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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言2~白雪姫と悪い魔女~
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第51章:孤島パニック《後編》

【SIDE:七森桜華】


 春ちゃんと一緒に祖父母の家に遊びにきた。

 お盆中の海で遊んでいた私は高い波に飲まれて流されてしまった。

 何とか春ちゃんに救助されたけど、孤島に流れ着いたの。

 そこは何かのお祭りの時に使われる神社のようだ。

 狭い室内にろうそくの炎が揺れている。

 

「ねぇ、春ちゃん。寒くない?」

 

「僕は大丈夫だよ。桜華は大丈夫かな」

 

「うん。何とか……でも、ここは何なの?」

 

 神社のようだけど、中は結構手入れされているみたいだ。

 奥から座布団を取り出してそこに座る。

 

「……ほら、こーいうところって普通、祭壇みたいのあるじゃん?」

 

「そう言えば、ここにはないな?本殿じゃないのかもしれない」

 

 ここは人が集まるように出来ているみたいだ。

 私はそっと外を見ると雨が降り始めている。

 

「あれが本殿かな……?」

 

 石像と本殿っぽい建物がそこにはある。

 古臭い雰囲気の場所はあまり好きじゃないな。

 

「なるほど、人魚伝説って感じかな?」

 

「はい?人魚って何なの?」

 

「ほら、この壁に掛け軸みたいなのが掛かっているだろう?」

 

 そこには変な魚と人の混じり合った半魚人みたいな姿の人間の絵が描かれいる。

 男か女か、判断しづらい……少なくとも人魚姫ってイメージじゃない。

 

「この付近の海にそういう伝説があるのか」

 

 古い町だと結構、そういう伝説って残ってるという話を聞いた事がある。

 人魚伝説かぁ、そんなのどーでもいいけどね。 

 私は伝説とか信じない方なんだ。

 

「人魚なんていいから、何とか連絡手段とかないわけ?電話とか……あるわけないか」

 

「大人しく待っていればきっと助けがくるよ」

 

「お兄ちゃん……死ぬ時は一緒だよ」

 

「はい、ちょっと怖いから縁起でもない事を言わない」

 

 もちろん、冗談だけど。

 私は薄暗い室内にじっとしている。

 雰囲気のある古いお堂の中はジッとしているのも辛い。

 

「……あっ、お兄ちゃん。私、ある事を考えつきました」

 

「しょうもないことなら却下」

 

「まずは人の話を聞きなさいっ!」

 

 春ちゃんの顔をこちらに無理やりに向かせる。

 

「男と女、遭難した二人がすることと言えば……」

 

 もちろん、アレじゃない。

 こう言うときによくあるシチュエーションです。

 

「えっと、しりとりとか?」

 

「しないっ!どうせしりとりなんてどちらが“る”を言えなくなるかで勝負でしょ」

 

「こう見えても、しりとりの“る”の勝負は得意です」

 

「誰もそんな事を聞いてないから。何で遭難しかけた男女が二人っきりの密室でそんな事をしなくちゃいけないのよ。体力の無駄遣いでしかないわ」

 

 私は春ちゃんをジーっと見つめて言う。

 彼は天然系なところがあるからね。

 たまにわざとの場合もあるから侮れない。

 

「今の私とお兄ちゃんの状況。よく考えてみて……」

 

「遭難中で水着姿でいつ風邪を引くか分からない」

 

「だからこそよっ!身体を温める事が大事なわけ」

 

「あの、桜華さん……?何を近づいているのでありますか?」

 

 私は薄暗さの中で春ちゃんに急接近中。

 彼はビクッと反応を示して警戒する。

 

「だから、言ってるじゃない。男と女、肌と肌を触れ合わせて身体をあためるのがお約束じゃない。そう、それしかないの」

 

「……身の危険を感じるのは気のせい?」

 

「ふふふっ、それはどーかしら?」

 

 今度こそ、春ちゃんを私のモノに……。

 私が春ちゃんの肩に触れたその時だった。

 

「おーい、二人とも無事か?いたぞ、こっちだ」

 

 いきなりお堂に入ってきた男の人達。

 

「おおっ、桜華と春日。無事だったのか、よかったぞ」

 

 どうやら私達を探してくれていたお祖父ちゃん。

 浜辺に置いてある荷物から行方不明と判断した彼は漁港の関係者に船を出してもらってこの島まできたらしい。

 春ちゃんがこの孤島の岸辺に荷物を置いて目印にしていたからすぐに見つかったんだって。

 彼らが来てくれたおかげで私達は無事に助かったのだけど、このタイミングはどうなのよ。

 ……せっかく、春ちゃんを堂々と襲える数少ない貴重なチャンスだったのに。

 


  

 

 無事に助けられた私達は家に帰ってきた。

 遭難時間は約20分くらい、無事だったのでよかったんだけどね。

 お祖母ちゃんの作ってくれた夕食を食べながら、会話をする。

 

「すまなかった。天気予報で今日は海が荒れると言っていたのをすっかり忘れて海へ行くように勧めてしまった。それに、春日の電話もつい冗談で流したら電話が切れて、これはマズイと海へ行ったんだよ」

 

「いえ、ちゃんと見つけてくれましたから」

 

「春日の判断は的確だったな。あの状況でこちらの島側よりも孤島側の方が波が穏やかなんだ。おかげでふたりとも無事でよかった。さぁ、ご飯を食べよう」

 

 春ちゃん、そんなことまで考えてたんだ?

