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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第25章:行き過ぎた愛情の果てに

【SIDE:七森桜華】


 深夜のリビングで私は絶望に沈んでいた。

 がっくりと肩を落として後悔ばかりしている。

 

「春日を階段から突き落としたのは桜華、お前で間違いないんだな?」

 

「……そうよ、私がしたの」

 

 春ちゃんが救急車で運ばれて、両親は病院へ、入れ替わるように信吾さんが家に来た。

 私は病院には行けず、家に残って留守番をしていた。

 彼はソファーに座ると私にすべてを話させる。

 

「――私が、私が……春ちゃんを殺したんだ」

 

 胸にこみ上げるのは寂しさと悲しみだけ。

 どうして私は、あんなことをしてしまったの?

 自分でも分からない衝動があった。

 今はそれを後悔することしかできない。

 

「桜華の気持ちは知っていたが、なぜ、あんなことを……。春日に対して殺意があったのか?」

 

「だって、私に振り向いてくれなかっただもん。どんなに頑張っても、好きになってくれない。ああするしか、なかった……ああするしか私には……。好きだから、大好きだから……」

 

 私の愛はいつのまにか歪んでいたの――。

 肩を震わせる私の肩を信吾さんは軽く叩きながら、

 

「……で、いつまでこの寸劇は続けるつもりだ?まぁ、マジでやばいかもしれなかったわけだが」

 

「先に前フリしてきたのはそっちでしょ。誰が殺意があったかよ、あるわけないじゃないっ!バカを言わないでよ!縁起でもない」

 

「こっちは寝ようとしてた所を呼び出されてきたんだ。いきなり、春日が階段から落ちて意識不明だっていうじゃないか。ついに桜華がやっちまったんだ、と直感で理解したら実際にその通りだったんだ」

 

 ええいっ、この人は無意味に人をムカつかせる。

 私は唇をとがらせながら否定する。

 

「ふんっ。春ちゃんを殺すつもりなんてない。事故よ、事故。当然、殺意もない」

 

「愛が憎しみに変わる。人は愛するがゆえに愛する人を手にかけることもある……」

 

「ちょ、ちょっと待て。もしかして、本気で私を疑っているの?事情は全部話したじゃない。それでも、私に殺意があって突き落とした、と?」

 

 彼の疑惑の目に私は慌てて否定した。

 

「……交際を迫って、逃げる春日を追いかけて運悪く足を滑らせて階段を転げ落ちた?それも十分、立派な犯罪だ。人はお前の事をヤンデレという」

 

「うっ、ひっく……違うもんっ、私は春ちゃんを殺してないもんっ!」

 

 春ちゃんに怪我をさせたのは私だ。

 嗚咽を漏らしながら、私は春ちゃんの安否を心配する。

 

「泣くな、俺の前で泣かれても困る。……ったく、お前が何でここで留守番なのか分かるか?あまりにもパニック状態だったから、叔父さんたちも心配で俺を桜華の傍にいるように命じたのさ。ちょっとは落ち着け」

 

「せっかく、落ち着きかけていたのにそれをぶり返させたのはアンタのせいだ!」

 

「……それは失礼。俺もちょい反省気味だ、言いすぎた。それで春日はまだ意識が戻らないらしい。頭を強く打ってるらしいからな。大事をとって検査もしなくちゃいけないそうだ」

 

 ガーンッと私は再び絶望の海を漂うように沈む。

 もしもの事が春ちゃんにあったら私はどうすればいいの?

 

「春ちゃん……死んじゃうの?」

 

「そんなに深刻な状況だとさすがに俺も冗談を言ったりしないぞ。医者の話だと明日には目を覚ますだろう、と叔父さんから連絡を受けている」

 

「私も病院に行く。すぐに車を出して?」

 

「これは叔父さん達からの厳命だ。今のお前を春日に合わせるわけにはいかない」

 

 何で、そこまで頑なに拒まれるわけ?

 私がふくれっ面をしても信吾さんは連れて行ってくれない。

 

「両親からの厳命、私が行くとダメな理由を教えなさい」

 

「お前が病院で騒ぐと普通に迷惑だからだろ」

 

「……ひどっ。私だってね、TPOはわきまえているんだからっ!」

 

 さすがに春ちゃんが倒れて騒ぐほど馬鹿じゃない。

 皆して私の事を何だと思ってるの?

 

「今だってこのありさまだ。否定できるのなら否定してみろ、どうだ?」

 

「違うもん……私は騒いだりしないもん。ちゃんと春ちゃんの心配しているし」

 

「いきなり静かになりやがって。もう12時半だ、子供はもう寝ろ」

 

「そんなの寝られるわけないでしょ!」

 

 こんな時にのんきに寝られるわけがない。

 私はコップに新しいアイスコーヒーを入れて持ってくる。

 

「……ふわぁ、それじゃ俺は寝るわ」

 

「我が家で寝るなっ!自分の家に帰れ」

 

「あのなぁ、俺は今日はここで留守番の役目もせねばならないんだ。文句があるなら叔父さんに言ってくれ。桜華の監視と留守を頼む、と言われている。こっちも明日はちゃんと仕事があるんだ。寝させてくれ」

 

 ごろんっとソファーに横になる信吾さん。

 客室に布団を敷くのが面倒らしい。

 

「……春ちゃん、私の事、嫌いになるかな?」

 

 しばらくの間、静まり返るリビングに私は耐えきれずにそんな事を言う。

 

