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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第14章:肌と肌を重ねて

【SIDE:七森春日】


「――兄貴には、私が“女”だって事を身を持って教えてあげるわ」

 

 桜華は不敵な微笑を浮かべ、僕をベッドに押し倒していた。

 抵抗と言う抵抗もできずにいる僕。

 

「……あ、あのぅ、桜華。これは非常にまずいので、やめてくれ」

 

「まずい?一体、何がまずいというのかしら?」

 

「いや、だって、この状況は……」

 

 僕は何とかしようと身動きするが、上から押さえられると行動なんてできなくて。

 唯一回避するには突き飛ばすくらいしかない。

 それをするには僕にはあまりにも勇気がなかった。

 

「どうも兄貴は私に対しての自覚が足りていない。自分が誰のものなのか、そして、私と兄貴の関係を今日こそ明らかなものに……」

 

 桜華は本気だ、このままじゃ僕は非常に危険だ。

 

「恋人にはなれないっていつも言ってるじゃないか」

 

「……なれない?まだこの状況でもそんな事を言うの」

 

 甘く香るのはシャンプーの香り。

 桜華の匂い、こんなにも間近に顔を近づけさせるのは久しぶりだ。

 幼い頃と違って、ずいぶんと綺麗に女の子らしくなった。

 僕の頬を触れてくる彼女。

 

「……お、桜華?」

 

「ホント、こういう時ぐらい男の顔をしてよ。今の兄貴、男の子に襲われそうな女の子の顔してるわ。ふふっ、“春ちゃん”可愛いっ」

 

 立場逆転、いつものことながら桜華と僕の関係は変わらない。

 普通の兄と妹の関係じゃないよ。

 

「あ~、もうっ、ホントに兄貴は鈍感よね。言いたくなかったけど、ちゃんと正面から言わないと分からないのかな」

 

「分からないって、何の話だよ」

 

「私の気持ち。今日のデートは最悪だったわ。もうあんな辛い思いはしたくない。私以外の誰にも振り向いて欲しくない」

 

 囁きかける桜華、その瞳がどこか寂しげに見えるのは気のせいだろうか。

 

「……というわけで、素直に私のものになりなさい」

 

「それは無理……って、顔が近い、近いってば」

 

 彼女は何を企んでいるのだろう。

 

「春ちゃん。私は常々思っていたわ。可愛いくて、大人しくて、妹みたいなお兄ちゃん。そんな春ちゃんのこと、私はずっと……」

 

「妹みたいなお兄ちゃん……僕、人生やりなおしていいですか?」

 

「こらっ、拗ねないで人の話を聞け。今、告白している最中なんだからっ」

 

 ……告白?

 桜華が言ったのは告白という言葉だったのか?

 僕に覆いかぶさったまま、彼女は珍しく真剣な様子で言う。

 

「いい?ちゃんと聞きなさいよ。私は春ちゃんが好きなのよ。愛しているの。OK?」

 

「ノーセンキュー。ぐぁっ!?」

 

 容赦なく思いっきり桜華のひじが僕のお腹に突き刺さる。

 だけど、この返答の選択は自分でも間違えたと思う。

 桜華にそう言えばどうなるかなんて安易に想像できるはずなのに。

 

「即答するな、しかも、否定な言葉で。何でよ、何がいけないの」

 

「えっと、けふっ、その……好きって本当?」

 

「当然じゃん。これまでの態度はどう見ても、義兄が好きな義妹でしょ?一般的にそこまで好意を持たれてるのに気づかないって鈍感すぎるわ」

 

「鈍感?僕が?違うから、気づかせるつもりないだろう。さらに言えば、今までの人生を振り返っても桜華が僕に好意を持っていた素振りもなければ、行動もなくて、逆に今そう堂々と言いきれる桜華にびっくりしてる」

 

 この子のその強気と言うか自信のあるところを少しばかり自分も見習いたい。

 せめて、妹に睨まれても怯まない強さが欲しいです。

 

「……それは春ちゃんが私を女として見ていなかっただけよ」

 