 何かすっごくカッコよく思えてくる。

 

「あの孤島にあった神社は?」

 

「この海には人魚伝説っていう古い言い伝えがあってな。数百年以上前にこの村の村長の娘が海で大波にさらわれた。その娘を助けてくれたのが人魚だったそうだ。だが、その人魚は彼女を助ける時に傷を負い、やがて海に沈んで行ったそうだ。その人魚に感謝して建てられたのがあの神社だ」

 

 命がけの救助、亡くなった人魚の魂を鎮魂するため毎年、春ごろに儀式が行われているらしい……人魚伝説ねぇ?

 私はそういう事を信じてないけど、あのお堂があって助かったのは事実だ。

 

「そうだったんだ。あ、この煮付け美味しいですね」

 

「ここは美味しい魚が取れるんだ」

 

「桜華も食べれば?ホントに美味しいよ」

 

 のんきに食事している春ちゃんに私は肩をすくめる。

 あれだけのことがあっても普通でいられる彼が大物に思えてくる。

 

「いただきまーす」

 

 私もお魚は好きだから、普通に美味しく食べさせてもらう。

 お祖母ちゃんってホントにお料理上手で羨ましい。

 私も料理ができないわけじゃないけど、美味しくは無理だもの。

 

「桜華はまだ料理が作れないのか?」

 

 お祖父ちゃんの指摘に私は首を横に振る。

 以前、春ちゃんのために料理を勉強して少しはできるようになった。

 最近も肉じゃがをマスターしたばかりだ。

 

「できるようになったよ、ちょっとだけ」

 

「そうだ、ここにいる間に桜華に料理を教えましょうか」

 

 お祖母ちゃんがそう言って、何だか乗り気だ。

 私としても専門家だったお祖母ちゃんに教えてもらうのは有難い。

 

「うんっ。お兄ちゃんを“必殺”できる料理を覚えて帰るわ」

 

「……ひ、必殺?」

 

 なぜか春ちゃんがその言葉通りの意味をとってビビっていた。

 ちなみに“必殺”は“男を落とす手料理”という意味なんですけど?

 


  

 

「今日は色々とあって疲れたからもう寝るわ」

 

「って、おかしくないっ!?」

 

 いきなり大声で否定する春ちゃん。

 私と彼は同じ部屋で寝ることになっていた。

 それに疑問を抱いたのか彼は布団を私の布団から離す。

 

「これだけ大きな家で部屋もたくさんあるのに、なぜ桜華と同室なんだ?」

 

「だって、他の部屋は掃除していないんだって。部屋が多くても使う人がふたりじゃ、意味ないでしょう?使う部屋って決めているの。文句言わない」

 

「……せめて、隣の部屋とかさぁ」

 

 まだ文句を言う春ちゃんを黙らせるために私は濡れた髪をタオルで拭きながら、

 

「心配しなくても私は襲う体力残ってないから」

 

「体力があったら襲うつもりだったのか?」

 

「冗談よ、冗談。あっ、逆に襲ってくれるなら……きゃんっ!?」

 

 私に春ちゃんが枕で攻撃してくる。

 痛くないけどびっくりするじゃない。

 

「教育的指導。大人しくしていてください。襲わないからね、僕は……そこ勘違いしないで」

 

「はーい。おやすみ~」

 

 私はホントに疲れていたのでそのままベッドに横になる。

 二人で静かな部屋の天井を見上げる。

 

「お兄ちゃん、今日はありがとう。私が無事だったのはお兄ちゃんのおかげ。感謝している。ていうか、もう今日のお兄ちゃんはカッコよすぎ。私はますます、惚れちゃったわ。さすが男の子、頼りになる時は頼りになるんだね」

 

「……」

 

「見た目は女の子なのに、今日は男の子なんだよねって改めて私は感じさせられたわ。お兄ちゃん……?あれ?」

 

 返事がないので春ちゃんの方を見ると彼はすでに眠っていた。

 お疲れモードだったので、すぐに寝てしまったみたい。

 何だかんだで気を張ってくれていたのかも。

 

「ふふっ……。もうっ、お兄ちゃんったら……無防備なら襲っちゃうぞ?」

 

 私はちょっとだけ照れくさくなりつつも彼にお礼を言う。

 

「ありがとう、おやすみなさい」

 

 私にとって春ちゃんは男の子なんだという事を今回の事件で強く感じた。

 それにしても……ふたりっきりになってもロマンスのひとつもないのは残念すぎるわ。

 ああいうシチュでも私に手を出さないなんて……。

 私は眠りに付くまでガードの固い春ちゃんをいかに落とそうか思案していた。

 

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