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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
3/80

第2章:妹の絶対宣言《後編》

【SIDE:七森春日】


 昔から僕は妹という存在に頭があがらないというか、逆らえなかった。

 文句をいい返すと必ず暴力で仕返しされる。

 強気というか、自分の思い通りにならないことがムカつくらしい。

 子供の頃からそうだったんだ。

 桜華の我が侭に振り回されてきた。

 

『兄貴は私の奴隷よ。覚えておきなさい』

 

 平然と義兄に言い放つ義妹。

 僕は強く反論できず、10年以上もの間、困らせられ続けていた。

 しかし、その中でも今回の出来事は僕を大いに悩ませ、驚かせる。

 

「――決めたわ、今日から兄貴が私の彼氏よ」

 

 彼女はそう言うとソファーから身体を起こして僕に抱きついてきた。

 他人から見なくても明らかにおかしい行為。

 僕は動揺しつつ、何とかその腕から逃げようとする。

 

「ダメよ、逃がさない」

 

「いや、これはまずいだろ。桜華、離してくれ」

 

「離したら逃げるでしょ。逃げない保証がない限り、離してあげないの」

 

 相変わらず無茶苦茶だと言いたい。

 口に出して言えないので、心の中で声を大にして叫ぶ。

 ……ストレスで将来の髪の心配をせずにはいられない。

 僕が抵抗すればするほど、桜華は身体を近づけさせる。

 

「兄貴は私と恋人になるのが嫌なわけ?」

 

「嫌とかの話に入る前に肝心なことが抜けているだろう。僕らは兄妹だぞ」

 

「義理の兄妹で法律上は問題ないわ」

 

 倫理や社会的に問題があるとは思わないのか。

 そういうのは漫画やドラマの中だけの話だ。

 実際に義兄妹で交際しているという話はほとんど聞いたことがない。

 

「……と、とりあえず、僕から離れてくれ。ちゃんとした話をしよう」

 

 妹を押し倒しているかのように見える(事実としては妹に襲われている)体勢で居続けるのは精神的にもよろしくない。

 

「逃げないと約束できる?私を裏切ると痛い目にあわせるわ」

 

「どうせ、逃げても追いまわされるだけだし。逃げる気はないよ」

 

 そもそも僕に逃げる場所なんてない。

 ……お互いにソファーに座りなおして改めて会話をすることに。

 妹に交際を申し込まれたという話題。

 どう考えてもおかしいし、どう考えても普通じゃない。

 正面に座った彼女は軽く腕を組みながら微笑する。

 

「彼氏ができない理由を考えてみたの。彼氏なら誰もいいって、最近まで思っていたわ。でも、違う。私にとって恋人とは使い勝手のいい駒だと思うのよね」

 

「恋人の言葉の意味を考えた方が……」

 

「恋する人。でも、将来的には奴隷になるでしょう」

 

 それは間違えた認識だとはっきり言ってあげたい。

 恋人=都合のいい奴隷と考えているのではないだろうか。

 しかし、今の僕には発言権がないので黙る。

 

「よく考えてみたらギリギリ合格ラインに達成している男が目の前にいたのよ。だから、兄貴、私の彼氏になりなさい」

 

 彼女の発言は自分本位の考えだ。

 世界は間違いなく彼女を中心に回っている。

 そう信じて疑いのない、ある意味、すごいことではあるな。

 

「発言してもよろしいでしょうか?」

 

 挙手して発言の許しをもらう、何か兄として僕って情けない。

 

「いいわよ、許可しましょ。で、何が言いたいわけ?」

 

「……自分に恋人ができないのは桜華の責任であって、僕を巻き込まないで欲しい。兄妹としてならいいけど、さすがに恋人なんて無理だよ」

 

「私は兄貴の反論は認めていないの。“はい”か“イエス”で答えなさい」

 

 それ、どっちも肯定じゃないか。

 いつもならここで僕が折れるのが常だが、さすがにこればかりは承服しかねない。

 

「無理だ。ダメ、絶対に無理。断固拒否させてもらう」

 

「兄貴もずいぶんと生意気言うようになったじゃない。この私に刃向うなんていい度胸よ。覚悟はできているのよね?」

 

 ぐっ、ダメだ、この後に待つひどい結末が容易に想像できてしまう。

 こうなったら、言うだけ言ってしまおう。

 どうせ痛い目にあうなら言うべきことを言う。

 

「桜華は努力してから言ってくれよ。自分が誰かに好かれるように努力しよう。それがなければ誰もキミを好きになれない。容姿がいいだけじゃダメなんだ。人間として中身もしっかりしないと……誰もキミを愛せない」

 

 ちょっと強い言い方かなと思う。

 だけど、これくらい言わないと彼女は気付かないはずだ。

 桜華はムッとして、こちらに強烈な睨みをかます。

 

「誰も私を愛せない?言うじゃない、どこで私はこのバカ兄貴の躾けを間違えたのかしらね。今までの私は兄貴に対して甘すぎたのかも」

 