「でも、高校に入って彼氏探しで合コン三昧していたのは?あれは僕以外の相手を探していたんじゃ……」

 

 そもそも僕らが付き合うとかそういう話になったのも彼女の行動から始まっている。

 僕が彼女を信用できないわけはたくさんあるけど、その中のひとつだ。

 

「……彼氏が欲しいのも恋愛がしたいのも普通のことでしょ」

 

「それは僕に固執していたわけじゃない、と?」

 

「逆よ。私には春ちゃんしか男に見えていない。少しは意識して欲しかった、嫉妬でも何でも、春ちゃんに意識して欲しかったのよ。そうしたら、何よ。まさか合コン会場に春ちゃん自ら来るなんて想像もしてないかった」

 

 これまでの合コン……桜華は彼氏を積極的に求めているように見えていた。けども、本気じゃなくて、ただ僕に意識させるだけのパフォーマンスだったというのか?

 

「正直に言ってみて、実は合コンにハマっていただろ」

 

「うぐっ。それは……まぁ、思っていたより楽しかったのは事実だけど。気持ちの意味で本気にはなっていない。それは本当よ。誰でもよかったんじゃない」

 

 彼女は今まで見せたことのない優しい顔で言う。

 

「世界中で私には春ちゃん以外の男なんていらないの。これは本当の事よ」

 

 そう言えば和音ちゃんも今日のデートの時に言っていたっけ。

 

『何だかホントに好きな人がいるくせに告白できずにいるみたいな気がするんです。それを他人で誤魔化して、結局、それじゃ満足できないような。もどかしさみたいなのを感じています』

 

 桜華の気持ちは本当に僕に向いているのか……?

 

「……というわけで、春ちゃん。覚悟はできているの?」

 

 いきなり僕の上に身体を抱きつかせてくる桜華。

 柔らかな膨らみが当たり、僕はビクッと反応する。

 

「ちょ、ちょっ、ちょっと待って!?僕はまだその件に関する返事をしていない」

 

「あら、春ちゃんの答えは必要?決まっているじゃない。私が告白までしてあげたんだから、ただ頷けばいいのよ」

 

 横暴すぎる態度に僕は唖然とさせられる。

 ……世界が自分を中心に回っている、その自分中心な考えを少しは改めて欲しい。

 だが、それは桜華の強引な態度だけではなかった。

 

「いいから、頷いて……それ以外の答えは聞きたくない」

 

 怖いんだ、桜華は僕に拒絶されることを恐れている。

 わずかに指先が震えているのに僕は気付いた。

 強気で自信満々な彼女でも、ここで否定される事は傷つくらしい。

 そりゃ、彼女も女の子だし、当然と言えばそうなんだろうけど。

 

「とりあえず、僕から離れてよ。……これじゃ話もできない」

 

「話なんて必要ない。私が望んでいるのは一言だけよ」

 

 桜華は僕の事が好きだと言った。

 それなら僕はどうなんだろう。

 ずっと悩み続けても答えの出なかった疑問。

 苦手意識が強すぎて女の子として見れていないのが現状だ。

 それでも、僕は覚悟を決めて決めなきゃいけない。

 答えを出して、伝えなきゃいけないだ。

 

「桜華、よく聞いて欲しい。僕は……桜華の事は、その……」

 

「……っ……」

 

 僕の胸元に顔をうずめてくる桜華。

 ホントに何も聞きたくないとだだをこねる素振りにも見える。

 触れる肌と肌、彼女は女の子として成長している。

 

「僕は桜華を女の子として……見れない。妹としてしか思えないから」

 

 言って、言ってしまった。

 ここで場慣れした男ならもっと傷つけない言葉を告げるはず。

 でも、僕にはそれしか言えないんだ。

 それが桜華を傷つける結果になっても言うべきところははっきりしないといけない。

 

「桜華は可愛くて女の子としては魅力的だよ。それは認める。けどさ、その、好意があったというけど、僕は桜華に意地悪され続けてトラウマになってるというか、はっきり言って苦手なんだよ……だから、ごめん」

 

 彼女からは何も反応がない。

 

