから余計に困ってるの。私は無意味に動けないから」

 

 咲耶さんが私の仕事に関係ない人ならば、宗岡先輩の時みたいにいくらでも対処のしようはあるはずなんだ。

 けれど、相手が権力者である現実は私の行動を制限している。

 下手に逆らうとお仕事がなくなり、私のモデル人生に傷がつくもの。

 

「まぁ、それでも彼女の好きなようにはさせない。最後に笑うのは私よ」

 

「それ、悪役のセリフだけどな……いたっ、お前、運転中に暴力は禁止だ!?」

 

 いらぬ人ことを言う従兄に私は不満気な視線を向けておく。

 気がつけば車は私の家の近くに近づいていた。

 

 


  

 信吾さんに送ってもらい、家に帰った私は食事をすませた。

 時刻は8時半、春ちゃんに例の服をプレゼントにしにいこう。

 部屋をノックして「お兄ちゃん」と呼びかけてみる。

 しかしながら、反応はなし。

 

「お風呂、じゃないよね?どうしたんだろ?」

 

 気になって部屋に入ると、ベッドの上に春ちゃんが寝転んでいた。

 

「春ちゃん、入るよ……って、寝てるの?」

 

 珍しくそのまま寝てしまったらしい。

 最近はテスト週間で夜遅くまで勉強しているみたいだし、疲れているのかも。

 ちなみに私は勉強がほとんどできないので、一夜漬けしかしないと決めている。

 私の通う高校ってテスト期間が長くて一日辺りの科目が少ないから、一夜漬けでも十分対応ができるんだ。

 

「さて、どうしようかしら?」

 

 寝ている彼を起こすのも忍びないけど、風邪をひかれても困る。

 さらに言えば、せっかく買ってきた服を着てもらいたい。

 

「悪戯したいって気分でもないなぁ」

 

 普段なら悪戯で遊ぶんだけど、今日は気分がいいのでやめる。

 

「……可愛い顔して寝ちゃってさ。ホント、そんな可愛さだから皆に好かれるんだよ」

 

 寝てる彼に私はそう囁きかけてみる。

 どんなダイヤモンドも磨かなければただの石の塊。

 彼の可愛さに最初に気づいて、魅力を引き出し続けてきたのは私だ。

 

「あんまり遠いところへ行っちゃやだよ。私の傍にいなさい。いいわよね……?」

 

 私の中に最近、不安という2文字がちらついて離れてくれない。

 彼が私以外の相手を好きになる、そんな未来を私は想像してしまう。

 嫌だ、絶対に嫌だよ、本当に……。

 もしも、そんなことになったら私は春ちゃんを許せない。

 誰よりも好きで、誰よりも離したくなくて、誰よりも傍にいて欲しい男の子。

 何よりも優しくて、笑顔が可愛くて、傍にいると癒される、大好きな人。

 それが私にとっての春ちゃんだったから。

 

「……宗岡先輩に狙われてた頃はまだ何とかできると思ったんだけど、咲耶さんが恋愛感情こみで春ちゃんを狙いだしたらどうしよう。うぅ、その展開だけは回避してほしいな」

 

 それ以外にも彼自身が恋をしてしまうとどうしようもない。

 不安なんて言い出したらきりがない。

 私はその不安を打ち消すために、何とか頑張るしかないんだ。

 

「膝枕させてみようか」

 

 ふと思いついて私は彼の寝ているベッドに座り、そっと頭を自分の膝に乗せてみる。

 

「いい感じかも。妙にくすぐったい気分……」

 

 起きているときの彼じゃありえない光景だ。

 ぐっすりと寝てるからこそできること。

 無防備な寝顔を見つめ続けて私は彼への想いを強くする。

 初めて彼を好きになってから10年以上が経っている。

 これから先、私たちの関係がどうなるのか。

 不安と期待、入り混じるふたつの感情。

 

「……私は春ちゃんを信じてるからね」

 

 私はもう出来ることはしてきたつもりだ。

 告白も、想いをぶつけることも、愛されるための努力も……。

 それでダメなら……力づくで私のモノにするしかない。

 彼の事を諦める?

 そんな選択、ありえないし、あるはずないもん。

 

「早く私を好きっていって。大好きだって、愛してるって……春ちゃんの口から甘い言葉が聞きたいの。そのためなら私は何でもするよ、春ちゃん……だから、お願い。私を好きになってよ」

 

 彼に愛されたい、好きになってほしい、春ちゃんの初恋相手になるのは私だ。

 それ以外は絶対に許したくないの。

 

「……ん、メールかな?」

 

 彼の携帯電話が震えている事に気づく。

 寝ている彼に内緒でそれを見ようと思い手を伸ばす。

 

「やっぱり、やめておこう。だって、怒られるのは嫌だもの」

 

 人の携帯を見るな、春ちゃんはこういう事にはうるさい。

 無駄に勇気を出して私を怒るから……。

 彼に怒られると気持ちが凹むから嫌だ。

 そっと元の場所に戻そうとするけど、私はその携帯の表示された名前にびっくりする。

 

「はい?これは誰って……白瀬ナミ?」

 

 何で、春ちゃんが白瀬とメールなんかしてるわけ?

 白瀬ナミと言えば、うちのモデル事務所で一緒の若手の子だ。

 可愛らしいタイプの子で、私と違うファッション雑誌の専属モデルをしている。

 話したことはあんまりないけど、何だ、これ……?

 私の中にふつふつとわきあがる怒り。

 

 ダメだ、これはダメだ。

 

 あけてみたメールの中身は「明日、時間があればあいましょう」という内容だ。

 言ってる傍からこれだもの、男の子は信用できないってホントだね。

 ……私に内緒で他の女の子と関係を深めようなんて許せそうにない。

 私はまだ眠る彼から離れて静かに深呼吸、そして、大声で叫ぶ。

 

「――くぉら、さっさと起きなさい、お兄ちゃんっ!!」

 

「ふ、ふわぁっ!?な、何事!?え?あれ?……お、桜華?」

 

 びっくりして飛び起きる彼に私はにっこり笑顔で言ってやる。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。大事な話があるんだ。今すぐに聞いてくれる?」

 

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