 ……火に油を注ぐ、もとい、ダイナマイトの導火線に火をつけてしまったらしい。

 これは非常にまずい……ここ数年は彼女の本気の怒りを見ていないだけにまずい。

 彼女は僕の胸倉をガッとつかんで顔を近づけて言い放つ。

 

「兄貴は私のものよ、その辺を勘違いしないでよね」

 

 初めから結末なんて同じなんだ、どうあがいても彼女の意志をねじ曲げられない。

 絶対宣言、自分の決めたことは曲げることがない。

 昔からそうなんだ、僕のすべては彼女によって支配される。

 あれは僕が7歳の時だった。

 近所の友達がファーストキスをしたとか話していたらしくて、

 

『何であの子の方が早くキスしたのよ、ムカつくわ』

 

 そう言って僕は彼女に無理やりキスをさせられた。

 ファーストキスだったのに、好きな人とするつもりだったのに呆気なく義妹に奪われた。

 

『何だ。キスって全然気持よくないし、つまんない』

 

 それが無理やりキスした感想、普通に泣きたくなるよ。

 さらにその3年後、妹はどこで覚えてきたのか、

 

『世の中にはキスの進化系、ディープキスって言うのがあるらしいわ』

 

 ……誰だよ、僕の妹に変な言葉を教えた奴は。

 当時の僕はまだそのキスの意味も知らずにいた。

 

『や、やめてよ、桜華……んぐっ!?』

 

『いいから黙って。確かこうして舌で……』

 

 互いの舌を絡めあう大人のキス。

 それまた無理やりさせられて、10歳でディープキスを体験してしまった。

 

『……まぁまぁね』

 

 ごちそうさまでしたとばかりに、にっこりと微笑む義妹。

 この悲しみは今でも心に傷を残しているのだ、うぅ……。

 あの頃からずっと僕は妹に逆らえない。

 今も変わらず、その上下関係は崩れていない。

 

「彼氏なら僕以外の子と付き合うべきだ。普通はそうするだろ。それに僕らの関係は恋愛関係じゃない。それは付き合うとは呼べない」

 

 拒否し続ける僕に妹は大きな瞳で見つめる。

 いつのまにか接近して互いの吐息が聞こえ、瞳に相手を映す距離になっていた。

 かつて僕のファーストキスを奪った桃色の唇。

 

「……兄貴ってやっぱり女顔よねぇ。睫毛も長くて可愛いわ」

 

「せめて、中性的と言ってください」

 

 可愛いなんて男が言われても嬉しくないセリフだ。

 

「そんなのはどうでもいいから、素直に私の彼氏になりなさい」

 

 彼女は細い指先で僕の頬を撫でる。

 

「私の恋人になることがそんなに嫌なの?今よりはいい扱いにしてあげるのに」

 

 それはぜひ……ハッ、いけない、何をちょっと迷ったんだ、僕。

 しかし、待遇の改善は魅力的ではある。

 

「……ぼ、僕は桜華を愛してないから無理だっ」

 

 つい言ってしまった後に後悔する、これはまずい。

 僕の一言が彼女を傷つけた……。

 うつむき加減な妹、僕はどうすべきか悩む。

 

「そう、そういうこと言うんだ。じれったいな、もうっ」

 

 だが、そんなの事は全然気にすることもなく、妹は僕にその柔らかな唇を触れさせる。

 

「……んむっ、ぁっ……」

 

 強引なキスに僕の思考は停止する。

 まただ、また彼女にキスをされてしまった。

 

「初めから兄貴に拒否なんてする権利なんてないのよ」

 

 6年ぶりのキスに彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 うぅ、どうして力づくでも断りきれないんだ。

 

「それじゃ、決まりね。今日から私の彼氏ということでいいでしょ」

 

「……」

 

「あれ、何も返事無し?無言の肯定でいいの」

 

 否定だと何度言えばいいのだろう。

 下手に承諾するのも嫌なので黙りこむことにした。

 

「さぁて、決まったところで、もう一回キスしよ」

 

 またこちらに唇を間近にする、僕は最後の抵抗とばかりに手でその口を押さえる。

 

「むぐっ。……逆らうつもり?邪魔するの?」

 

「桜華、こういうのはよくないと思うんだ」

 

「私がしたいことを止めることは誰にもできない」

 

 そのまま本日2度目のキス、いつもと違う女っぽい表情にドキッとさせられる。

 ……だから、桜華にときめいちゃダメでしょ、僕。

 外見が美少女なだけにその誘惑に僕は頭を抱えるしかない。

 

「それじゃ、今日からいつも以上に兄貴をこき使わないと」

 

「ちょっと待って。僕の待遇改善は?」

 

「何の話?私はそんな事、一言も言ってないでしょ?よろしくね、兄貴」

 

 しれっと言い放つ義妹、僕は泣く泣く従うしかなかった。

 ……人生やりなおせるなら僕は迷わず妹に尊敬してもらえるような兄になろう。

 

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