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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第24章:絶対宣言、再び!?

【SIDE:七森春日】


 桜華に押し倒されるのは2度目だ。

 僕は自分の非力さを嘆きながら何とかしようと足掻く。

 若干の腕力の優位性などこの状況を打破するのには役に立たない。

 必要なのは彼女を拒む強い意志。

 ……それを行うための心の強さも必要だ、まずそれが無理。

 下手に桜華を刺激すればまた、以前の彼女に戻ってしまう。

 せっかく、僕としては理想的な妹に桜華がなってきたというのに。

 何とかしなければいけない。

 だが、どうすればいい?

 思考を巡らせながら僕は桜華の対応を見守ることにした。

 

「お兄ちゃんには私が女だという事を実感させてあげないとダメみたい」

 

「え、遠慮するよ。僕は十分、桜華は女の子だって思っているし」

 

「それならどうして私に触れてくれないの?私はいつだってお兄ちゃんを求めている。それを拒絶するのはいつもお兄ちゃんでしょう」

 

 ストレートな好意に僕は言葉を詰まらせてしまう。

 鈍感と呼ばれている僕でもさすがに桜華の態度を見て、気づかないわけはない。

 それが本気かどうか、問題はそこなのだ。

 僕に覆いかぶさろうとする彼女から逃げるように距離をとる。

 

「……ほら、また逃げた」

 

「それは、仕方ないじゃないか。桜華、こんな事はやめよう。話ならちゃんとしよう」

 

「いくら話しても無駄よ。お兄ちゃんとの対話は無意味。もはや、実力行使でしか私達の関係は発展しないと判断したの」

 

 実力行使以前に僕の気持ちは無視なのか?

 強引な彼女に僕はある一言を言ってしまう。

 

「うっ、重い……」

 

 覆いかぶされていたのでつい出てしまった一言。

 実際にはそれほど重くはないし、身体のふれあいによる緊張もあったのだが。

 

「……っ……!?」

 

 愕然とした桜華の表情、パッと身体を引き離すと何かを言いたそうに口を開ける。

 しかし、何も言わずにうつむいてしまった。

 

「お、おい?……桜華?」

 

 僕はようやく体を起こすと完全に沈み切った桜華がそこにいる。

 

「……重いって言われた、重いって。私、まだ痩せた方がいい?」

 

「違うってば、そういう意味じゃなくて」

 

「それじゃ、どういう意味なの?それ以外の意味で重いなんて……ぐすっ」

 

 まずい、何だか桜華が本気で泣きそうな気配だ。

 女の子に“重い”は禁句、何気ない一言でグサリと突き刺してしまったらしい。

 

「桜華はやせているし、スタイルもいいから気にしないで」

 

「……慰めはいいの。本音で言われた言葉がすべてよ」

 

「そんなにショックを受けなくてもいいじゃないか。僕は別に桜華を傷つけたかったわけじゃないんだから……って、人の話を聞いてるのか?」

 

 桜華は僕の言葉が届いていない様子。

 

「何よ、自分がちょっと綺麗な容姿しているからってさ」

 

「いや、何で僕の話になるわけ?」

 

 不機嫌な彼女はやがて僕にその怒りをぶつけ始める。

 気まずいので話題を戻すことにした。

 

「桜華。その話は置いといて……」

 

「置いといて?どうするの?」

 

「そ、そうだ、桜華。実は……えっと」

 

 適当に話題を変えようにも僕は恋愛の話をすると言っているので他に話題はない。

 あまり恋愛の話をするのは苦手だ。

 

「お兄ちゃんは私を女として見ていないのね」

 

「……まぁ、可愛い妹としては見ているよ。最近は特にその気持ちが大きくて……桜華、僕はキミを妹として大好きなんだ。その関係、壊したくはない。大事にしていきたい。そう思っているんだ」

 

「だから、私を女として見てくれない?」

 

「そういうのじゃなくて、僕は桜華とは兄妹としていたいんだよ」

 

 それ以上の関係になりたくはない。

 兄と妹、理想的な関係を築いていきたい。

 この気持ち、桜華に理解してもらえるだろうか?

 

「……私を女として愛してくれない、と」

 

「妹としては愛している。それじゃダメなのかな。居心地のいい関係。兄妹としていい関係を続けていこうじゃないか?」

 

 静かに語りかけるように僕は桜華を説得する。

 そうすることしか僕にはできないんだ。

 桜華の反応が気になるが、何も言わない。

 ただ、じっと宙を眺めている彼女。

 やがて、静かに彼女は僕に「そう……」とだけ言った。

 僕は桜華を傷つけているのかもしれない。

 肩を震わせた彼女、僕がその顔を覗き込むと、

 

「――ふざんけんなっ、バカ兄貴ッ!!」

 

 久しぶりの桜華の怒声が室内に響き渡る。

 僕はビビって壁際に引き下がる。

 

「さっきから聞いてれば、何をふざけたことを言ってるわけ?妹?兄妹?何をいまさら……私達は実親も違えば、血の繋がりも何もないただの他人でしょ」

 

 兄貴なんて呼ばれるのはホントに1ヵ月ぶりくらいだった。

 可愛く「お兄ちゃん」と呼んでくれた桜華の姿はそこにはない。

 やばい、完全に怒らせた!?

