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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言2~白雪姫と悪い魔女~
38/80

第37章:想いの氾濫(はんらん)

【SIDE:七森春日】


 僕は朝から庭の土いじりを楽しんでいた。

 梅雨の途中、晴れ間が続くいわゆる“梅雨の中休み”。

 雨が降らないこの時期に育てている夏用の花の調整をしている。

 庭に蒔いたヒマワリの種が芽吹いているので、間引きしてみたり、流れてしまった土を直したりしている。

 

「ふぅ、これでひとまずは大丈夫。あとは何をしようかな」

 

 スコップで掘り返した土を戻していると、リビングの方から僕を呼ぶ声が聞こえる。

 

「おーい、お兄ちゃん~。どこにいるの?」

 

「ん?桜華?僕は庭の方にいるよ」

 

 そう返事するとすぐに彼女はこちらに駆け寄ってくる。

 うっ、何やら嫌な予感……。

 思わず身構えてしまう僕に桜華はにこやかな笑みを見せた。

 その微笑みに何度騙されて痛い目を見てきたことか。

 

「こんなところにいたんだ?また土いじり?」

 

「うん。今しかできないことってあるんだ。また近いうちに大雨になっちゃうし」

 

「そうだ。私の日々草、ちゃんと綺麗に咲いているでしょ?」

 

 あの桜華が花を育てている、という珍しいこともある。

 彼女が育てている日々草は色鮮やかな花を咲かせていた。

 すっかり根付いたようで、大きな花をいくつも咲かす。

 

「水やりの加減もいいし、花の状態もいいね」

 

「ちゃんと学校に行く前にあげているから。水のやりすぎ注意でしょ?」

 

「この手の花は面倒がかからない分、つい水をやり過ぎて根ぐされさせてしまう事が多いんだ。桜華はいい具合に育てていると思うよ」

 

 桜華にも花を育てる感動を覚えて欲しい。

 だが、そんなことはどうでもいいとばかりに桜華は言うんだ。

 

「で、本題なんだけど私とデートしない?」

 

「……デートという遊びにはいくつもりがないんですけど」

 

「それじゃ、遊びというデートならどうよ?」

 

「いや、意味が同じだから。どこにいくつもりなんだ?」

 

 今日は快晴、とてもいい夏に近いいいお天気だ。

 絶好の園芸日和、今日の予定はのんびりと過ごすと決めていた。

 桜華は人の都合を無視するがごとく強制的に僕を連れ出す。

 

「とある人物(従兄)から映画のペアチケットをもらったの。見に行かない?」

 

「映画?桜華って映画を映画館で見る方だっけ?人がたくさんいるところは集中できないから嫌だって言ってなかった」

 

「時と場合と状況によるのよ。私はお兄ちゃんとなら映画に行きたい。ほら、見たい映画があるって言っていたじゃない。これ、同じ映画館のならどれでも見れる奴だから行こうよ。ねぇ~、お兄ちゃんっ」

 

 甘える猫なで声を出す妹に僕は肩をすくめる。

 ちょっと可愛いと思ってしまった自分に反省。

 それで痛い目にあったのは何度目か。

 まぁ、たまには映画を一緒に見るのもいいかな。

 

「チケットがあるなら一緒に行こうか」

 

「よしっ。すぐに準備をして。上映時間まで残り40分しかないの」

 

「うげっ。それはすぐにしないといけないな」

 

 僕は園芸用のエプロンを外して慌てて室内に戻る。

 外行きの私服に着替えて、桜華と一緒に繁華街にある映画館へと向かう事にした。

 日曜日と言う事もあり、映画館には人が多い。

 

「さぁて、どれにする?お兄ちゃんの好きなやつでいいよ」

 

 話題作のアクション映画と、感涙必至と言われる前評判のラブストーリーの映画。

 ホラー系は確実に外すとして、僕はどちらにするか悩む。

 

「桜華はラブ系は苦手だっけ?」

 

「苦手なわけじゃない。ただ、幸せそうな人を見ると妙にイライラしない?何を幸せそうな満たされた顔をしてるんだって」

 

「……それ、婚期の遅れた独身OLの“ひがみ”みたいだね」

 

「うっさいなぁ。そんなこと言うと怒られるよ」

 

 妹の歪んだ心はとりあえず置いといて、僕はラブ系の方を選ぶ。

 アクション系の方が桜華の好みのはずなんだけど、特に反対はしない。

 

「たまにはいいじゃない。感涙させてもらおうじゃないの」

 

 と変な意気込みをされているのが心配なんだけどなぁ。

 僕らは映画を見るために隣同士の席に座る。

 時間が迫り薄暗くなった時、ふと僕の手に触れるものが……。

 

「何ていうか、映画館って独特の雰囲気があるよねぇ」

 

「うん。この臨場感っていうか、迫力は映画館でしか味わえない」

 

「いや、そっちじゃなくて。何で映画館ってふたっきりだとエッチな雰囲気になるのかな?ほら、よく漫画とかあるシチュエーションでしょ。ドキドキしない?」

 

 ……雰囲気をぶち壊すような発言はさけてもらえないでしょうか?

