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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第11章:シークレット・デート《後編》

【SIDE:七森春日】


 僕にとって、本当の意味でのデート初体験。

 妹の桜華ではなく他の女の子と出かけるなんて初めてだ。

 僕は二宮さんに一つの頼みごとをした。

 それはデートというものが本当はどういうものなのかを知りたいということ。

 そんな突拍子もない提案を彼女は受け入れてくれた。

 

『私に協力できることなら任せてください』

 

 その代わり、僕は彼女の事を“和音”と呼んで欲しいと言われた。

 何だか女の子を名前を呼ぶのは照れるものがある。

 さてこのデート、実は裏がある……僕の考えじゃないんだけど。

 信吾お兄ちゃん相談したら、一度他の子とデートしろと言われた。

 それで彼が妹の反応を見てこれからどうするべきかアドバイスをくれるらしい。

 案の定、僕の後ろには桜華がついてきていた。

 ちらりと後ろを見ながらも、僕は気付いていないふりをして映画館へと向かう。

 

「どうかしたんですか、先輩?」

 

「ううん、何でもないよ。和音ちゃん、今日の服装、可愛いね」

 

「これ、お気に入りの奴なんですよ。……春日先輩、かなり有名ブランドの服を着ているんですね?すごいです」

 

 和音ちゃんは感心するように服を見るが、これは妹の買ってくれたものだと言えずに笑って誤魔化すしかない。

 僕はこういうのに疎いけど、やはりそれなりに服装は効果があるようだ。

 

「……ふふっ、今日はちゃんと男の子に見えますよ」

 

「ありがとう」

 

 これでも女に見えるなら人生を考え直すよ。

 僕らは駅前ビルにある映画館に入ることにする。

 

「先輩って今までデートとかしたことがなかったんですか?」

 

「これまで、好きになった子もいなかったし、何より僕は女の子が苦手なんだ」

 

「女の子が?でも、部活は女の子がいっぱいいますよね?」

 

「なんて言うか、花好きな女の子は傍にいてもいいんだ。和音ちゃんも話しやすいからかな。普通に接することができるから大丈夫だよ」

 

 ……こんなこと、女の子に言うべきじゃなかったかも。

 なんて思っていると彼女はそっと僕に微笑んでくれる。

 

「先輩、可愛いです。あ、これは女の子っぽいじゃなくて、性格って意味で」

 

「それ、褒められているのかな」

 

「褒めてるんです。それじゃ、先輩の女の子の苦手脱却のために協力しますよ」

 

「協力に感謝する。どの映画を見ようか?」

 

 和音ちゃんはとてもいい子だと思う。

 気配りもしてくれるし、接し方も穏やかだ。

 ……何より、傍にいて安心できるというのは僕にとっては驚きだ。

 こんな子が妹だったらよかったのに、なんてね。

 僕、女の子が苦手だと思っていたんだけど違うのかな。

 ただ、桜華が苦手なだけなのかもしれない……そんな気がしてきたんだ。

 


  

 

 和音ちゃんの選んだラブロマンスものの映画を見終えた僕らは映画館を出る。

 甘ったるい映画とかあんまり見ないけど、たまにはいいかな。

 

「和音ちゃんはこういう映画とか好きなんだ?」

 

「えぇ、人並みには。それに映画とか家で見るより映画館で見る方が好きなんです」

 

「あぁ、それは僕も分かる気がするよ」

 

 映画館の方が臨場感があるというか、迫力もあるし、雰囲気もいい。

 桜華はDVD派なので一緒に映画は見に来ない。

 後ろを振り返ると、人ごみに紛れたのか、帰ってしまったのか桜華の姿はない。

 うーむ、これは作戦的にはどうなんだろう。

 

「どうしたんですか?忘れ物でも?」

 

「ううん。何でもないよ。それじゃ、次の場所に行こうか」

 

 いないならいないで、デートというものを楽しませてもらう。

 

「あっ、そうだ。デートらしく手でも繋ぎます」

 

「それは……えっと……」

 

「ほらっ、先輩。ちょっとは自分から積極的にならないとデートでは駄目ですよ」

 

「そうかな。協力してくれるというなら、それもありかな」

 

 桜華がいなくなったという気の緩みもあり、僕はそれをOKする。

 女の子と手を繋いで歩くなんて桜華以外では当然初めてだ。

 和音ちゃんって結構デート慣れしているのかな。

 その辺を聞いてみることにする。

 女の子ってこういうこと、話してくれるか分からないけどさ。

 

「え?私ですか?まぁ、中学の時には付き合ってる男の子ぐらいいましたよ。でも、中学の恋愛らしい事しかしてませんから。もしかして遊び慣れてるように見えました?それは誤解です。とはいえ、先輩よりは色々と知ってるつもりですよ」

 

 和音ちゃんは可愛く笑って答えてくれた。

 そっか、彼女の方が経験値が高いだけで、特別慣れているわけではない様子。

 

「妹の桜華はどうなんだろう?ほら、合コンとか行きまくってる様子だし」

 

