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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第26章:義妹恐怖症

【SIDE:七森春日】


 目が覚めた僕は両親からの説明で自分がどのような状況に置かれているのか理解した。

 桜華とのいざこざで、階段から足を滑らせた僕はそのまま転げ落ちた。

 頭を強く打ったこともあり、しばらくは安静にしなければいけないらしい。

 詳しい検査は明日の朝という事となり、今日はもう寝ることになった。

 

「お医者さんの話だとまだ詳しい検査をしないと分からない。場所が場所だけに今はゆっくり休んでね」

 

「ありがとう、母さん。しばらく入院しなきゃいけないなんて……母さん達も帰っていいよ。迷惑かけてごめん」

 

「いいのよ、貴方が無事でよかったわ。春日、桜華も心配していたのよ?」

 

 桜華、その名前に僕は自分でも想定外に身体が震える。

 今は“桜華”という名前を聞くだけでキツイものがある。

 

「桜華に伝えておいてくれないかな。しばらくは会いたくない、病院に来ないでって」

 

 その発言に両親は驚きを隠せないでいる様子だ。

 

「え?お、桜華に……?もしかして、春日が階段から落ちたのって?」

 

「違う、違う。あれは僕の不注意。階段から足を踏み外したんだ。それと別件で、今はちょっと会いたくないんだ。そう言ってくれるかな?」

 

 母さんは唖然とした様子ながらも「分かったわ」と言う。

 仲のいい兄妹をずっと演出してきたので、驚くのは無理もない。

 桜華の陰謀で近所でも評判の仲良し兄妹。

 まさか一方的な主従関係が築かれているとは予想もしていないはずだ。

 ていうか、きっと真実を知ったらショックで母さんが寝込むかもしれない。

 彼女は何とも言いにくそうに僕の方を見つめながら、

 

「……あ、あの、春日。桜華と喧嘩でもしているの?」

 

「そういうんじゃないよ。喧嘩、ではないと思う」

 

「そう。それなら時間が解決してくれるのかしら。ほら、桜華って昔から春日にベッタリだったじゃない。だから、きっとすぐに仲直りできるわよね?」

 

「だといいんだけど……」

 

 実際、それは難しいかもしれない。

 僕と桜華、問題は今回の事だけじゃない。

 恋愛の問題、兄妹の問題、いろいろと問題は山積みにされているから。

 そのひとつひとつを解決しないと僕らはきっと前には進めない。

 

「桜華はお兄ちゃんの春日が大好きなのよ。また仲のいい二人を見たいわ」

 

 母さん達は今日はとりあえず夜も遅いので帰るという事になった。

 ひとり病室に眠る僕、慣れない枕だと寝れない性質だ。

 時間はあるので考え事をすることにする。

 強打した頭の痛みはずいぶんと楽にはなってきた。

 それでも、まだ十分痛いのは痛い。

 頭以外は右腕もひどい打撲(全治一週間)、左足は軽い捻挫(全治3日ぐらい)と大した怪我ではなくすんだ。

 他に骨折としかしていたら泣くしかないね。

 骨には異常なし、と聞いた時はホッとした。

 まだ頭の中に損傷がないか、詳しい検査は明日の朝になる。

 先生は大丈夫そうだと判断していたから安心はしている。

 それよりも僕には考えなければいけないことがある。

 それは桜華の事だ、あの子と向き合う事を避けて逃げた。

 その結果、運悪く僕は階段から落ちることになってしまったんだ。

 あの時、ちゃんと桜華の気持ちを受けとめていたらどうなっていたんだろう?

 確認事項、どうも桜華は僕が好きらしい。

 以前に聞いてもまだ信じられずにいたけども、今日の出来事でそれが本気なんだと嫌でも理解させられた気がする。

 あんな風に必死になる桜華を僕はあまり見たことがない。

 桜華はちゃんと伝えようとしたのに、はぐらかしてきたのは僕だ。

 彼女の想いから逃げて、目をそむけ、なかったことにしようとした。

 僕は桜華の事が嫌いなわけじゃない。

 だけど、好きにはなれない。

 僕はあの子と兄妹の関係でいたかったんだ。

 ずっと憧れていた理想的な兄妹。

 僕らはそれに近づけていたはず。

 

『私の想いはどうなるの?好きだってこの気持ちはどうなるのよ?“兄妹”って言葉だけで片付けられちゃうわけ?』

 

 だが、それは桜華にとっては望まないことだったようだ。

 

『私は兄貴の事、これまで兄とかそんな風に思って来ていない。ずっとひとりの異性だった、大好きな男の子だった!!それなのに……――』

 

 桜華、キミの気持ちは僕にとって――。

 ボーっと天井を見上げながら僕は思う。

 

「……病院って静かだとちょっと怖いなぁ」

 

 気弱な僕としてはこういうシチュエーションは勘弁してほしい。

 電気も消されてほぼ真っ暗な病院の部屋は怖い、眠りにつくまで別の恐怖に悩まされた。

 


  

 

 翌朝は脳にダメージがないかの検査、無事に終了。

 いろんな検査をしたけど結果は問題なしという事だった。

 1週間の入院生活、それが終われば普通の生活に戻れるそうだ。

 とりあえずは家族揃って一安心。

 僕は個室の病室のベッドで横になっている。

 やれやれ、ずいぶんと面倒なことになってしまっている。

 両親にはホントに迷惑をかけているなぁ。

 窓から差し込む夕日、今日は検査だけで1日が終わってしまった。

 