 僕はため息をつきつつも、妹に注意をしておく。

 

「余計な事は言わなくていい。ほら、始まるんだから」

 

「むぅっ。どうしてそんなに冷たいかな」

 

 そう言いながらも僕の手の上に乗せた手をどかそうとしない。

 仕方ないので僕はその手を握り返してみることにした。

 小さい女の子の手だ、桜華の手ってホントに肌もスベスベしている。

 

「ふふ~っ♪」

 

 ご機嫌な様子の桜華、しばらくはそのまま放置する。

 ようやく始まった映画はいわゆる泣かせ系の映画だ。

 余命、幾許いくばくもない限られた時間。

 その残り少ない命で最後に恋をしたい少年と幼馴染の少女との恋物語。

 彼らは思い出を作りたいとかつて訪れた懐かしい場所をめぐるという内容の話だ。

 原作が携帯小説という事もあって若者向けな内容になっている。

 周りにいるのも女子高生やカップルなど若い人ばかり。

 

「桜華は携帯小説とか読まないのか?」

 

「んー、何ていうか生々しい女の子の妄想って逆に気持ち悪くて。夢を見過ぎだ、現実を見ろって言いたくなるよ。世の中、そんな都合よく美少年と出会い恋したり、影のあるカッコイイ人に恋したりできるわけないじゃん」

 

「そんなの身の蓋もない事を……」

 

 確かにありえないなって思うことは多々あるけど。

 それが同世代の子には受けているのも事実だろう。

 

「まぁ、私は女の子みたいに綺麗な男の子に恋をしているけどね。ふふっ」

 

 桜華の言葉にちょっと照れてしまう。

 そういう言い方はずるいと僕は思います。

 映画が始まってからはふたりして黙って映画に集中する。

 物語中盤、主人公は幼馴染の少女が好きだと告白する。

 だが、相手の少女はその告白を断ってしまうんだ。

 主人公はそれが自分の命が残り少ないせいだと自分を責めて後悔する。

 しかし、実はその少女も彼をずっと好きだったのだ。

 

「すれ違いってやつだよな」

 

 ホントは好きなのに想いを受けとめてあげられない。

 それが自分の弱さでもある、と少女は嘆く。

 ふと、「ん……?」と隣の桜華を見ると何だか眠そうな目をし始めていた。

 マズイな、このままだと寝ちゃうかも。

 ここは起こすか、そのまま寝させてあげるか。

 非常にタイミング的にも気まずい選択だ。

 どうする、下手にすると爆弾の導火線に火をつけることになるぞ。

 

「あ、あの、桜華……?」

 

 とりあえず、控え目な声で呼びかける。

 

「んー、何?お兄ちゃん?」

 

 静かに僕の方を向く妹、どうやら眠気との戦いに勝利したらしい。

 

「ううん、何でもない」

 

「そう?ふわぁ……」

 

 軽い欠伸をする桜華、何とか眠気に負けず頑張って欲しい。

 そのまま物語はクライマックスへと進んでいく。

 主人公はついに病に倒れて、病院で寝たきりの生活を送ることに。

 幼馴染の少女は思い出の地で撮った写真を眺めて彼への想いを強くしていた。

 タイムリミットが迫る中、彼らはもう一度、最後の思い出の場所へと向かう。

 病院を抜け出した主人公を支えてながら少女が向かった先は海だった。

 そこは初めてふたりがキスをした思い出の場所。

 まだお互いに恋心に気づかずにいた幼い頃の思い出。

 少女は主人公に自らの想いを語る、幼き頃から好きであったと言う事を。

 好きと言えずにいたのは主人公が嫌いだったわけではなく、好きという想いに自信がなかったのだと、彼女は涙ながらに言う。

 ――例え、その命が終わっても、愛した想いは残り続けるから。

 最後は両想いを遂げて、主人公と彼女が浜辺で抱きしめあうシーンで終わる。

 そして、エンディングを迎えた。

 主人公の最後がどうなったのか、とかその辺はご想像に任せると言う感じかな。

 

「中々いい映画だったなぁ」

 

 僕は軽く伸びをして見終わった映画に満足する。

 発想はよくある内容だったけど、主人公たちのすれ違いとか見どころは多々あった。

 

「……桜華はどうだった?面白かったか?」

 

 隣の桜華に声をかけるが、反応がない。

 エンディング画面をずっと見続けている彼女。

 ようやく口にした言葉は、自分に言い聞かせるような発言だった。

 

「想いって、口にして初めて分かるものだよね。思い続けるだけで叶う夢はない。お互いに好きだって思いあっていても、ホントに好きかどうかなんて分からないもの。やっぱり言葉は必要なんだよ」

 

 桜華はジッとこちらを見つめてくる。

 その瞳にわずかばかり、涙がにじんでいるような気がした。

 そして、彼女は真面目な顔をして僕に言うんだ。

 

「――私はお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんの気持ちが知りたいな」

 

 妹の言葉に僕はドキッとさせられてしまう。

 どんな想いも言葉にしなければ何もはじまらないのだ、と……。

 

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