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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言3~我が侭お嬢様のお気に入り~
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第63章:桜華の天敵《後編》

【SIDE:七森春日】


 桜華の登場に冷や冷やさせられたんだけど、咲耶さんにより呆気なく強制退場。

 家に帰ってからがちょっと怖い、いや、ちょっとなんて甘い言葉じゃすみそうにないなぁ。

 

「あの、桜華はどこに?」

 

「大丈夫よ。変な場所じゃなくて私の行きつけ美容室だから」

 

「……そうなんですか」

 

 黒服のお兄さんに引きずられていった義妹。

 その後が気になるような、気にしたくないような。

 とにかく、僕は彼女の案内の続きをすることに。

 屋上へと出ると彼女は気持ちよさそうに秋空を見上げた。

 

「良い光景じゃない。この校舎の屋上は常に開放されているの?」

 

「そうですね。基本的には開放されてますけど」

 

「へぇ、たまに来ることにするわ。あら、ここからだと中庭も綺麗に見える。ねぇ、春日。あの中庭に咲く花ってすべて貴方達が育てているもの?だとしたらすごいわね」

 

 屋上から見ると、本当に花畑が際立って見えるのだ。

 

「そうですよ。中庭は園芸部の活動場です」

 

 メインは中庭、校門前の花壇のふたつだ。

 

「……私、次は中庭に行ってみたい。案内してよ」

 

 彼女は僕の手を引いて歩きだす。

 女の子と手をつないだ経験は数える程度にあるけれど、彼女は体温が冷い。

 肌寒さとかとは別みたいで、基本的に低血圧なのかもしれない。

 

「咲耶さんって冷たいんですね……?」

 

「え?冷たい?そうかしら、自分では結構温情あるタイプだと思ってるんだけど?」

 

「あ、いえ、そちらの意味ではなくて。体温の方です」

 

「勘違いしちゃってごめんなさい。そっちか。私はね、基本の体温が低い方なんだ。そんなに冷たいかな?」

 

 ひんやりとした感じは自分では分からないものなのかな。

 

「……そう言われてみると、春日の手は温かいかも」

 

 彼女の言葉にドキッとさせられてしまう。

 うぅ、女の子に慣れていないと時々、妙なところでドキドキするから困る。

 普通に考えれば女の子と手を握るシチュエーションでも十分緊張ものなんだけどね。

 

「ほら、時間も少ないから行きましょう」

 

 中庭には数人の後輩部員が花に水やりの最中だった。

 

「あっ、春日先輩っ。今日はものすごく可愛かったですね?」

 

「もう、そんな風にからかっちゃダメだよ」

 

「ごめんなさい。ホントに可愛くて、つい」

 

 彼女達に囲まれて僕は苦笑いを浮かべるしかない。

 うちの部員の子は皆、いい子ばかりだけど噂話の類は好きなのだ。

 

「先輩、後ろの人ってもしかして転校生の先輩ですか?」

 

「あぁ、そうなんだ。今、学校内を案内している最中なんだ」

 

「そうだったんですか。私達は水やりしているので、後は任せてください」

 

 本当ならば僕も放課後に参加するつもりだったので、ここは彼女達にお任せする。

 

「後輩からも人気があるんだ?外見もよくて優しければ当然かな」

 

「そういうんじゃないです」

 

「……そう?後輩が憧れる先輩の条件にぴったり当てはまってると思うけど。春日って結構、自分を謙遜するタイプなんだ。貴方の事、少しだけ分かった気がする」

 

 彼女はそう言うと僕の育てている花壇を見つめた。

 まだ蕾もなっていない、発育途中の花。

 今、育てているのはまもなく咲くエンゼルストランペット。

 僕が彼女に説明すると思わぬ反応を見せる。

 

「エンゼルストランペット。前に一度見たことがあるわ。可愛らしい花を咲かせるのよね。祖父の家で見かけた気がする。確か下向きと上向き、花の種類で向き方が違うんだっけ。天使がトランペットを吹く様に似ているからエンゼルストランペットって言うのだけどは覚えているわ」

 

「……咲耶さんって花は詳しい方ですか?」

 

「ううん。一応、華道をするから季節の花ぐらいは知ってるつもりだけど、自分で育てた事もない。でも、綺麗なものは好きよ」

 

 女の子らしさを垣間見せながら、彼女は笑う。

 

「春日が育てた花。興味があるわ」

 

「そうですか。また咲いたら言いますよ」

 

「お願いね。……あら、あの人は?」

 

 咲耶さんと花を見ていると偶然通りがかった人がいる。

 誰だ、あれは?