 

「兄貴、私の事、妹としてしか見れないとか言ってるくれるじゃない。私の想いはどうなるの?好きだってこの気持ちはどうなるのよ?それもただ、“兄妹”って言葉だけで片付けられちゃうわけ?」

 

「そんなつもりは……」

 

「私は兄貴の事、これまで兄とかそんな風に思って来ていない。ずっとひとりの異性だった、大好きな男の子だった!!それなのに……――」

 

 ぶち切れた桜華の想いの叫び、僕の心を締め付ける。

 瞳の端に涙の雫を浮かべながら桜華は言うんだ。

 

「兄妹なんていらない、私には兄も妹も必要ない。私は……“春ちゃん”が好き。ひとつ年上で、男のくせに女の子みたいに美人な顔をして、花が好きで普段は頼りなくて、でも優しい春ちゃんが好きなの」

 

 僕はその時になってようやく彼女の言う“春ちゃん”の意味を理解した。

 春ちゃんと彼女が僕をそう呼ぶ時は主に女装っぽい姿をさせられた時、女の子みたいだとからかわれた時だ。

 あの時、桜華は僕を兄としてではなく春日として接してくれていたんだ。

 だから、春ちゃん……僕をひとりの男として見ていた証拠。

 

「私の片思いでしかないの?春ちゃんは私を好きだって気持ちは微塵もないの?どうすればいいのよ、私をどうすれば女の子として見てくれる?」

 

「桜華……僕は……」

 

「私は頑張ったよ、努力したつもり。春ちゃん好みの女の子になろうって、嫌がることもやめて、趣味も合わせようとしたり、頑張ったのに……。それでも、その結果が理想的な兄妹関係?ふざけるのもいい加減にして、私はそんなの望んでない」

 

 桜華は僕に強い言葉で言い放つ――。

 

「いいから黙って私の恋人になりなさいっ!!私を好きになれっ!」

 

 絶対宣言、再び……。

 小さな頃から骨の髄まで染み込んだ僕らの主従関係。

 

「春ちゃんに拒否権なんてないの。黙って私に従いなさい。男のくせにウジウジと詰まらない言い訳並べて……。見ていて鬱陶しいの。男ならはっきりしろっ!!」

 

「……だから、僕は桜華とは付き合えない」

 

「誰がそこをはっきりしろって言ってるの!!!」

 

「ひっ、ご、ごめんなさい」

 

 桜華に叱られると僕はつい気持ちが萎縮してしまう。

 壁際に追い詰められて責められ続ける僕……とりあえず逃げよう。

 今はお互いに熱くなり過ぎている、頭を冷やす時間が必要だ。

 

「逃げるな、ていうか、逃がすか――」

 

 身動きしただけで僕が逃げると悟った桜華は手足を掴む。

 

「お、お互いによく考えてから……」

 

「考える時間はもう終わったの。シンキングタイムは終了。春ちゃんに残された選択は私の恋人になるか、彼氏になるか、そのどちらかしかないの!!」

 

 どちらも同じ意味だ、こんなの恋人じゃないよ。

 僕はわずかな隙を狙い、慌てて外へと逃げ出す。

 

「あ、こらっ!?春ちゃん、待てぇっ!」

 

 とりあえず、一階にいる両親のところへ行こう。

 親の前では桜華は借りてきた猫のように大人しくなる。

 二階にある僕の部屋の扉を開けて、廊下へと出る。

 

「ちっ、逃がすかぁ!!」

 

 桜華は僕を逃がすまいと追いかけてくる。

 その顔が怖い、このまま捕まったら確実に既成事実を作られてしまうに違いない。

 

「春ちゃんは私の恋人になるの。それ以外は認めないんだからっ」

 

運悪く、階段近くで僕は桜華に服を掴まれて捕まってしまう。

  

「捕まえた、この私から逃げられると……ぁっ……!?」

 

 だが、その体勢が悪かったのだ。

 服を掴まれたことで僕は身体のバランスを崩して倒れこんでしまう。

 

「うわぁっ……!?」

 

 桜華が服から手を離すと同時に階段から真っ逆さまに僕は転げ落ちる。

 世界がスローモーションに動くような感覚。

 あちらこちらに身体をぶつけて僕は下へと落ちていく。

 

「うっ……ぐぁっ……」

 

 頭を強く打って意識が朦朧とする僕は床に倒れこんでいた。

 ぐっ、頭が痛い……視界が真っ暗になって何も見えない、僕はどうなって……?

 

「は、春ちゃん……?ね、ねぇ?春ちゃん、しっかりしてよ?春ちゃんっ!」

 

 悲痛な桜華の声だけしか聞こえなくなり、そして、僕は……――。

 

「お願いだから、返事をしてよ!!春ちゃんーっ!!」

 

 力尽きるように僕はそのまま意識を失った――。

 

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