「ごめん。何か大変なことになって……」

 

「春日は気にしなくていいの。今は怪我を治すことだけを考えなさい」

 

 そう言って花束を母さんは花瓶にいれる。

 綺麗な花が何もない病室に癒しを与えてくれる。

 やはり、花はいい……何も言わなくてもそこにいるだけで癒されるから。

 

「それじゃ、今日はもう帰るわね。大丈夫?」

 

「僕は大丈夫だよ、それじゃまた……」

 

 母さんが帰ったのと入れ替わりに、仕事帰りの信吾お兄ちゃんがやってきた。

 その手にはスーパーの袋に入ったフルーツがある。

 

「うぃーすっ。元気にしているか?ほら、お土産もあるぞ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。元気にしているよ」

 

 彼はそれを適当なところに置く。

 一通りの話は母さんから聞いているらしい。

 

「よかったな。これで記憶障害にでもなってみろ。えらいことになっていたぞ。頭は大事なんだからちゃんと守らないと……とはいえ、今回は不慮の事故か。しょうがないって言えばしょうがないな」

 

「信吾お兄ちゃんも心配かけてごめん」

 

「いいってことよ。無事でよかったじゃないか。ほら、それよりも暇だと思って雑誌を買ってきたぞ。これとかどうだ?」

 

 彼が僕に手渡した雑誌の中を見ると、綺麗な女の人の水着姿が……。

 

「なっ、何なの、この雑誌?」

 

「いや、普通の男が入院中に読むような雑誌だが?心配するな直接的エロではない。看護婦さんに嫌われないように、間接的なエロだ。お前、こういうの読まないのか?いかん、それはいかんぞ、春日。男として女体に興味を持てないようではいけない。春日、たまには女の神秘に触れてみろ」

 

「意味不明だし。これはパス、他にはないの……?」

 

 これ系の雑誌は読まないので極力パス、ていうか看護師さんに見つかりたくない。

 

「……園芸、ガーデニング用の雑誌っていうのか?一応、それも買ってきてるが?」

 

「ありがとう、信吾お兄ちゃん。これが読みたかったんだ」

 

 定期購読している園芸雑誌、今月号はまだ買っていない。

 僕はそれを喜んで手に取り眺めることにする。

 

「おいおい……美女の水着に興味なくて、園芸雑誌に喜ぶとは、分かってはいたが春日は変わり者だな。まぁ、人の好みはそれぞれ。文句はないが、男としてどうかと思うぞ」

 

「こういうのは苦手なんだ」

 

「せめてこういうので女に免疫つけておけよ。とりあえず、これは置いておく。夜な夜な読んでくれ。さて、それはそれで置いといてだ。本題に入るとしよう。桜華の話だ、昨夜、お前が暗殺されそうになった事件についてなのだが……」

 

 暗殺ってそれはさすがに言いすぎな気もする。

 桜華に殺意はなかったような……あれは事故だと僕は信じたい。

 

「……だから言っただろ。ヤンデレには気をつけろ、何をするか分からないって。お前に忠告してやったのに、それを無視して、さらに桜華を追い詰めるようなことをして……。ああいう性格の女はキレたら何をするか分からないぞ」

 

「桜華はそういう子じゃない。ヤンデレさんとかじゃないから」

 

「告白を迫って怪我させた。愛情が憎しみに変わる瞬間。まるで俺の過去のようだ」

 

 肩をすくめる彼に僕は苦笑いを浮かべた。

 だから、信吾お兄ちゃんのは二股してた自業自得の事件でしょう。

 これとそれは関係ない事件だと思うんです。

 

「まぁ、春日も今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたか?『もうお前なんかに会いたくない。俺の目の前に現れるなっ!』と桜華に言ったんだろ」

 

「言ってないってば。ただ、桜華とは少し距離を置きたいだけだって」

 

「それであの拒絶宣言か。桜華を嫌いだと勇気を持って発言したお前はすごいぞ」

 

「え……?何それ?僕はそんな事は言ってない」

 

 両親に伝えてほしいと言ったのはしばらく距離を置きたいとだけのはず。

 

「僕は桜華が嫌いだって一言も言ってないよ?」

 

「な、何だとっ!?これだけの事をされてもまだ桜華を嫌いにならないのか?お前は神か?どれだけ心の広い奴なんだよ、マジですげぇな」

 

 お兄ちゃんは呆れた感じにも似た言葉で僕に言う。

 

「嫌いになんてなれないよ。桜華は僕の義妹だもの。でも、怖いんだ。桜華が怖い、という意味じゃなくて桜華の本気の想いを受けとめるのが怖い。今はその勇気がないから、しばらく考える時間が欲しい。それだけなんだ」

 

「そういう意味かよ。当の本人は存在すら否定されたと思ってショックで枕を涙で濡らしているって言うのに。お前さ、ホントは桜華の事、好きだろ?」

 

「どうかな?1番知りたいのは僕自身の桜華への気持ちかもね」

 

 今はまだ答えは出ず、でも、いつかは出さなければいけない答え。

 僕の中に桜華を愛する気持ちはあるのだろうか?

 

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