「僕は桜華に対してそれ相当の好感を持てていない。だから、恋人としては付き合えないんだ。これが僕の答えだよ」

 

 桜華の気持ちは理解した、だからと言って、すぐに僕の想いは揺れ動かない。

 想いってそう単純なものじゃないだろ。

 僕を好きだと言ってくれた桜華の気持ちは嬉しくはあったけども。

 

「桜華、ごめん。それでも、僕は前向きには考えたいよ。桜華の気持ちは嬉しいから。これから少しずつ、桜華の事を理解していきたいんだ。それで、もしも、桜華の事を好きになれたら僕の方からキミに告白する。それじゃダメかな?」

 

 ゆっくりと僕は桜華に語りかける。

 しかし、彼女に反応は以前としてない、傷つけたからだろうか?

 

「あ、あの、桜華さん……もしもし~?」

 

 そっと顔を覗き込んで見ると、桜華は「すぅ」と寝息を立てていた。

 ……はい?もしかして寝ちゃったのか!?

 すっかりと僕を抱きしめながら心地よさそうな眠りにつく桜華。

 まさかの展開に僕は緊張していた事もあり、ドッと疲れる。

 

「ふぅ、何だよ。寝ちゃったのか……はぁ」

 

 しかし、それはそれでいいのかもしれない。

 妹を傷つけるのは心がとても痛むから。

 

「仕方ない、僕も自室に……自室に、どうやって戻ればいいんだ?」

 

 押し倒されたまま眠られているので、身動きできないことに変わりはない。

 ここで無理に起こせば僕には再び地獄が待っている。

 最善の選択はこのまま桜華と一緒に眠ることしかない。

 

「……今日は長い1日だったな。ふわぁ、僕も疲れたから寝るか」

 

 それにしても桜華が僕を好きだったなんて、意外すぎてびっくりした。

 改めて考えないといけないな、この子との付き合い方ってやつを。

 

「おやすみ、桜華」

 

 妹とふたりで同じベッドで眠るなんて子供の時以来だな。

 そんな事を思いながら僕も眠りにつく。

 妹の本音を知れたからだろうか、傍にいてもいつもと違って安心できたんだ。

 

 

 

 

 ……春日が眠りについてから数十分後。

 それまで身動きをしていなかった桜華の瞳がゆっくりと見開く。

 

「ははっ、こんな簡単な狸寝入りに引っかかるなんてね……」

 

 寝たふりをして、そう笑う彼女だが、その瞳の端には涙がにじんでいた。

 

「妹としてしか見れない、キツイなぁ……。私は今までしてきた行動は全部、彼を苦しめてるだけだった。そりゃ好かれるわけないか。ダメだな、私も。詰めどころか最初から全然ダメじゃん」

 

 淡々と言うが、桜華にとって春日に拒絶された事はショック以外の何ものでもない。

 身体の震えを感じつつも、彼女はゆっくりと眠る春日の顔を見つめる。

 

「……ぅっ……告白させてやる、絶対に春ちゃんから好きだって告白させてやるんだ。私の彼氏なんだよ。私が以外の女を恋人になんてさせない。もうあんなに辛いのは嫌なの。私を本気にさせたこと、後悔させてあげるわ」

 

 嗚咽交じりにそう呟く桜華はそっと春日に小さな唇で口付ける。

 幼い頃からの想いを告白したというのに満たされない心。

 その時になって桜華は気付く。

 春日が自分を理解してくれていなかったこと。

 それと同じように自分も春日を理解しようとしていなかったことに。

 

「私は……私は春ちゃんを諦めたりしない」

 

 そう強く心に決めて、彼女は春日への込み上げる想いを抑え込む。

 告白が失敗して、否定されたその事実は桜華の心にとげのように付きささる。

 寝たふりという逃げをつかったのも、そうしなければ現実を受け止めきれなかったから。

 

「私のこと、早く好きになりなさいよね。春ちゃん……」

 

 涙交じりでも強気な物言いは相変わらずで。

 しかし、彼女にはその夜は眠れぬ夜になった。

 春日にした己の行動を振り返り、愛情の向け方を間違えていた事に気づいたから。

 

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