「あー、あれですか。どうでしょう。私の知る限りでは彼女の恋人が出来たって話はきいていないですよ。私とは中学の頃から付き合いあるんですけど、彼氏って今までいなくて。本人は作りたそうな雰囲気しているのに、何だか……」

 

 そこで彼女は意味深に言葉を止めてしまう。

 

「気になることでもあるのかな?」

 

「いえ、何だかホントに好きな人がいるくせに告白できずにいるみたいな気がするんです。それを他人で誤魔化して、結局、それじゃ満足できないような。もどかしさみたいなのを感じています。何でしょう?お兄さんとして何か気付きません?」

 

 うぅ、桜華の事に関しては不思議なことが多すぎてよく分からない。

 

「そういえば、最近、何だか妙な雰囲気です。男の子でもできたのかなぁ」

 

「高校に気になっていそうな子はいないの?」

 

「……さぁ、桜華って年上好きっぽいですからね。同級生に告白されても興味なさげです。合コン好きなのにその辺がちょっと怪しい、何でしょう?」

 

 友人でさえ彼女の好きな人に気づいていないようだ。

 ……桜華は僕を好きだと言っている。

 それを僕は信じられずにいる。

 今までの彼女の態度、それを考えれば好きかどうかなんて微妙すぎる。

 ずっと桜華のオモチャでしかなく、それ以上ではないと思っていた。

 ……僕って、実際どう思われてるんだろ。

 僕らはふたりでウインドウショッピングを続けていた。

 妹とのデートは強制的に何度かさせられていた。

 しかし、和音ちゃんと一緒に繁華街を歩くと、今まで違った風に思えた。

 

「あっ、この猫ちゃん可愛いっ」

 

 ペットショップで猫を眺めている彼女。

 すっかりと僕の腕を掴んで恋人のようにふるまっていた。

 初めは緊張していたけど、次第に僕も慣れていく。

 恋人とか興味はなかったけども、いいかもしれない。

 女の子が苦手なはずの僕がそう思うのだから。

 

「先輩は猫は好きですか?それとも犬派?」

 

「僕は犬が好きだな。自由気ままな猫は少し苦手かも」

 

「何となく先輩らしいです。私は猫ちゃん大好きで家でも飼っています」

 

 和音ちゃんはよくペットショップに来るらしい。

 動物好きな趣味が合って僕らは話がはずむ。

 

「前はモルモットを飼っていたんですよ。きゅっきゅって可愛く鳴くんです」

 

「僕は動物は家で飼えないから憧れていたなぁ」

 

「ダメだったんですか?」

 

「ダメと反対されていたんじゃないけど動物を飼うって言う覚悟がなかった。その代わり、植物を育てていたんだ」

 

 家の庭は今や僕専用の花畑になっている。

 動物より植物にハマっちゃったんだよな。

 

「うわぁ、この子、すごく毛並みがいいです。ふわふわで抱き心地よさそうです」

 

 彼女の視線の先にいるまるでぬいぐるみのような犬。

 愛らしい瞳、尻尾をふってご機嫌な様子を見せている。

 

「可愛いですっ。やっぱり犬もいいですよ」

 

「和音ちゃんはホントに動物が好きなんだ」

 

「はいっ、大好きですよ」

 

 僕は和音ちゃんの方が可愛いとか思ったり。

 僕らはケージの中にいる動物たちを眺めながら話を続けていた。

 

 

  

 

 デートを終えて駅前で別れる前に彼女に僕は一言、「ありがとう」と告げた。

 本来の目的とは違ったが、デートというものがどういうものなのか、恋人とは何なのか、いろんなことに興味を持てたし、参考になったデートだった。

 

「私の方こそ、とても楽しかったです。七森先輩の知らなかったことも色々と知れましたから……。先輩の役に立てたようでよかったです」

 

 和音ちゃんと繋いでいた手を離すと、何だかその瞬間がさびしく感じられた。

 何だろう、こういう気持ちは初めてだ。

 夕焼けに染まる駅前で僕は言う。

 

「ホント、楽しいデートだったよ。それじゃ、また学校でね」

 

「はいっ。今度も楽しいお話を聞かせてください」

 

 楽しいデート、これでお終い……のはずだった。

 

「――おやぁ、仲よくデートとはいい御身分ね、兄貴。それに和音も……」

 

 びくっとふたりしてその低い女の子の声に震えあがる。

 後ろを振り向くと、そこにいたのは――。

 

「手をつないでラブラブですねぇ、おふたりさん?」

 

 こちらを睨みつけて怒った顔が怖い桜華。

 もしかしなくても大ピンチってやつですか。

 雰囲気を悟ったのか、和音ちゃんは逃げるように「さ、さよなら」と去ってしまう。

 残された僕、なぜか桜華がいきなり笑顔になる。

 

「さぁて、兄貴。覚悟はもちろんできているのよね?」

 

 せっかくのデートの余韻をぶち壊された上に、僕は家に帰ってから待つ地獄を想像して震え上がるしかなかったのだ。

 ……あぁ、やっぱり僕は桜華が苦手だよ。

 

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