 近づいてきてようやく誰か分かった。

 

「こんにちは、春日クン♪」

 

 中庭に来ていたのは白雪さんだった。

 夏休みによく会っていたので久しぶりというわけではない。

 

「こんにちは。白雪さんはまだ学校に残ってたんですか?」

 

 本日は始業式だけ、普通の生徒ならもうとっくに帰ってるはず。

 

「えぇ、進路指導の先生に相談してたから。問題は解決済みなんだけど、春日クン……隣にいるのってもしや?」

 

「今日、転校してきた芙蓉咲耶さんです。咲耶さん、彼女は……」

 

「宗岡白雪。高校3年生で、現役モデルにして地方病院の院長の娘でしょう?」

 

「よくご存じで。一応、貴方とは初対面のはずよね?違う?」

 

 白雪さんに向ける咲耶さんの視線はどこか変だ。

 敵対視しているような強いものを感じる。

 

「私が知ってるだけです。今のモデル業界で若手トップクラスの人気を誇る貴方を知らないはずがない。はじめまして、と挨拶だけしておきます」

 

「……ずいぶんと嫌われてるみたいね?理由は分かってるけどねぇ。春日クン、これは例の追加の資料。先生にもらってきたの」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 それはフラワーコーディネーターの資料だ。

 進路指導教室に入れる白雪さんには情報をよくもらっている。

 

「それにしても意外な組み合わせ。同じクラスメイト?」

 

「そうですね……席が隣だったので、学校案内をすることになりました」

 

「……そうなの。まぁ、桜華にばれないように願ってるわ」

 

 それは手遅れです、既に見つかってますよ、うぅ……。

 白雪さんはそのまま「じゃぁね」と去っていく。

 何ていうか、普段の彼女らしくなく居づらそう感じもした。

 咲耶さんは不満そうな顔をしている。

 これは何か二人の間にあったと思うべきなのか。

 

「宗岡白雪、彼女と春日は親しそうに見えたわ。交際しているの?」

 

「こ、交際?い、いえ、そういう関係じゃありませんから!ただ、桜華絡みで知り合ってよく親しくさせてもらってるだけで……先輩と後輩の関係です。それ以上でも、それ以下でもないです」

 

「先輩と後輩。そう思ってるのは春日だけ、かも」

 

「え?それはどういう意味で……?」

 

 咲耶さんは僕の問いには答えず、別の言葉を返す。

 

「春日って女性関係の交友は広いんだ。大人しそうな顔をしてるわりには、女の子に対して積極的というところかしら?」

 

「えっと、僕個人としてはそういうつもりは微塵もないんです」

 

 不思議な事に女の子が苦手な僕には女の子が近づくことが多い。

 それはそれで非常に困っている事でもある。

 

「聞いてもいいですか?白雪さんと咲耶さんってどうして険悪そうなんですか?僕の勘違いには思えなかったので」

 

「本人と話すのは初めてよ。桜華と同じく、オーディション会場で見たの」

 

「白雪さんも芙蓉ブランドのオーディションに?」

 

「えぇ。桜華とは別の化粧品の新しいブランドのモデル契約をしようとしてたの。けれど、彼女は直前になってそれをキャンセル。それだけじゃないわ。ライバル会社のモデル契約をして、私たちと敵対してきたの」

 

 それは、何ていうか、バトルちっくな展開になるわけだ。

 その事について白雪さんも自覚があるから気まずいわけで。

 というか、さっきから気になっていたんだけど、咲耶さんってモデル契約においてかなりの権限があると考えてもいいのだろうか。

 お仕事関係に関わる気はないので、それ以上の追及はしないけどね。

 

「こっちが先に契約しかけていたのに。結果的に向こうと契約するんだもの。私としては不愉快としかいいようがないの。仕事ではよくある事だけど、個人的な感情までは抑えられないもの。あの人は嫌い、それだけよ」

 

 咲耶さんは頬を膨らませながら不満そうに言う。

 契約絡みのビジネスの世界って言うの大変らしい。

 

「……はぁ、テンションが下がったわ。もう今日の案内はいい。ありがとう、春日」

 

 彼女はそう言ったので僕らは一度教室に戻り、荷物を取りに行く。

 そして、校門前で別れる間際、真面目な顔をして彼女は言った。

 

「今日は本当に感謝してる。転校初日でここまで話を出来る相手に出会えるとも思っていなかったし。これならこの学校でもうまくやっていけそうよ。春日、これからもよろしくお願いするわ」

 

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いしますね、咲耶さん」

 

 彼女はそのまま小さな声で何かを囁いた。

 

「……ライバル多そうだけど、狙ってみる価値はあるかもしれないわね」

 

 その声は僕には届いていなかった。

 金髪美少女の咲耶さん。

 性格もそれほどキツクないし、女の子らしさもある。

 

「こういうのも出会いのひとつかな」

 

 彼女の後姿を眺めながら僕はそう呟いて帰路についた。

 

 

 

 

 家の玄関を開けて、僕はそれまで何かを忘れていた事に気づく。

 

「おかえりなさい、お兄ちゃんっ」

 

 満面の笑みで出迎えてくれる桜華。

 

「ただいま……あっ!?」

 

 髪色を茶色に戻して髪型もきっちりと可愛くセットされている。

 大和撫子から再びギャル風へ。

 そうでした、桜華の事を忘れていたんだ。

 僕は冷や汗を流しつつ、桜華の次の言葉を待つ。

 

「さぁて、お兄ちゃん。私のお部屋で話をしましょう。えぇ、楽しい“お話”をね?」

 

 ……今から逃げてもいいですか、無理ですか……はぁ。

 

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