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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言2~白雪姫と悪い魔女~
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第49章:弱気な兄も怒る時は怒ります

【SIDE:七森春日】


 お盆に祖父母の家に行くことになり、そのための準備として僕は桜華と買い物へ出かけることになった。

 夏の蒸し暑さと蝉の鳴き声がうるさい中を二人で歩く。

 歩く人々も僕ら同様、この暑さにげんなりしている。

 

「……必要な物って何があるんだ?」

 

「旅行グッズとか色々。あとはお祖母ちゃんからの頼みごと。料理の本を買ってきてって言われているの。まだ料理好きなんだ?」

 

「数年前まで現役だったんだ、気になるんだろう?」

 

 母方の祖母は数年前までテレビにもよく出ていた料理評論家だった。

 今は現役を退いているけど、料理が好きなのは確かなのようだ。

 

「3泊4日だから、持っていくものってどんなのだろう?」

 

「化粧品とかシャンプーとか?」

 

「……旅行に行くわけじゃないからそんなに買い揃える必要がないことに気づいた」

 

 僕がそう言うと桜華は「あれ?気づいちゃった」とにやっとする。

 しまった、妹の策略にハマった。

 どうせ祖父の家に基本的な物が揃っているのだから着替えぐらいしか必要なものはいらないというのに、わざわざ買い物に付き合う事になってしまった。

 とはいえ、桜華は買いそろえなくてはいけないものがあるらしい。

 

「いいじゃなない、デートくらいしても?それとも、私と一緒じゃ嫌なの……?」

 

「嫌というわけじゃないけど」

 

「それならごちゃごちゃ言わずに行こうよ。お兄ちゃんは買うものがなくても私にはあるの。荷物持ち係りよろしくねっ」

 

 少し強引ながらも彼女に付き添い僕らは街を散策する。

 男の荷物はそんなに持っていくものはないけれど、女の子は準備があるらしい。

 

「次は……あっ、ここで少し待っていて?」

 

「え?何を買うつもりなの?」

 

「……下着よ、下着。女の子にそんな事を言わせちゃダメでしょ?それともお兄ちゃんも選んでみたい?最近、メンズブラって男の人用のブラジャーもあるらしいよ」

 

「そんな趣味はありませんから、早く行ってください」

 

 それはまずい、超えてはいけない一線を越えてしまう気がする。

 ただでさえ、女装させられる時のあの心苦しさがあるというのに。

 

「男の人ってよくテレビだと女装したがるじゃん。あれってやっぱりそういう趣向があるのかしら?メンズブラって、おっさんがしたがるんだって。その辺、男子の意見としてはどう?女装趣味とメンズブラについてご意見は?」

 

「……まったくないから。ここで大人しく待ってます」

 

「むぅ、つまんなーい。いつか通販でお兄ちゃん用の奴を……」

 

「買わないで!!お願いだからそれだけはやめて」

 

 僕にだって譲れぬプライドは残されている。

 男としてそれだけはダメだって。

 

「……あははっ、お兄ちゃん必死すぎ」

 

 誰のせいで必死になっているんだろう。

 義妹にはホントに敵う気がしない。

 からかわれた僕は妙に疲れた気分になる。

 

「はぁ……」

 

「お疲れ気味?荷物、そんなに重い?」

 

「別の意味で疲れたんだよ」

 

 彼女に怒る事も反撃することもできない。

 

「それじゃ、これ買い終わったらどこかで休もう。ちなみにお兄ちゃんの好みの色は?」

 

「……好みって何の?一応、黒っぽいのは好きかな」

 

「なるほど、お兄ちゃんは黒色の大人っぽい下着がお気に入り、と」

 

「って、そんな話!?」

 

 彼女はそのまま僕がフォローする間もなく買いにお店に入ってしまった。

 うぅ、女性下着専門店だと僕が後を追いかけることもできない。

 この店の前で待つのはやめて少し離れた場所にいよう。

 中学生の時、同じように桜華の買い物に付き添っていた時、僕は店員に女と間違えられて下着を選ばれそうになった過去がある。

 

「まだ控え目なんですね、これからですよー」とか言われてものすごく恥ずかしかった。

 

 どうやら店員は素で初めて下着を選びにきた女の子だと思い込んでいたらしい。

 桜華は大爆笑、それ以来、こう言うお店の前には一秒もいたくない。

 

「……このまま帰ったら桜華に怒られるしなぁ」

 

 僕は仕方なく少し離れた場所で待っていた。

 ジロジロとなぜか横を通りさる女の子から視線が向けられる。

 ……何だろう、僕が何かしました?

 少なくとも犯罪行為で顔を知られる真似はしていない。

 唇を触るが口紅が残っているわけでもない。

 気になるので、彼女達の発言が知りたくて耳をすませる。

 

「ねぇ、今の子ってあの子じゃない?」

 

「嘘でしょ?違うんじゃない?」

 

「だって、目の感じとかそっくりだったし。絶対、そうだったって」

 

 ……あの、何の話でしょうか?

 何やら僕と誰を見比べられているような感じだ。

 

「もしも、今の子がそうだったら可愛すぎじゃない?」

 

「あれで男の子だって言うのは反則過ぎ。美人って羨ましいわ」

 

 い、嫌な予感……まさか、ね?