「それは春日次第だ。アイツの性格的に言えば『あれは事故で仕方がなかった』と水に流してくれそうだが。どうだろうな、よく分からん」

 

「何で……?許してくれない場合もあるっていうの?」

 

「自分が逆の立場ならどうするよ。好きでもない義理の兄に交際を迫られ、階段から突き落とされて許せるか?俺なら無理だね。ていうか、俺自身のヤンデレ事件の古傷が痛む。人の嫌な過去を思い出させんじゃねぇよ、ったく……」

 

 春ちゃんの立場になって考えると私のした事は多少は強引だったかもしれない。

 だけど、どう考えてもあの拒否の仕方は向こうにも非がある気がするの。

 

「だって、普段は物事に流されてばかりの春ちゃんが私との交際に関しては絶対に了承しないのよ?おかしくない?」

 

「いや、普通にそれだけお前の事が嫌いっていうか、妹にしか思えないだけだろ」

 

「私を好きにならない春ちゃんが悪いのよ。何度告白していると思うの?こっちは最初のを含めて3回も告白しているの。それなのに、兄妹でいたいとか、妹だからとかそんな都合のいい言葉で逃げて……」

 

 私のもの言いに信吾さんは大きなため息をつく。

 クッションに顔をうずめているので表情は見えないけど呆れた顔をしてるに違いない。

 

「お前も一方的なんだよ、ちょっとは春日の事を考えてやれ。こればかりは春日に同情せずにはいられない。俺の予想、春日は桜華を許さない。多分な……げふっ」

 

 私は変な事を言う彼にクッションを投げつける。

 最悪のシミュレーションはしたくないってば。

 

「そういう暴力的なところから改善しろ。最近はちょっとばかし大人しくなっていたんじゃないのか?せっかく、春日の印象も好印象だったのに自分からそれを壊して……一体、お前は何がしたいんだ?」

 

「いくら好印象でも、恋愛感情に結びつかないなら意味ないの。春ちゃんは言うにことかいて、理想的な妹とか言い出すのよ。そんな事のために努力しているわけじゃないっての。そう思うと、つい……」

 

「つい殺意が芽生えてやっちまったわけだ?」

 

 私はもう一度クッションで攻撃して「違うって言ってるでしょ」と信吾さんに言う。

 

「とりあえず、桜華。人生の先輩である俺からのアドバイスだ。大人しくしておけ。黙っておけば春日も自然とお前を認める。何ていうか、積極すぎるんだよ。肉食動物も狙いをつけて襲いかかるまでは大人しいだろ」

 

 後先考えずに、襲いかかってばかりじゃ草食動物は仕留められない。

 まぁ、何となく言いたい事は分かる。

 私は告白するタイミングを間違えていたらしい。

 

「これから先、どうすればいいの?人生の先輩として何か助言は?」

 

「んー、無理だな。春日は諦めて他にいい男を探せ」

 

「あんまりふざけたこと言うとクッションで窒息死させるわよ?」

 

「そういう強い物言いが春日をビビらせて、より一層距離を作る気がするが。……ん、電話だ。叔父さんからだな」

 

 彼は起き上がるとテーブルに置いてある携帯電話に出る。

 

「はい。こちらは問題ありません。桜華ですか?今は落ち着いてます。それで、春日の方は……?え?目が覚めた?」

 

 やった、春ちゃん復活ッ!

 とりあえずホッと一安心、意識が戻らないままだったらどうしようかって思ってた。

 だけど、どうやらそれだけで終わりそうにはないらしい。

 

「……はぁ、その辺の事情は聞いてますが、そうですか。分かりました、それじゃ、桜華には俺から説明しておきます。えぇ、今はそちらを優先してください」

 

 何やら複雑な表情で電話を切る彼。

 私はすぐに春ちゃんの容体を確かめる。

 

「それで、春ちゃんはどうなったの?」

 

「先ほど意識は取り戻したらしい。記憶障害はないが、強い頭部打撲のせいで1週間は入院だそうだ。……で、問題はこれからだな」

 

「よしっ、そう言う事ならすぐにでも春ちゃんに会いに……」

 

「桜華。残念な報告だ、春日から直々のメッセージがあったらしい。『桜華には当分会いたくない。病院には来ないでください』と伝えて欲しいってさ。叔父さん達がものすごく驚いてたぞ、お前らは表面的に仲のいい兄妹だったからな」

 

 私はその衝撃的な発言に愕然というか震えが止まらない。

 は、春ちゃんが私に会いたくない?

 

「……え?あれぇ、よく聞こえなかったんだけど?」

 

「ゆっくりと言おうか?春日は当分の間、お前には会いたくないって。病院にも来るな」

 

 何度聞いても同じ内容、私の恋は破れたの。

 

「うぇえーん。春ちゃんに嫌われちゃったの?私、人生やりなおしたい」

 

「泣いても遅いわ、ヤンデレ妹。お前の行動が原因だ、よく反省しておけ。ていうわけで、お前ももう寝ろ。枕を涙で濡らすがいいさ」

 

 口ではそう言いながらも彼は私を気にしてか、ポンポンっと頭を軽く撫でる。

 そのまま部屋に戻った私はベッドに沈みこんで動けずにいた。

 春ちゃんが無事だったのは嬉しい。

 それなのに、素直に喜べないのは春ちゃんの拒絶反応だった。

 私の事を嫌いになっちゃったの、春ちゃん……ぐすっ。

 私はその夜、ショックのあまりわずか2分で悩む間もなく眠りについた。

 

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