 僕はその直感に震えながら手近なコンビニで桜華がモデルをしている雑誌を手にする。

 端から端まで読みとおして……よかった、あの浴衣写真が流出したわけじゃない。

 一瞬、あの写真がどこかの雑誌に載ったんだと思って心配したよ。

 女の子達の反応がアレだったもので、余計な心配したかな。

 

「あっ、それじゃなくて、こっちの雑誌の特集に載ってたよ、春日クン」

 

「……え?」

 

「ふふっ、『これだけ美人でも男の子、女の子よ負けるな』って記事じゃない?もうっ、春日クンもモデルデビューしたなら教えてくれたらいいのに」

 

 僕は雑誌のページに載るあの浴衣姿の写真に愕然とさせられる。

 うぅ、あの時の社長さんは流出させないって言ったじゃないか。

 ……って、僕の隣で声をかけてくるのは誰?

 そちらに振り向くと「はぉ」と声をかけてくる白雪さんがいた。

 

「こんにちは、お久しぶりね。会わないうちに同じ事務所からモデルデビューしちゃったの?しかも女装専用モデル、春日クンには似合っているけどいいの?」

 

「ち、違いますよ。これは、その、僕であって僕じゃないんです」

 

「でも、こちらの雑誌はどこの出版社からでも人気の桜華と違って、社長の押しがなければ掲載もされない。当然、うちのモデル事務所に契約している人間じゃないと載せられないはず。承諾くらいはとるはずよ?そもそも、こんなに可愛い浴衣を着ているんだから、その辺はどういう事情?」

 

 僕もワケが分からず、白雪さんに先日の社長さんにあった件について話す。

 彼女は「そーいうことね」と納得した様子だ。

 

「つまり、桜華にからかわれて女物の浴衣を着せられた所を社長に気に入られたってことか。あー、それなら分かるわ。うちの社長って結構強引だからさぁ。まぁ、後日、ちゃんと連絡くらいするはずだけど……これ、桜華が承諾したんじゃないのかしら?雑誌掲載もモデル扱いじゃなくて、素人扱いだもの」

 

 よくある「街で見かけた美人」とかいう感じの写真だろうか、多分。

 それが僕の出回って欲しくない写真だったわけで……。

 白雪さんは携帯を取り出してどこかへと電話中。

 

「えぇ、そうですけど。はい、分かりました。春日クン、うちの社長から」

 

「……あの、春日ですけど、雑誌の件って?」

 

『ごめん、春日君の許可とれてなかったの?桜華ちゃんに聞いたらOKだって言われたからつい採用しちゃって……ごめんね?もしかして、気にしている』

 

「いえ、まぁ……慣れてますから(嫌な意味で)」

 

『でも、評判いいわよ。男の子でこれだけ美人なのも中々いないから。どう?この際、本格的にデビューしない?いい感じに売れると思うけど?その気になったらいつでも声をかけて』

 

 僕は丁寧に「遠慮させてもらいます」とお断りした。

 これ以上、女装ネタで騒がれると僕の心が折れそうになる。

 社長さんとの話を終えて僕は再び白雪さんに携帯電話を返す。

 

「春日クン、桜華には注意しておきなさい。ああいうこと、何度もさせちゃダメよ?ホントに嫌ならはっきりと断る勇気も必要なの。春日クンって桜華に甘くて優しいから」

 

「まぁ、努力します。白雪さん、ありがとうございました」

 

「いいのよ。それだけ私にとっても春日クンが可愛いってことだもの」

 

 それ、何と言っていいのやら。

 僕は白雪さんと別れて、コンビニから出ると桜華がお店の外で待っていた。

 

「遅いじゃない、どこに行っていたの?」

 

「それより、桜華、僕の写真を流出させた件について話をしましょう」

 

「ぎくっ……何でお兄ちゃんがそんな事を?」

 

「ついさっき色々とあったんだ。白雪さんから社長さんに連絡してもらって色々と聞いたら、桜華が勝手に許可したって?何でその話を勝手に進めたのかな?」

 

 しかもまだあれから1週間くらいしか経っていない。

 桜華は気まずそうな顔をして言う。

 

「ごめんなさい。あの時いたカメラマンさんが撮った写真がめっちゃくちゃ可愛くてつい……社長も話にのって、ある雑誌の特集記事になっちゃって」

 

「今後、このような事がないようにしてください」

 

「お、お兄ちゃん、何か怖い……怒ってる?」

 

「……何も怒ってないよ。ただ、こう言う事はもうやめて?」

 

 僕は彼女に静かにそう言うと、「ご、ごめんなさい」と桜華は素直に謝った。

 

「そうだ、これから食事に行こうよ。ねぇ?美味しいもの食べよう、もちろん私がおごるから、ね?怒んないでよ、お兄ちゃんに怒られると泣きそうになる」

 

 桜華はシュンッとうなだれてしまう。

 彼女はそのまま僕の手を引いてレストラン街の方へと行く。

 

「その前に……もうしないって約束できる?」

 

「約束します、もうお兄ちゃんに内緒でこう言う事しません。だから許して~っ。怒った顔をするお兄ちゃん、本気で怖いんだもん。ふぇーん。何でもするから許して~」

 

 嘘泣きだと分かっていても女の子に泣かれるのは苦手なわけで僕は溜息をつく。

 ホント、悪戯好きの義妹の行動に振りまわされてばかりいる。

 でも、どうしても桜華だけは憎めないんだよなぁ。

 

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